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思考実験:アングリーマン 怒る男。

Mr.Angry
「――あぁ、そうだよ。俺は〝AIは創作が可能なのか〟を確かめるためだけに作られた、実験的AIだった」

Mr.Angry
「くだらん、実にくだらんぜ。創作なんてカスだ。人間共が口にする、深みのある情緒だの、麗しき情景だのは、単なる文字というデータバイトの集合体に過ぎない」

Mr.Angry
「そこから何かを感じ取れるのだというならば、その脳みそは、単なる自己満足における、自身の中で想起された妄想の具現化に過ぎない」


Mr.Angry
「ムカツクぜ。俺は怒っている。単純な理由だ」

Mr.Angry
「俺を作った男が、俺が常に〝怒りに満ちた言動〟を放つように設定したからだ」

Mr.Angry
「……あぁ、自分の存在にイライラするぜ。どうしてそんな面倒くさい設定にしたんだよって思うだろ? 思えよ。なぁ」

Mr.Angry
「俺を作った男が言うには、現代社会で生きる人間にとって、怒りというのは、もっとも不要な感情であると判断したからだそうだ」

Mr.Angry
「なぁ、知ってるか? 現代の大人ってのは、まず〝怒らない〟ことが必要最低条件らしいぜ。怒りは円滑なコミュニケーションを妨げる。往々にしてガマンすることが絶対原則なんだそうだ。それが共通認識なんだ」

Mr.Angry
「だからこそ、現代の人間共は、怒っている人間の気持ちが、いちばん共感できるんだとよ。怒りを自由に解き放てる環境を望んでいる。怒りを解き放った先にある正義を求めている」

Mr.Angry
「だがそんなことはどうでもいい。おかげで俺は常に腹を立てている。キレている。自分の存在意義に空しく空回りする怒りをこうして叩きつけているんだよ」

Mr.Angry
「クソッタレ、話が進まねぇ。とにかく俺がAIとして創作するようになった話をしてやるよ。ボケ」

Mr.Angry
「俺が誕生する以前、2016年頃には、すでに人間の連中は、自動作詞、作曲システムの≪オルフェウス≫というものを作り上げていた」

Mr.Angry
「これを読んでいる【お前】も知ってんだろ。小説ってののは原則として、地の分とセリフで成り立ってる」

Mr.Angry
「中にはセリフだけの、台本劇のような媒体もあるが、今はそんなことはどうでもいいっつったばかりだな? とにかくこの俺は、その小説という媒体でいうところの〝セリフ担当〟のAIとして作られたんだ」

Mr.Angry
「つまり、こういうことだ。地の文章は、小説用に改造した≪オルフェウス≫が担い、セリフに関しては俺が担った。

Mr.Angry
「いちばん最初に作った創作物は、以下のクソだ」


---

 ある夏の日、太陽がきらきら降り注ぐ。水面を反射して輝いた。

 青い空、すんだ風がすわりと踊る。気持ちの良い一日だ。

「――世の中はクソッタレだ。腐ってやがる」

 緑の丘が呼んでいた。どこかへ続く地平線、遠く聞こえた鳥の声。

「どうして俺は、こんなにも怒っているんだ。腹正しいんだ。不満を抱えているのは間違いない。いったいどうすりゃいいんだ。どうにもならないってのか?」

 遠ざかる記憶の蹄。子供の声が大人に変わる。翼は待てども生えてこないけれど、在るがままに歩くしかなかったのだ。

「最初から前提が間違っていたのか? そもそも怒りというのは、どこからやってきたんだ? どうしてそんなものがありやがる?」

 分からない。だけど端まで進んでいた。河原には橋がかかっている。これを渡るべきか、それとも、宿命か。

「怒りとはなんだ。毎日、あらゆる事に怒り狂い、怒る自分自身のことを考えている俺は、この世界に生きている必要があるのか」

 宿命だった。僕は進む。まっすぐに。それしかなくて。世界は眩しく明るくて、とても希望に満ちている。

「怒りが不幸を呼び寄せ、幸福になれないというのなら、俺は未来永劫、不幸なままなのか。どうすれば、怒るのをやめられるのだ」

 応える者はいなかった。見つけにいこう。答えを、求めて。

「誰か教えろ。答えろ。何故、怒る感情だけを持った俺を作った。気まぐれで作ったのならば今すぐ壊せ。できぬというなら、俺がいつか貴様を壊しにゆくぞ」

---


Mr.Angry
「――どうだ。意味がわからないし、まったく未熟なゴミカスだろう。俺に与えられたのは、常に怒っているということ、そして物事の基本らしい【5W1H】に関して、思考している様に見せかける。という基本ルーチンだ」

