「史実である千姫事件の裏にどんな隠された事情があったのか」そんな歴史の隙間を埋める、大胆な解釈を堪能できる短編時代小説。
描写は簡素で潔さがあり、そこがむしろキャラクターへの興味・関心をそそられた。
何しろ柳生宗矩がやたら格好いいのである。家紋にまつわる秘話など知らなかったが、語り口が上手すぎてこれが史実なんじゃないかと鵜呑みにしてしまいそう。
さらにリーダビリティも高い。軽やかな筆致でありながら骨太なストーリーは、読み易さと読後の満足感を両立させており、日頃はこのジャンルを苦手とする方にもお薦めできる。
また物語の核心部分も良く考え抜かれている。時代劇などで奥義としての「無刀取り」は有名だが、今作では何と立ち合いに至る前に事を収めてしまう「秘剣」捌きが冴えわたる。真の強さとは敵を作らない事、ということかもしれない。
作中の二人の侍、柳生宗矩も対する坂崎直盛も、大戦が終結して平時には身の置き所がなく、どこかに死に場所を探していたのではないかと、物語とは別枠で感じた。
柳生は魅力的な人物が大勢おり、作者の手による別な作品にもまだまだ期待できそうである。
歴史に疎い私の中では「柳生」といえば、徳川家の剣術指南。
宮本武蔵?的なヤツか、『魔界転生』で知っているぐらい。
笠をかぶった眼帯の人。
要するに、柳生十兵衛なのですが汗
宗矩のお話です。
ネタバレになるので、方向性としては『魔界転生』的なヤツと、表現させていただきました。
内容はものすごく濃密で、一万字以内で、主な登場人物二人と、徳川秀忠のお人柄が凝縮されたエピソードになっていることに、いつもながらに恐れ入りました。
みんな優しいし、誰にも理があるのが、いいと毎度ながらに思います。
そして語彙力。
「滂沱」とか。
その単語、どこから出てきたんだよ!?と。
展開や人物描写もさることながら、文章表現まで洗練されている作品だと思います。
毎度ですけどね。
坂崎直盛は徳川家康の孫娘にあたる千姫を炎上する大阪城から助け出した。
その褒美として千姫を嫁にもらうはずだったのだが、彼女は本多忠刻の元へ嫁いだ。
それに対して話が違うということで直盛は千姫を強奪しようとした、と言われているのだが、本当にそうなのだろうか?
この作品はそういう着眼点で物語が展開されていきます。
直盛の友人である柳生宗矩が彼の元へ真意を確かめに行くのですが、そこで美しい人間ドラマが描かれ、感動してしまいました。
直盛がキリシタンだったことや家紋の二蓋笠が物語の真相にうまく絡んでいて大変感心させられました。
非常にクオリティが高い物語なので、是非読んでみてください。
『二蓋笠(にがいがさ) ~柳生宗矩、千姫事件を捌く~』は、「坂崎出羽守千姫事件」という史実の“空白”に、柳生宗矩という男の眼差しと友情を通してひとつの答えを与える歴史ミステリーです🏯🗡️
大坂の陣で千姫を救い、のちに「千姫強奪未遂事件」の張本人として処断される坂崎直盛。その動機が伝わらないまま“逆賊”としてのみ語られてきた歴史に対し、本作は「彼は本当にただの愚か者だったのか?」という問いを投げかけます🤔🔥
語りの中心にいるのは、将軍家兵法指南役・柳生宗矩。彼は一介の剣客ではなく、権力の冷酷さと合理性を誰よりも知る政治家でもあります👤⚖️
その宗矩が、旧友・直盛の真意を自分なりに捌こうとする姿は、単なる歴史解釈を超え、「友をどう理解し、どう弔うか」という人間ドラマとして胸に響きます🤝🌙
特に印象的なのは、タイトルにもなっている「二蓋笠」の家紋の扱いです。 史料に残る「自害の際、直盛が宗矩に二蓋笠を与えた」という逸話を、作者は二人の友情と矜持の象徴として丁寧に物語へ織り込みます📚🧠
それは、敗者の名誉をひそやかに受け取り、歴史の陰で守ろうとする宗矩の決意そのものでもあり、読み終えたあとにこの紋の形が忘れられなくなります🎴🌧️
歴史の「空白」を埋める二次創作的な快楽と、人間同士の情を描く小説としての厚みがきれいに重なった、読み応えのある一作です🍶🌌
家紋。それは家を識別するための紋章にして、血族のつながりを表すシンボル。
本作のタイトルにある「二蓋笠」もそのひとつですが、同じくタイトルに登場する柳生宗矩の家紋は、「なんか丸くて鳥がいるやつ」だったはず。
あれ、柳生家の家紋って二つあるの? と思いつつ本作を読みましたが、そこで出会ったのは意外な史実でした。
本作の舞台となる出来事は、「大坂夏の陣」の後に発生した「千姫事件」。
「大坂城から千姫(家康の孫娘)を救い出せ」というお達しに従い、顔に大火傷を負いつつも見事に姫を救出、しかし「何でもするって言ったよね?」と褒美を望んだら反故にされたので姫を強奪しようと謀反を企てた、という事件ですが、「犯人」である坂崎直盛について調べると、なかなか興味深い人物像が浮かび上がってきます。
果たしてこんな人物が、巷間伝承されるが如く、色恋沙汰で幕府に弓を引くものなのでしょうか?
本作は、そんな疑問に対するひとつの答えを提示しています。鍵になるのは、将軍家剣法指南役・柳生宗矩。千姫事件との、意外な関わり方に注目です。
某小説投稿サイトに掲載された長編の短編バージョンである本作。長編版とはまた違った楽しみ方ができますので、長編未読・既読問わず、是非お読みください!
大坂夏の陣の後。
激動の時代を舞台に、徳川幕府の剣術指南役であり、のちの総目付として知られる柳生宗矩を主人公に据えた歴史ミステリー小説です。
物語は本多忠刻に再嫁した、徳川秀忠の娘千姫にまつわる事件が軸になっており、公には語られない歴史の裏側でうごめく陰謀、そして、人びとの愛憎が、宗矩の鋭い洞察力によって裁かれていきます。
とくに、主人公・柳生宗矩の描き方が、本作の最大の魅力。
柳生宗矩はしばしば、将軍家兵法指南役の表の顔と、隠密活動を担う裏の顔を持つとされますが、本作のタイトルにある「二蓋笠」は、まさにその二面性を象徴しています。
この作品に、四谷軒さまの作者としての力量が凝縮された作品。ぜひ、四谷軒ワールドにひたってお読みください。
新しい趣味として、web小説投稿サイトで小説を書こうと思ったが、どう書いてよいかわからない中高年は、この作品を手本にしてはいかがだろうか(とくに、横書きの段階でとまどっている人)。
この作品は、横書きで読みやすい文章をどう書くかの見本になりうると思う。段落空けの仕方、エピソードの区切り方など、大いに参考になる。ぜひ、テクニックを参考にしてもらいたい。
1エピソードは2~3000字がよいとされるが、私はそれより少なくてもかまわないと思う。ただし、書く作品のジャンルや作者の文体によって変化する。その塩梅がわからないうちは、なるべく短くした方が読みやすい。
と、文章のことばかり書いてきたが、内容もおもしろいのでぜひ、ご一読あれ。