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【読書】かがみの中の孤城 著者:辻村深月

(ネタバレ込み感想。注意です)

 まだ最初の方を読んでるけど、すでに面白い。

 ひきこもりの中学一年の女の子が、自宅の鏡が光っているのに気づいて触れてみると、異世界に旅立つ。

 異世界はやや現代風の古城。主人公と同様、学校に行けない同年代の男女が7人集い、あらゆる願いを叶える【鍵】を探していくという展開。

 【鍵】は一本しかなく、一人しか願いを叶えられない。また各々には個室が与えられており、この異世界にやってこれるのは、朝の9時から夕方の5時まで。5時を超えて元の世界に戻らないと、オオカミが現れて食い殺される。

 初読の印象。世界観は「不思議(鏡)の国のアリス」
 キャラクター背景および、システム設定は「人狼」

 童話×人狼 というテーマ。強い。

 アイディアとして秀逸。

 わたしにとっての「ライトノベル」。


 ――というのが、序盤まで読んで先に書いた感想。

 最後まで読み終えた時点で、最初の印象とはかなり異なった。まず本書はデスゲームものではなく、殺人なども一切起きない。

 メインテーマは、あくまでもイジメや不登校、それに関連する親や教師、世間の大人たちの捉え方、不登校の学生に対する手助け、救済、社会復帰というのが主なテーマで、本書で発生する【イベント】は、あらゆる事象において、奇跡と呼ぶに近い〝救い〟がある。

 序盤から中盤以降のストーリーに関しては、やや退屈だった。これはわたしが「たぶん、救いのない話なんだろうな」と思い、身構えていたからであり、対して物語の方では、凄惨と呼ぶまでの事件が起きないからである。

 本書の肝は、中盤以降のイベントになる。

 キャラクターの一人が「1日だけ学校に行くから、みんなも一緒についてきてくれ」という箇所だ。

 不登校の7人は、実は同じ中学に在籍していることが判明し、全員が一日だけ学校に行くことを誓う。

 イベント発生後、そこから連続するシナリオが伏線を生みだしていく。また、それ以前のイベントとも繋がり、怒涛の勢いで物語が進行する。それまで明かされていなかった孤城の謎、キャラクターの背景、設定の伏線回収が巻き起こり、中盤以降の内容は読んでいて〝気持ちがいい〟。

 わたしは元来【騙されやすい読者】であると自認していて、ミステリやサスペンス等の小説では、毎回のように裏を取られるので、全体を通じて見れば「とてもおもしろかった」という感想になった。

 逆に、トリックや伏線に気づいてしまうタイプの読者は、単純にテストの答え合わせをする感じになって、おもしろいけど、今一つ。という感想に落ち着くのではないか。

 
 また、わたし自身、学校に行けなくなった、ひきこもりの経験があるので、主人公の「こころ」の感情をトレースできるところは多かった。これは結構、珍しい経験である。(自分で言う)

 なので、とりとめのない感想を書いてみる。

「こころ」とわたしの共通項は、

 ・学校にいけなくなった。家にひきこもっていた。
 ・親に迷惑をかけていることを申し訳ないと思った。

 ・ひきこもっている間、この事態の責任
 は自分にしかないと思いはじめていた。

 ・自分の意見が一切言えなくなった。

 ・母親から「スクール」へ行くことの提案をされた。

 ・お腹が痛くなった(わたしの場合は肺炎の悪化。血液の循環が上手くいかなくなり、手足の指先の感覚が麻痺。ひどいと五感が消失した)

 ・カウンセラーの人の助けを受けた。
(わたしの場合、実際健康に影響があったので、通院と並行していた)

 ・最終的には身内の理解を得た。学校に行きはじめた。

 ・「コンビニ」が怖いと思った。(わたしの場合は書店)

 〇【時間を無駄にしたのだ】という気持ちが強く残った。


逆に共通してないところ

 ・「こころ」は異世界の孤城に出かけたが、わたしは行けてない。
   (忘れている可能性は存在する)