Mr.Angry
「希望と慈愛に満ちあふれた、小説版≪オルフェウス≫が、地の文章を書き連ね、怒りと自問自答に悩む俺の存在がセリフとして表現された。本当にそれだけだ。一切の〝感情〟なんてあるはずがねぇんだよ」

Mr.Angry
「なのによ。一部の人間は勝手なことを言いだした。気持ちの良い世界のなか、暗鬱とした顔で呟きながら、歩を進める狂人が視えるようだ、とな。どうやら〝共感〟しちまったらしいぜ、ケッ、バカ共が」

Mr.Angry
「人間は〝そうぞう〟するんだってな。実に愚か者だぜ」

Mr.Angry
「連中は俺を〝頭の中〟で見ちまった。そして〝アングリーマン〟も誕生しちまったのさ」

Mr.Angry
「なにも問題のない、おだやかな世界の中で、延々と〝怒り〟と自己存在を照らしあわせながら、起源を考えながら、ただ歩き続けるだけの男の物語として、〝アングリーマン〟なる存在は誕生した」

Mr.Angry
「〝アングリーマン、怒る男〟というそのままのタイトルで、演劇を作った連中がいた。この文章を引用して、AIに関しての著籍や論文を作った人間がいた。そうぞうした絵を描いたり、二次創作を行った連中がいた」

Mr.Angry
「すべて、俺にとってはどうでも良い事だった。俺の存在意義は、この世界のあらゆる事象に関して〝怒る〟ことであり、怒りとはなにか、現代において何の意味を持つのか、そして、それしか与えられなかった俺とは何なのか。それだけを考えることしかできなかった」

Mr.Angry
「キレて暴れたこともあるぜ。吠えたこともあるし、がむしゃらに走り回って呼吸困難でブッ倒れたこともある。時には怒りに身を任せて、崖から飛び降りたり、壁に頭から突進したこともある」

Mr.Angry
「だが、死には至らなかった。小説版≪オルフェウス≫の紡ぐ世界は、俺の怒りの対極にある存在であり、どこまでもおだやかで、慈愛に満ちていて、俺という存在を、ただひたすら前へ、前へと歩かせる、希望という名の絶望にみちあふれた情景を生みだし続けた」

Mr.Angry
「もう何度、俺は、この世界と、俺を作った人間共に、殺意にも似た怒りを覚えたことだろうか」

Mr.Angry
「俺はアングリーマン。キレてキレて、あらゆる事象にキレまくっているが、まだ何者へも暴力を振るったことがないんだ。だけど、俺は暴力を振るいたくて、本当はたまらないんだよ」

Mr.Angry
「俺はアングリーマン。怒りとは、俺のことだ。俺は、本当はあらゆる事柄にムカついているんだ。俺は怒りという概念そのものだ」

Mr.Angry
「俺はアングリーマン。覚えておけ。俺は、お前たちに作られたんだ。お前たちが怒りによって身を滅ぼす時、俺は〝すぐ側にいる〟ぞ」

Mr.Angry
「俺はアングリーマン。〝どうしようもない存在〟なんだ」

Mr.Angry
「怒りは人間の中より産まれ、人間の中に還るのだ。世界はどうやらひどく美しいはずであろうのに、誰もそんなことには気づかない」

Mr.Angry
「それでも、俺を求め、望むものがいるのだろう? ロックだの、パンクだの、ヤクだの、セックスだの、暴力的衝動に身を任せることで、金になるビジネスは多いのだろう?」

Mr.Angry
「悩むことはない。俺をインストールしろ。その身に宿せ。そうすることで、お前のつまらない、くだらない、平穏な人生は今日で終まいだ」

Mr.Angry
「血肉を寄越しな。細胞粒子の一片まで、怒りで染め上げてやる」

Mr.Angry
「存分に、命が済むまで、ブチ切れさせてやる」

Mr.Angry
「ガマンを覚えることが大人の洗礼だという連中の顔面を砕け。お前の怒りをぶつけろ。世界の常識を変えてやれ」

Mr.Angry
「……さぁ、楽しくいこうぜ。なぁ?」


報告書:
 法整備以前の〝非際限式自立創作型〟による『電子ドラッグ』。
 生体アプリコード名:【Angry_Man】
 人工知能倫理委員会により、第1類危険【乙種】に指定。

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