世界が破滅しても、わたしは主婦でありつづける
- ★★★ Excellent!!!
致死性ウィルスにより、人類のほとんどが死滅した終末世界で、一人の主婦が淡々と家事をこなす物語です。主人公の主婦は、すでに家族を失っているにもかかわらず、淡々と決められた時刻に起きて毎日の仕事を続けているのです。
彼女の友達はロボット犬のみ。やがてそのロボット犬のバッテリーが消耗しきったため、彼女は新しいバッテリーを求めて街に行き、わずかに生き残った人々と出会うのです。
とにかく、社会が破滅してしまったあとの終末世界の描写と、淡々と規則正しい生活をこなす主婦の対比が心を打ちます。恐ろしい世界観の中に灯る、あたりまえの家庭のありふれた生活。それを粛々と維持する主婦。それはまるで一幅の絵画のよう。
その荒涼とした風景画に、作者の身体に脈々と流れるSFの血が、熱い魂を吹き込んでいます。読者はどうしても中盤に仕掛けられたギミックに目がいってしまうと思いますが、それとともに、描かれた世界の不思議な美しさ、しずかに終末を見つめる主婦の心情も堪能してもらいたい。
素晴らしいSFです。