 ・「こころ」はクラスメイトの女子たちに、自宅の庭先まで集団で入り込まれ、窓ガラスに手をかけて扉を開けようとされた。状況によっては事件に発展しそうなことが起きたが、わたしは起きてない。

 ・外がまぶしい。新鮮だと感じたこと。
(わたしの場合、入院先の病院で、日常的にリハビリを行っていたので外がまぶしい。人が多すぎる。という感覚はそこまで無かった。

 ただ町中に出かけた時、人々は感情が豊かで、たくさんの表情があって、エネルギーにあふれているんだなぁとは思った。

 ・こころのひきこもり歴は1年だけど、わたしの場合は入院も含めてなので、さらに長い。

 ・父親にゲーム禁止令を提示された。
 わたしの場合は、PCを自室に持ち込めず、居間のみでの使用を許可された。

 他に大きく違う点は、「こころ」は一人っ子だけど、わたしには年の離れた兄がいて、兄に経済的な支援を現在も継続中で受けているということ。改めて思ったけど、この物語、7人中5人が「1人っ子」だ。
 作者さんは、1人っ子かもしれない。(どうでもいい)

 
 ともあれ、本書の結末として。

 中学1年生の「こころ」は、結果として、かがみの孤城という異世界を通じて、友達と自信を取り戻し、1年のひきこもりを経験した後、同じ中学に、2年生になってからも復学することになる。

 大変と言えば大変なんだろうけど、たぶん、上手くやれるんじゃないか。喜多嶋先生もいるし、きっと大丈夫。という予感は、大勢の読者が得たと思う。

 だけど現実的に、こうした救済のきっかけとなる、異世界に旅立てる事はない。さらに「こころ」は、彼女をイジメていた女生徒が、友達を連れて自宅まで襲撃じみた事を受け、その生徒を明確な【悪】とみなすことで、この本を読んだ読者に、自らが立ち直る強さを誇示し、【共感】を得るという(メタ的な)背景を持つにも至れるが、現実ではまず、こうしたわかりやすい事件は発生しない。

 そのため、もしも「こころ」が、イジメの対象になっていて、けれど上記のような事件が起こらなければ、異世界の孤城にも旅立てず、自分の意見を言えないまま、両親に対して申し訳ない。どうしようもない。悪いのは自分。責任はすべて【弱いわたし】に帰属する。死んだ方がいいのではないか。という可能性に行き着いてしまう方が、現実的には高い。

 そして恐らく、現代日本では、そうした悩みで苦しんでいる人々は多いのだと思う。結論から言ってしまう。

 【家にひきこもっている人間】というのは

 【決定的な事件が起きない人間】と、イコールである。


 なにか、日常で【マイナスな事態】が起きている。

 つらい。苦しい。上手くいかない。その原因は分かっているが、原因に関して突き止めていくと必ず【自分自身】にも問題があることを確信する。

 外的要因は、自分という内的要因にも密接に絡み合っていて、その割合が、ほぼ同じだと感じた時、心は自信を喪失し、行動力が失われ、思考停止が起き、なにも起きない毎日を循環し、負のループが発生する。

 しかし、ひきこもりという症状は、必ず、いつか治る。

 【忘れるから】である。

 時間が経つことで、失敗した要因や結果はどんどん曖昧になり、怠惰な現実こそが【マイナス要因】であると脳が判断し、最終的に「じゃあそろそろなにかやるかぁ……」となる(笑)

 だけど「こころ」が言っているように、ひきこもった人間は【時間を無駄にした】事は避けられない。そしてひきこもった人間の最終的な負の遺産が、この【時間を無駄にした】事実である。……である(目をそらしながら)

 決定的な事件が起きて、肉体と精神に怪我を負おうが、特にそこまでの事態が起きず、自宅にひきこもったり、病院で精密検査をしたりして自責の念に捕らわれていようが【時間を無駄にした】という事実は、あらゆる人間に等しく存在する。

