夕暮れ時に……

 水平線に沈む太陽が、全てをオレンジ色に染める。

 この時間はこの高台から見える景色が最高だ。オレンジの町を一望できる。

 ベンチに腰掛け、すぐ手前に見える、港に目をやる。

 港では人魚のこどもたちが、帰ってくる漁師の乗る小舟に、チョッカイをだして楽しそうに笑ってる。

 漁師も、困ったように笑いながらあしらう。そしたらこどもたちは、キャッキャキャッキャと、楽しそうに逃げていく。

 ……あ、一番星だ……。

 ドワーフたちの鉄を打つ音が止んでそんなに時間は経っていないのに、もう、宴会の音が聞こえる。

 ドワーフたちを相手に、高台のすぐ下で酒屋をしているエルフたちは、忙しそうに食事を作ったり、酒を運んだりしている。

 家の仕事を手伝っているアイツもまた、忙しそうに駆け回ってる。でも、楽しそうに笑ってる。

 一軒だけ人間の店がエルフの店の中に混じったりして、ちゃんと儲かるのかな

 ……いつからだろう、アイツの顔をちゃんと見れなくなったのは。

 家も隣で、年も一緒で、ちっちゃい頃は毎日遊んでたのに。

 日が完全に沈んだ空の、オレンジとムラサキの間を見つめる。

 なんであんなヤツのことを好きになっちゃたんだろう……。

 こっちの気も知らないで、気さくに話しかけてくるアイツがキライだ。……うじうじして、何もできない自分が、もっとキライだ。

「おっ! 居たんだ」

「! ……えっ! どうして!?」

 どうしてアイツがここに居るの!?

「んー、ちょっと休憩。一段落ついたからさ」

 近寄ってきて、自然に隣に腰掛けてくる。

 ……こっちの気もしらないで……。

「あ……あのさ……」

「ん?」

「前から、思ってたんだけどさ……」

 少し間を空けて、呼吸を整えて……言うんだ!

「エルフの店の中に混じって、人間の店って儲かるの?」

 ……また、逃げてしまった。

「好みがはっきり別れるかな、嫌いな人は嫌いだけど、一度好きになったひとは、ずっと好き」

「……明日も学校だよ? それに明日提出の課題もあったよ。どうせやってないでしょ」

「数学だけでしょ? 数学は好きだから余裕、余裕。国語とかがあったらヤバかったけど……」

「国語もあったよ。評論解いてこいってやつ」

「……あ」

 好きだよ。そう一言、勢いで言ってしまえばよかった。

 ……顔を見るのも勇気がいるんだ。好きだなんて、言えない。だけど。

 もう一度、ちゃんとアイツの顔が見たい。

 オレンジの空はなくなって、薄暗い空の中に明るい月が顔をだす。

 勇気を振り絞って顔をあげ、アイツの目を正面から見つめる。

「あ……あの、その……ありがと」

 久しぶりに見たアイツの顔は、真っ赤だった。






お題

・ファンタジー ・恋 ・嫌い

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