最終話 ルシィと僕のエピローグ
7月7日の七夕まつりから、10日ほどが過ぎた。
もうまもなく、子どもたちが待ちに待った夏休みだ。
「ただいま!」
お家に帰ったルシィはいつもと変わらない笑顔だ。
ただいま、おかえり、のいつもの日常。
今日はもう、午前中で学校は終わって午後から何もなし。
「あら、おかえりなさい。今日は本当に暑いわねえ」
「ホントだよー。汗でびしょびしょー」
「……だったら少しはその手を離したら?」
「えー。やだー」
そう言ってルシィは僕の腕に絡みつく。
「人前で恥ずかしくないの?」
「だってー。ね? ペント」
「僕は……お母さんを怒らせたくないかな……」
僕が優しくその腕を振りほどくと、ルシィは頬を膨らませる。
「あー! ずるーい! うらぎった!」
それを見た僕は思わず笑って、ルシィもそれに釣られてクスクスと笑う。
同じ視線でこんなにも笑い合える日が来るなんて。
「ねー、ペント。この後さ、黒の森に行かない?」
「お母さん、いいかな」
ルシィの突然のお願いごとに、僕はお母さんを見る。
「早く帰るならいいわよ」
「うん、じゃあそうする」
「やったね」
少し呆れた様子で笑うお母さん。
それが目に入らないかのように、ルシィはニコッと笑って、また僕と手を繋いだ。
*
*
*
七夕まつりのあの日、星が綺麗なあの夜。
ルシィが願ったこと。そして僕が叶えた願い。
ちょっぴり欲張りだけど、ルシィの本当のお願いごと。
――鉛筆じゃないペントとずっと一緒にみんなを笑顔にしたい。
あの日、僕は鉛筆から人間になっちゃった。
ルシィより少しだけ背が高くて、同じプラチナブロンドの髪色で、同じエメラルドグリーンの瞳。
そんな僕を見て、ルシィは嬉しそうに笑って、一緒に泣いて、僕の胸に飛び込んできた。
お母さんは僕をみて最初は驚いたけど、双子みたいで可愛い、と喜んだ。
お兄ちゃんも最初は驚いたけど、弟ができた、とやっぱり喜んだ。
土手の上の道をルシィと僕は手を繋いでゆっくりと歩く。
橋を渡ってあの黒い森へ行きたいからって。妖精の塔にでも行きたいのかな。
「欲張りな願い事だったけど、ちゃんと叶うもんだよね」
「やっぱりさあ、これは私たちの愛の力だと思うの!」
「そ、そっか」
ルシィはなんだかますます元気になっている気がする。
「ねえねえ、ペント」
「なあに?」
「願い事を思いついちゃった!」
「聞かせてよ」
「またあとでね」
笑顔でウインクをするルシィに、僕も笑顔になる。
僕の手を引く、小さくて可愛い手を少し強く握る。
ルシィは少しびっくりしたような顔でこちらを見た。でも悪戯ぽく笑って、少し力を込めて握り返してきた。
いつも鉛筆を握っていた手は、僕の手と繋がるようになった。
これから僕はどうなっちゃうのかな。
世界を救うとか、色々問題は残っているけど。
でもまあ、大丈夫か。
そう思って僕は隣を歩くルシィの横顔を見る。
ルシィもその視線に笑顔を返して、今度は少し優しく握り直してきた。
「ねえ、黒い森のあとはどこに行く?」
「そうだねー。ルシィと一緒ならどこまでも」
うん。大丈夫。
ルシィと僕が一緒ならこの後なにがあっても怖くない。
だって僕は、僕の大好きな女の子の願い事を何でも叶えられる、最強の
おしまい。
ルシィと魔法のえんぴつ ~俺が鉛筆に転生した話。 貴塚 木ノ実 @yoddar
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