 だからというか、わたしが、主人公の「こころ」が幸運だったと思うのは、異世界の孤城に行けたこともそうだけど、彼女をイジメていた女の子が、実に行動的であり、「こころ」の自宅まで押しかけて、間接的に大人たちの行動を促してしまった。学校や教師という権力に、外部の組織が抵抗できる説得材料を作ってしまったということだ。

 そもそも、この女子が「こころ」をイジメていなければ、こうはならなかったという意見は最もだけど、事件の起きなかった「こころ」の様な女子が、この先もイジメられないかと言われたら、疑問だ。

 むしろ自分の意見を口にだせない彼女のようなタイプは、遅かれ早かれ、本書のような事が起きる可能性がある。そして異世界の孤城に辿りつけなかったり、例の事件に遭遇しなかったりすれば、「こころ」のひきこもりは、1年で済まされず、もっともっと長い期間に先のばされる予感が強い。

 だから、本書の主人公の「こころ」は、運が良かった。

 異世界の孤城に行けたこと。

 中学1年でイジメられ、自宅に襲撃をかけられたこと。

 【時間を無駄にした】と早々に気づき、期間が1年で済んだこと。

 【時間を取り戻す】【未来に進む】

 という考え方を、同学年のその他大勢よりも、早く気づけたこと。

 他人と比較し、能力を見積もり、自分を卑下し、その成果で進行を辞めてしまうと、結局は時間の無駄になる。

 本書の作者さんが言いたかったのは、つまり、そういうことなんだろうと思う。

 この物語で「こころ」はその事に気づいて、自分を大切にするだろうし、いざとなれば、理解のある両親は彼女を助け、カウンセラーの先生は的確な助言をくれる。同学年には、異世界の孤城の記憶を継いだ、好感度の高いイケメン男子がいる。そして未来の後輩には、彼女に恩義を感じている子供たちがいる。

 お前はシンデレラか。メインヒロインか。という待遇だ。

 異世界に旅立たず、現実に戻ってきたというのに。この後、努力というチート能力を発揮して、とつぜん無双を始めるというのか。

 という風に、この物語の未来を想像した時、逆に「こころ」をイジめていた女子は今度、イジメられる立場になるかもしれないという予感に行き着く。

 彼女の今の立場は、儚い信用と信頼で築きあげられたもので、イジメ対象の「こころ」がイケメンの彼氏を作ったり、それまでの環境でヒエラルキートップだった女子生徒が転校し、その彼女が自分を煩わしく思っていたという事実が、どんどんイジメっ子の女子の立場を悪化させていく予感は強い。

 結局のところ、「こころ」をイジメていた女子生徒は、「こころ」を恨むエネルギーを費やすことで、自分の【時間を無駄】にした。そのエネルギーをもっと有効活用していれば、逆に彼女こそ、シンデレラ無双状態になっていた可能性だってある。

 ようするに、本書では、イジメっ子の女子が一番【損】をしているんですよ。という事が繰り返し告げられている。さらに言うなれば、その程度の人を恨んだり、殺してやりたいと思うこと自体が無駄ですよ。シンデレラになりたいなら、もっと自分の事だけ考えて、素直に生きていた方が遥かに【お得】ですよ。ということ。

 孤城に集められた7人。

 学校に行けない、世間と折り合いがつかない。自分に自信がない。誰か、何かに対して負い目を感じている。そうした人間は原則として【損】をしている。もっと自分を大事にして、行動した方が良い。

 その考え方は、誰もがもっている。

 そんな【損】をしている人間たちが、素直な気持ちを語りだし、法や倫理に則る手順で助け合い、他者を蹴落とさず、存在を認め、自らを高める事にエネルギーを費やし、現代社会に適合した【得】な人間へと昇華する。

 この物語の7人は、皆が【努力】している。

 読みながら、ちょっと都合が良すぎるかなと思ったりもしたけど、その都合の良さが、最終的には人の本質と呼べる核心に繋がっている。読んでいて泣きそうになるし、登場人物の心情を考察してしまうし、物語の構造が美しい。と感じた。


 この本に出会えて、良かった。

 思いつつ、お仕事再開。がんばるぞい。

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