恐怖! ゴブリン襲来!

 祭の日、突然街を襲ったゴブリンの軍勢。ただし、奴らは闇雲に押し寄せてきたわけではなかった。軍陣を整え、策を練り、周到に計画された侵入作戦にのっとって、深く静かに侵攻してきたのだ。

 邪悪で欲望剥き出し。しかも人間を食べる凶悪なゴブリンたち。だが、奴らは、ある恐ろしい目的があって人間の街を襲っていた。

 対する人間側の切り札は「人間兵器グロワール」という謎の武器。果たしてそれは如何なる代物か。


 本作の見所は、なんといってもゴブリンたちだ。
 ゲームやファンタジーでは、最初にやっつけられる、いわゆるザコキャラ。ところがもし、こいつらがきちんとした指揮官を得て統率され、集団で襲ってきたらどうだろう? それは極めて恐ろしい魔物の集団足り得るのではないか? その着眼点から書かれたものが、本作「人間兵器のグロワール」である。

 作者はゴブリンの襲来という設定とともに、町での攻防戦を描写する目的で広大なマップを作成し、そこに敵と味方を配置して、まるでチェス盤上の戦いのごとく、本作のバトルを描いている。

 そしてさらに、人間側とゴブリン側に、多くのキャラクターを配置し、それぞれに個性とドラマ、役割を割り振り、物語に複数の縦糸を編み込みつつ、激しい戦闘という金糸を横糸に配し、絢爛たる戦場絵巻をここに織りあげて見せた。

 物語の冒頭では語られない登場人物たちの背景が、ゴブリンとの戦闘の中で徐々に露わになって行き、それが次なるバトルへの布石として配されてゆくプロットは秀逸。
 そして、作中で描かれるバトルも、泥臭く、残酷で、なかなかこういった物に昨今は出会えなかったため新鮮かつ懐かしい。

 本作の魅力はなんといっても、ゴブリン描写。低級の魔物であるゴブリンを、恐ろしく、残虐で、かつ低能で欲望に正直に描いている。この人間とは全く異質の生命体に与えられた独特の息吹、この異質さが、得も言われぬ恐ろしさを孕んでいる。

 本作の題名にもなっている「人間兵器」が、物語前半で投入されるも、いきなり縛りを受けてしまう展開も読んでいて興奮する。

 え? これどうなるの? と最後まで息もつかせぬ展開の異色のバトル・ファンタジー。

 あなたも、ゴブリンに恐怖せよ!

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