タイトル:
BARノスタルジアへようこそ~日下部悠司のアルバイト記~
評価:
ストーリー:C+
キャラクター:B+
設定・舞台:C+
構成・バランス:C
オリジナリティ:B+
良かった点:
日常のさりげない〝違和感〟の表現です。たとえば、ハンガーにかけた服が繰り返し落ちるので、その事に関して「何かおかしいな」と気にかけて、大学の友達へ、話題を振るついでに相談として持ちかけてみる。というのは自然な流れに見えました。
こういうのは本当に些細なイベントですが、いざ物語を作る時になると馬鹿にできません。
大勢の人は『部屋に幽霊がいる話を作れ』と言われたら、率直に心霊現象を想い浮かべます。なのでラップ現象や、蛍光灯が不自然に点滅するなど、大体が似た展開になりがちです。ハンガーから服が落ちたので、幽霊がいるかも。という発想に思い至るのは少数だと思います。
これは得難い『才能』であって、才能は磨くと『技術』になります。自然な出来事から物語を展開させる手法は、とかく応用が効きます。
悪かった点:
キャラクターの関係性が希薄にすぎると思いました。まず主人公を挙げると、祖母から「誰かを守るために強くなりなさい」と言われ、空手を学んだが黒帯まではいけなかったとあります。
過去のできごとは、モノローグで描かれていますが、肝心の「強くなりなさい」と言った祖母の描写が一行もありません。
たとえば、見ず知らずの、偶然すれ違った他人から「もっと熱くなれよ!」と言われても「は?誰アンタ?」となるのが自然なように、祖母の事を知らなければ、共感も難しくなります。
言いかえると、祖母はたいへん立派な人であった。と読者に伝えることができれば「強くなりなさい」と言われて、強くなろうとしたが、黒帯だけは取れなかった。という主人公にも共感できます。
これは他のキャラクターに関しても、まったく同様でした。
バーテンダーの女性のことが描かれてないので、バーテンダーさんはすごいと主人公が言っても、説得力がありません。
従姉と再会して、彼女を守らねばと言ったところで、過去の従姉の描写が一行もありません。特に従姉という存在は、ほぼ他人という人も大勢います。
あと注意したいことは、キャラクター複数名のプロフィールを同時に展開させると、結局のところ【誰が主人公で誰がヒロインなのか?】という疑問が浮かぶことになります。
これを明確に判別させる方法は、とにかくたくさんセリフを作ることです。特にストーリー上のメインとなる主人公とヒロインには、お互いの気持ちをぶつけたり、内面を語りあわせるのが最善です。読者の視点もまた、自然とその二人の関係性に集中していきます。
そして要となる事件が、その二人のどちらかをキッカケにして始まるのであれば、上述した『才能』と『技術』は必ず生きます。
長所と短所が明確な事は、悪いことではありません。
むしろ何かを境に、爆発的に伸びる可能性を秘めています。
本文がその一助になれれば、幸いです。
感想は以上になります。
今回は自主企画にご参加いただき、ありがとうございました。
秋雨あきら
2017/10/24