タイトル:
ラストレシピ 麒麟の舌の記憶
評価:
ストーリー:B+
キャラクター:B
設定・舞台:A
構成・バランス:A+
オリジナリティ:A
総評:
文庫版の感想。おもしろかった。作者さんは、テレビ番組の演出などを手掛けた方らしい。オタク(わたしのような)が好む描写や、可愛さを前面に押し出したキャラクター等はでないのだけど、緻密に計算された事を窺わせるストーリー展開、お話の運びが見事だと思いました。
あとは、とにかく「シブい」話です。
私的にはキャラクター評価も「A」をつけたいけど、二次元的に言えば、評価が下がる。どいつもこいつも〝リアル過ぎる〟から。それと現実で、仕事のできる中国人を最低一人は知っている。読者が中国人に偏見をもっていないかどうかで、本作の評価もだいぶ変わってくると思います。
逆に主人公の活躍が見たい。派手なアクションシーンがないと退屈だという方には、ひたすら地味な作品に映ると思われます。主人公がピンチになるような場面は一切なく、淡々と、伝説のレシピを探し求めます。その姿は自らの足で手がかりを求める刑事そのものです。
実際、主人公の佐々木が「完全にキャラクターの一人になっちまったな…」とメタにぼやくシーンがありますが、まったくその通りです。
目立ちたくないけど、目立っちまうんだぜ…
まー、主人公だからしゃーねーよなぁ。つれーわー、目立ちくないけど主人公だからつれーわー。という、タイトルに偽りありな主人公たちが、スポットライトという名の光をまとい無双し、美少女たちから「なによアンタ、やるじゃない!?」と褒められ成長していく中。このおっさん、リアルに地味なんですよ。マジで地味。冴えない。
佐々木満とかいう、苗字からして地味な無職のおっさんが、50Wていどの豆電球に照らされながら、ひたすら、地味に歩いて、途中で出会った、60を過ぎた偏屈なお婆ちゃんと共に、ひとつの真相に辿りついていくという話です。
ちなみに、この佐々木とかいうおっさん、数百万の借金があります。
孤児院出身です。三十過ぎて、奥さんどころか恋人もいません。
友達が一人だけいます。一応【麒麟の舌】とかいう特殊能力持ちです。
そんなおっさんが、一体どうすれば輝くというのか。
主人公補正というものをもたず、キャラクターとしての魅力にも乏しく、神イラストレーター補正というブーストもかけられず、缶ビールを飲んで二日酔いで頭ズキズキさせてる。そんなどうしようもない現実と向き合ったら、何が起きるのか。トラックに轢かれて異世界行ったら、女神と出会ってワンチャン会ったわ。という展開は(残念ながら)ない。
この物語のテーマを挙げるなら、
【人は自分が考えている以上に、愛されている】ということ。地味だな。
しかしその証明として、本作では「人間はレシピーを残す」という答えを示しています。人間の遺伝子が「家系図」を残そうとするように。人間は様々な手段で、生きた証を残したがる。何かを伝えようとする。
この物語の【裏の主人公】は、このように述べています。
レシピーさえあれば、この狂気の時代が過ぎた後、
私がこの世の中に存在しなくても誰かが料理へと姿を変えてくれる。
料理は人を幸せにするもの。人を笑顔にするもの。
包丁は父。鍋は母。
食材は友。レシピーは哲学。
湯気は生きる喜び。香りは生きる誇り。
できた料理は、君そのもの。
それを食すは、君想う人。
幸も不幸も、紙一重であると思います。本作の登場人物たちは、誰もがそのことを噛みしめている人間であることが伝わります。だからこそ、派手に輝くことはない代わり、生々しいリアリティが残りました。
わたしが好きなタイプの話です。