こんばんは。燃え尽き症候群飯田です。
掲題、『迷宮入りクラブ』のあとがきを、と思いまして筆を執りました。ちょっと思い入れのある作品なので、長くなるかもしれませんが、お暇な方、既に本作を楽しんでくださった方、お付き合いいただけますと幸いです。
本作は高校時代、受験真っ盛り、三年生の十二月に思いついた作品でした。
当時僕はとにかく勉強が嫌いで、嫌いで、嫌いで、嫌いだからこそ塾にも行かず独学で適当に勉強をしていて、今にして思うと本当によく大学に受かったものだと思うのですが、授業中ずっと、A4の紙にひたすら小説の原案を書き綴っている男の子でした。いつか絶対形にする。そういう思いでずっとシャーペンを走らせていました。
当時思いついたネタを、いくつか紹介するとこういうのがあります。
『穴』
採掘工事の際に落盤が起きて作業員が穴の中に閉じ込められる。
頭上から注ぐ細い光。
特に示し合わせたわけではないのだが、光の中に立った時だけ発言権が与えられるようになる。
ある者は家族との思い出、ある者は友情について、ある者は死について語る。
そうして頭上の細い光の元、「穴」の外を願い続ける。
事件から数週間後、穴から救出されたのはたった一人の作業員で……。
実はこれ、作業員が多重人格で、極限状態で人格統合が行われる話を書くつもりでした。中学生の頃に読んだ『24人のビリー・ミリガン』というノンフィクションが忘れられなくて、バラバラになった人格が統合されるとしたら、きっと人格同士の対話が要るのだろうな、と思ったのがきっかけのストーリーでした。
『夢追い人』
どこかの近況ノートで書いたかもしれません。
主人公は高校時代文芸部に所属しており、そこで一編の長編ミステリーを書きました。江戸川乱歩賞の選考委員の作家が、その作家の代表作と同じ方法で殺されていく、という小説です。
大人になり、つまらない日常を送っていた主人公の前に、ある事件が流れ込みます。
江戸川乱歩賞の選考委員をしていた作家が、その代表作と同じ手段で殺された、という事件です。
自分がかつて書いた作品と同じことが目の前で起こっている。
犯人は? 何で今更? どうやって俺の作品を?
そんなミステリーです。
これ、「作家になるには文学賞を受賞してプロになるしかない」と知ったばかりの僕が「選考委員? お高くとまりやがって」と無意味な反骨精神を発揮して思いついた作品なのです。選考委員をその代表作で殺してやればいいじゃねーか、と。なかなか物騒な作品でした。
『Perfect Brain Family』
IQ180の父、IQ180の息子。
父はテロリスト。その頭脳で政府を弄ぶような事件ばかり起こす。そんな彼を止められるのは、父と同じくらい天才の息子だけで……?
国を巻き込んだ究極の親子喧嘩! というストーリー。
これ後にCECADA3301っていう実在の謎の組織に似たような問題が出たらしいのですが、「 」と「 」でモールス信号をやるっていうトリックを考えたんですね。実際に打ち出してみると、
「 」
と、ただただ真っ白な画面が打ち出されているだけ、というトリック。これを出題した父と、それを解く息子、という構図。
後はアルファベットを全部二進法で表して、どこに爆弾があるか当てさせる(例えば『A』はアルファベット一番目なので『1』、『B』はアルファベット二番目なので二進数『2』を意味する『10』という風になります)っていう暗号で、実際にやってみると、答えが『渋谷』だと
「00010011.00001000.00001001.10.00010101.00011001.1」になるっていうトリックを考えたりしました。
なかなか疲れた割に実りの少なかった作品。多分今後も書くことはないです。
『白桃美人』
主人公の女性には好きな男性がいるのですが、その男性は「白桃美人」と呼ばれるほど美しい肌の女性に恋をしています。
主人公はそれに嫉妬。そこで計画を練ります。
まず貯金をします。
次に色々な角度から「白桃美人」の写真を撮ります。
ちょっとずつ、ちょっとずつ、「白桃美人」の顔と体に整形で近づけていきます。
そうして完全に白桃美人になれたある日、オリジナルの白桃美人を殺します。
かくして完全に入れ替わった主人公は、恋する男性の愛を思うがままに……という作品。
既視感のある作品で、多分何かに影響を受けています。何だろうな。分かる人いたら教えてください。
『開けてしまった密室』
殺人事件の調査の基本は「現場を荒らさないこと」。しかし、例えば密室殺人が起こった場合、その部屋を「開ける」という行為はまさに「現場の破壊」に他ならない……という視点から考えたミステリー。開けてしまったことで証拠が消えるトリックを考えていました。これはちょっと苦心したトリックなので詳細は控えます。
さて、ざっとこんな感じのことをずぅーっと考えていた受験期でした。僕が通っていたのは神奈川県内では割と有名な高校でしたが、僕は卒業後高卒で働いてもいいくらいの気持ちだったので、あんまり受験には乗り気じゃなかったんです。
まぁ、その結果行きついた大学で心理学を真面目に勉強し、魅力にどっぷりハマり、挙句妻ちゃんまで見つけたというのだから人生何が起こるか分かりませんね。
『迷宮入りクラブ』の着想はそんな高校時代の冬に生まれました。
後にコンビを組んで活動することになる友人が「これは滅茶苦茶面白い」と言ってくれたのを覚えています。ただ、肝心の「クラブの目的」がなかった。これがネックで、ただひたすらに考えていたのですが大学二年の時に「これは書けないな」と思って没に。でもずっと頭の中にはありました。
で、時は流れて今年の夏。
ある時ふと、あのゴールが振ってきました。いえ、結末自体はずっと高校時代から決まっていたのですが、クラブのあの目的がある夏の日、いきなり降ってきたのです。
そこからはアイディアが止まりませんでした。
どんな事件にするかもすぐに決まりました(実在の事件をモデルにしたものもありますが)。誰がどんな風に出て来るかも決まりました。あっという間だった。あっという間に九月が来て、あっという間に書きあげて、そしてこうして読んでもらって。
冒頭で燃え尽き症候群と書きましたが今正にそんな感じで、何も手がつかない状況です(本当は先日言ったように同人誌のプロットを練り直さないといけないのですけど)。ちょっと辛いですけど、永遠に続くわけではないので、少し耐えてみようと思います。
実は同人誌、カクコンの他に江戸川乱歩賞にも出してみたくて、そっちのアイディアも練っていたり。ループものにすることは漠然と決まったのですが、トリックや事件はまだ。同じ事件を何度も繰り返し解くようなミステリーにしたいです。
僕がこんなに詰め込むのは、Twitterではお話しましたが、亡くなった友人との共通項である母校のスローガンがあります。
Always do, what you are afraid to do.
(最も困難な道に挑戦せよ)
病気で一度創作を辞めて、自分の人生の姿勢を振り返った時、やっぱりこれがあるといいな、と思えたので人生に足してみることにしました。
常に、最も楽しそうな、やりがいがありそうな道を選んでいこうと思った次第です。
そんなわけで、どこまでもどこまでも詰め込んでいきますが(上記の他にも亜未田さんと共作のガンアクションや、カギ娘ちゃんのスピンオフ、それから『僕まだ』もあるし)、当人は馬鹿みたいに楽しんでいますのでご安心を。
冬に向けて体調は悪くなりますが、ただ目の前のことをこなしている内に春が来るかな、なんて楽観視しています。
これからも僕のお遊びに付き合っていただけると幸いです。