今の職場に入社して一ヶ月経ちました。
ちょっとだけ手応えを感じております。
というのも、先月、入社した初日に同じ店舗で働くスタッフ達の九月分の売り上げを見せて貰いました。
まず、一人だけ物凄く売り上げが高い人がいました。
どこのお店にも一人はいます。周囲の人達にキチンと線引きをして自分のやるべき事をちゃんとやる人。
素晴らしいですよね。
そして他の人達は大体100万円行くか行かないか。コレは少ない数字ではありません。田舎の美容室でスタイリスト全員が皆んなそこそこ売り上げを作っているのは凄い事です。
東京みたいにカット料金を一万とか二万とかは取れませんから。
街と街の人口差とはそういう部分で出てきます。
一つの街に居る「美容に対する重要度が高いお客様」をその街の美容師全員で取り合うのは現実的ではありません。リーズナブルなメニューでどれだけ稼ぐか、が結構大変だったりするのですね。
ですが、商品の売り上げの部分が気になりました。
先に述べた凄く売り上げを出す人は一月で20万以上商品を売ってます。でも他の人は多い人でも五万とちょびっと。
ちょっと思案してみました。
そして実行しました。
「キレイゴト」を使おうと。
幸いな事に、今の職場には売り上げランキングがありません。スタッフ同士の競争がない。
——え? 競争がないと売り上げ出さないんじゃない?
いえいえ、逆です。
確かに競争すると「一時だけ」売り上げが出せる事はあります。
でも、です。
持続しないんすよね。
理由は色々です。
一位の人との差を見て諦めちゃう人。
他の業種でも多いのではないでしょうか。結局、一位の人頼みになって、皆んな商品説明を辞めちゃいます。
競争は売り上げを出す為の動機として、とても薄いです。
なんで動機として薄いのかってーと、そもそもスタッフ同士の競争とは「自分の為」であります。個人個人が「別に一位じゃなくても良いや」って思っちゃったなら何の意味もなさない。
つまり「ランキングで一位をとりたい」よりも「めんどくせぇ」が勝ちますし、ランキング上位に入っても「ワタシ、凄い売り上げ出しましたの」みたいな自慢する程度の価値しか見出せない。スタッフ同士でマウントを取り合うだけの装置に成り果てます。
それでも上位を目指す人はいます。自分の価値を上げる為に。その為の方法も色々考えます。
売る為の殺し文句——まぁキャッチコピーみたいなモンでしょうか。そういうのとか心理学を応用したりとか、洗脳法を使ってみたりとか、そういう手法を取る人もいます。
念の為に言っておくと、悪い事ではないです。
商人としては王道なのではないでしょうか。
でも、倫理観とかを抜きにしても、やはり効率が悪い。
家に帰るとお客様は「冷静になる」からです。いくら上手い事を言って商品を売る事ができてもお家で「カモられた!」みたいに思われては、そのお客様は二度とお店に来てくれません。
それが通用するのは雑誌だとかそういうメディアで宣伝をして「一見さん」がひっきりなしに来るお店です。
悪い言い方をすれば、使い捨て。
んで、です。
商品を売る事に対して「口の巧さで言いくるめる」というイメージが先行して罪悪感を感じる美容師さんもいます。詐欺師、みたいなイメージでしょうか。
ちげーなーって思ってます。
美容室に来るお客様は大抵「こういう髪型にしたい」「家でも楽にできるスタイルになりたい」みたいに思ってたりします。
その為に必要ならばカットだけではなくカラーもするしパーマもする。
商品も、その為にあります。
売る為にあるのではなく。
髪型を作る為にシャンプーやトリートメント、スタイリング剤などがあり、お客様を喜ばせる為には「なりたい髪型を作る為の方法」を提示する義務があるのです。
つーワケで、「皆んなで」「僕自身も」その義務を果たしやすくする為に、すげー謙虚なヤツを装いました。
「僕は入ったばかりですが、それでも皆さんの役に立ちたいです。僕のせいでお店の信用を落とさない為にも丁寧な技術や接客を心がけて、お客さん一人一人にあった店販商品も『紹介』していきます。〇〇さん(一番売れてる人)だけでなく、『皆さんの負担』も減らせれば良いなって思います」
最初の挨拶で、こんな事を言いました。
まず「売る」という言葉を「紹介」という言葉に置き換えました。
売る罪悪感を減らす為に。
つーかぶっちゃけ、それで良い。
別に売ろうとしなくても紹介するだけで必要だと思うお客様は買ってくれるし、不必要だと思うお客様は買わなくて良い。
必要なのはベストを尽くす事。学生さんだろうが男性だろうが、お子様の親御さんだろうが「全ての人達に紹介する」これだけで数字は伸びます。
騙くらかす必要なんてなく。
でもそれは大変だし「面倒くさい」。
でもでも、商品を勧める事が「自分の為」ではなくて「みんなの為」だと、人はそんな面倒くさい事もやってのけます。
僕が「皆さんの負担を〜」と言ったのは「僕は皆さんの為に苦労しますよー」と暗に伝える為です。皆んな良い人達なので、僕に苦労させない為に頑張ってくれる事に期待して。
更に「〇〇さんの苦労」にも目を向けて貰うため。「〇〇さんすげーなー。良いなー売り上げ出せて」みたいに能力を評価させるんじゃなくて「努力を理解して貰う為」に、そういう自己紹介を考えたワケです。
その結果、どうなったか。
九月と比べて十月の客数は少なかったにも関わらず、商品の売り上げが皆んな伸びてました。伸び幅が大きい人だと二倍。
だって皆んな「紹介」してたもん。
ちなみに僕は「やべ、もっと頑張んなきゃ」みたいな数字でした。笑
やっぱ「皆んなの利益は個人の利益と比例する理論」は間違ってなかったなーって思います。
日本のビジネス社会は「食うか食われるか」みたいなそういう世界でありますが、これからの美容室では違うっぽいです。
良い仕事だー!
終わり。