こわいもの

 段々と涼しく過ごしやすくなってくる立秋の頃の、くっきりと映り始める星空を見るたびに思う。ここへ来て良かったと。

 ここは人里離れた山奥にある寺で、修行僧として日夜修行に励んでいる。

 うちは人が少なく、僕が一番の下っ端だけれど、先輩方も優しく色々と助けてくれる。それに、お師匠様もまだ住職になったばかりらしく、今年入ってきたばかりの僕に、互いに一年生だね。と、気にかけてくれる。……本当にここへ来て良かった。

 今夜は不気味に感じるほど月が大きく明るい。そんな月に呼応するかのように星々も燦然と輝いている。上空は風邪が弱いらしく、数少ない雲がゆったりと流れている。地上も似たように、風が全くと言っていいほど風が無い。なんだか、何かが起こりそうな夜だ。

 ガサッ! と音が急にして、ビックリして振り向く。音がしたのは枯れ木のところからだ。山奥のこの寺を囲う木々の中で、何故だか一本だけ立ち枯れてしまっている木、こんな時間帯に見れば化け物に見間違えるような木、そこから音がした。

 ガサガサガサッ!! とまた音がして、何かが枯れ木の後ろから出で、森の奥の方へと行ってしまった。

 影ではっきりとは見えなかったが、ソイツは二本足で立っていて、明らかに僕よりもガッチリとした体型だった。そして、その手には鈍く銀色に光る刃物の様な物が握られていた。

「……何なんだ、あれ……?」

「ん? どしたの?」

 縁側に向かってくるお師匠様が声をかけた。いつもの様な、歳に似合わない軽い感じだったが、僕にとってはそれが安堵へとつながった。

「お師匠様、お伺いしたいことがあるのですが。幽霊や妖怪、魑魅魍魎の類は、この世に存在するのでしょうか?」

 今見たものがなんなのか確かめたく、早口に質問した。

 お師匠様は、うーん。と少し考え、珍しく真剣に仰った。

「私には分からない。いるかいないかも見当がつかない。しかし、お寺の裏は墓地だし……君は何か見たのかい?」

「はい」

 僕は、今見たものを事細かに話した。必要でない事も喋ったかもしれないが、とにかく誰かに話さないと気持ちが悪かった。

「やはり、僕の見間違いでしょうか」

 するとお師匠様は、なーんだ! と軽い口調に戻って。

「それは幽霊や妖怪、魑魅魍魎の類じゃないよ。

 ここは山奥だし、墓地もたくさんあるだろう。それに、もともと麓の村の伝承に、この山に人を喰らう鬼が出るという話があるらしい。あ! あくまでも伝承だけどねぇ。だからこの山には誰も近づきたがらないんだ。そしたら、この山に重罪を犯した犯罪者がこの山に逃げるようになったんだよ。君が見たのはその類じゃない?」






お題

・寺 ・見間違い ・枯れ木

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