僕は仕事中、髪の毛の話題よりも食べ物の話題をする事の方が多い。
いちいち料理オタクっぷりを披露するわけでもなく、シンプルに「美味しいお店」だったり「冷蔵庫の余り物のお話」だったり。
そして今日、父の料理の話をした。
僕らが子供の時に父は、脳梗塞で何度も倒れたりして、その度に仕事を辞めたりし、最終的には後遺症で働けなくなった。
だから、僕が学生の時には母親が働きに出ており、父はずっと家にいて、自分に出来る限りの家事とかをしていた。
専業主「夫」。
時代を先取りした肩書きである。
そして当然、僕らのご飯も父が作るわけであるが、基本的には美味しかった。
レパートリーも豊富で、僕も色々な事を教えてもらい、父が家にいる事が多くなってからの方が、父と僕の仲は良くなっていた。
今の方が更に良い。
ただたまに、おかしな事を仕出かした事もある。
あ、でも「手羽先」にハマっていた時は結構良かった。手羽先を煮込んで作ったスープを何にでも使ったりしていたのだが、それらはどれも旨かったと記憶している。
今日は、美味しくなかったパターンを話した。
その日、父はいつものように台所に立っていた。父が飼い犬に与える「牛すじ」を煮込む為に買った寸胴鍋(ずんどうなべ)の前で、楽しそうに作業している。
その寸胴からは、独特な匂いの伴う湯気が、立ち上っていた。
家中に充満している。
「よし、出来た」父は皿に料理を盛り、テーブルに置いた。
皿の上にあるもの、それは「豚足」。
毛と爪だけがついていない、ありのままの姿の、である。
僕は「うっ」と心の中で呟いたが、父の調理したものだ。不味いわけがない。
そう思い箸を伸ばしたが、つまめない。
豚足の皮に、箸を「沈めること」ができずに、重みで、滑り落ちる。
硬い質感だった。
箸でつまめないなら手づかみだ。
僕は両手で豚足を持ち、それにかぶりつく。
硬い。
まず僕の歯がとらえたのは、こりゅっ、という食感。
そして、そこから先はない。
歯をそれ以上食い込ませる事が出来ず、どうすれば良いかわからない。
軟骨をかじった時よりも、硬い。
それ以上力を込めて前歯が折れてしまう事を嫌った僕は、犬歯で削りとる事を思いついた。
ゴリゴリと豚足の表面を削り取り、口の中にその欠片がある程度たまったら奥歯で、ガリュガリュ、と噛み砕く。
皿の端に、申し訳程度の辛子味噌が添えてあったのだが、削りとっている間に唾に呑まれて、噛み砕くプロセスに入った時にはもう、味はしなかった。
くそ不味かった。
しかも、である。
どこまで食べたら「食べ終わった」と云う事ができるのか、わからない。
最初から最後まで、困惑させられた料理、だった。
そんで、である。
どうこのノートのタイトルに繋がるのか、ということなのであるが、先日、とあるアニメを二話まで観た。
その中で「両面宿儺」という異形をモチーフにした「呪い」が出てくるのであるが、主人公がその呪いの「指」を口に入れて、飲み込む。というシーンがある。
僕はそのシーンを観たとき、かなりリアルに「指の味」をイメージした。
あの時の、「豚足の味」を。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859413555828