パンデミック後の静かで歪な世界を生きる主婦の物語

新型コロナが記憶に新しいですが、私は2009年の新型インフル騒動を
今も覚えています。買い物のために外へ出ると、人の声がなくしんと静まり返り、
春だというのに真冬の張りつめた空気を感じました。

この作品は、その時と同じ空気を感じます。
家族の中でただ一人生き残った主婦が、ロボット犬と共にかつての日常を
意識的に繰り返す様は、薄氷の上を歩いているようで背筋がソワリとします。
普通であろう、普通に振舞おうとする姿から伝わってくる狂気。
だけどその行動の意味を知った時、今まで見えて来たものとは別の光景が
私たち読者の前に広がります。

短編で淡々としていますが、とても濃く、胸の中に光景の焼きつく作品です。

その他のおすすめレビュー

香久乃このみさんの他のおすすめレビュー202