この孤独と静謐に満ちた世界で、「彼女」はただ、「日常」を続けようとする

 圧倒的な孤独感と静謐感。読むほどに心に沁みわたってきました。

 舞台はパンデミックによって文明が崩壊した後の世界。
 そんな「静か」になってしまった世界で、主人公は「主婦」として「今まで通り」のルーティンを守っていこうとします。

 傍らにいるのは犬型ロボットのロビーのみ。そして「夫」のことなど思い出しつつ家事をこなし続けることに。

 この過程が本当に、強い孤独感を想起させられます。
 「日常」をなぞろうとすればするほど、きっと「失われてしまったもの」や「変わってしまったもの」が浮き彫りになるだろうことが予想されます。

 「誰かのため」の行為のはずが、その誰かはもういない。
 そんな現実の中で、彼女の身には「更なる喪失」が訪れそうになります。そうして静かな町の中を散策するという感じが、たまらないくらいの寂しさをもたらすことに。

 終盤で明かされる彼女の「とある秘密」など。それが見えたことで、「これから先」のことについても自然と想像力を刺激されることになりました。

 彼女のこの「日常」はこれからどれだけの時間続けられることになるのだろう。やがて、文明が再び回復して賑やかになる時が来るのだろうか。

 自然と情景が浮かび、「彼女」の胸の内に共感せずにいられない、しんみりと心に迫って来る作品でsた。

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