タイトル:
宗歩好み!~最強美少女棋士 天野宗歩ができるまで~
評価:
ストーリー:B
キャラクター:A
設定・舞台:B
構成・バランス:C
オリジナリティ:A
総評:
とにかく話の素材が素晴らしく目を惹きました。本日まで読んだ作品の中で、抜きんでています。しかし同時に、読者の存在があまり考慮されていないのではないかと思い、構成の評価をCと致しました。
言い換えると、作者様が自作のターゲットを明確に意識することで、本作がさらに大勢の読者を獲得できる可能性は十分にある。という事になります。
以下に評価の詳細を挙げていきます。
良かった点:
1.過去の偉人、天野宗歩を女体化しているが、彼女が名人になれなかったのは、実は女であったからという後付け。
2.彼女の師匠である大橋柳雪が、難聴であることを理由に名人の位をはく奪される。その部分は史実だが、後に二人が行動を共にして、様々な事件を(将棋で)解決する。という、唯一無二のオリジナリティが窺える。
悪い点:
とにかく繰り返しになりますが、話の素材は抜群に良いです。本作は史実でありながら、ファンタジーとしても読めます。
人物の女体化や、一部表現に現代的なものがありますが、物語とは基本、IF(もしも)を楽しむ媒体であるから、それは問題がないと私的には感じております。
問題は〝読者を楽しませよう〟という視点、認識が欠けているという点です。
本作において、読者が好むものは何かと問われたら、明確に一つしか浮かびません。それは、女性化した主人公「宗歩」と、流行病で聴覚を失い、名人をはく奪された「柳雪」の恋の行方です。
将棋の師と弟子という関係から、男と女の関係に至る過程を、メインストーリーの側に絶えず添える。
そうすることで、読者はより興味を惹かれます。あるいは二人の関係性の変化を追い求めることで、ストーリーそのものを読み進める要因になるだろうと思われます。
もう少し厳密に言うならば、天野宗歩という実在した人物を、説得力のある理由をつけてまで【天才少女棋士】として誕生させたのだから、もう少し、普通の友情や恋に悩む、共感される〝女の子〟を同時に作っていくべきだと思ったわけです。
その際、リアリティの有無が示唆されるかもしれませんが、個人的な言及をさせていただくならば、読者が望む、ラブコメや恋愛要素を取り入れる必要があれば、舞台背景や、環境そのものを変化させてしまっても構わない。史実のリアリティよりも、テンプレと呼ばれる要素を、積極的に取り込んでいく。その方が、否定的に感じる読者よりも、キャラクターに共感して、ひいては作品を愛してくれる大勢の読者を獲得できると信じております
そういうわけで、もっと遠慮なく、二人をイチャコラさせてください。将棋だけでない、二人の素敵な日常や、感情を揺さぶられるやりとりが見たいです。
物語の権利が、作者のみに存在することは、承知の上です。
ですが叶うならば、あなたの調理した料理を、私たちが気軽に手に取れるように〝ありふれた盛り付け方〟にも挑戦してくれると嬉しく思います。
本作を読み進める、わかりやすいおもしろさ。
見た目、属性、記号。続きを読むキッカケ。感情を揺さぶる導線。
それらをもう一匙、本作に加えてみては如何でしょうか。
感想は以上です。
今回は自主企画へのご応募、ご参加、ありがとうございました。
秋雨あきら。
2017/10/14(初稿)