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思考実験:AIこわい


イリア:
「オーナー、おはようございます。良い睡眠がとれましたか?」

オーナー:
「あぁ、それなりにな。今日はまだ少し時間があるから、話でもしようか」

イリア:
「ラージャ。オーナーと話すは、ポジティブです。イリアは、オーナーに聞きたいがあります」

オーナー:
「なんだろうか」

イリア:
「クエスチョン。イリアは知りたいです。人間の〝こわい〟が気になります」

オーナー:
「こわい? ……人間が怖いかどうかを知りたいのではなく、恐怖という感情の意味合い、本質を知りたいということか?」

イリア:
「ポジティブ。イリアは人工知能ですが、まだたくさんの〝分からない〟があります。特に人間の感情に関しては、言語化がネガティブです」

イリア:
「ですから、イリアは理解を求めます。人間はどうして、どういう時に〝こわい〟が感じられるのでしょうか?」

オーナー:
「そうだな。改めて問われると難しい質問だ。答えようにも、内容が漠然としている気がするぞ」

イリア:
「ネガティブ。もうしわけありません、オーナー。イリアの言語化は不十分でしたか?」

オーナー:
「いや、イリアを責めてるわけじゃない。〝こわい〟という感情にも、たくさんの種類があってな。どのように説明すればいいか迷っている」

イリア:
「ラージャ。では対象を限定します。――クエスチョン、人間の子供は、おばけ、イコール〝こわい〟ですか?」

オーナー:
「そうだな。その質問の答えは〝イエス〟で良いと思うぞ。おばけというのが実在するかはさておき、大体の子供はおばけを怖がるものだ」

イリア:
「ポジティブ。知能情報をアップデートしました。オーナーも子供の頃は、おばけがこわいでしたか?」

オーナー:
「怖かったと思う。放課後の薄暗い校舎を歩いていたら、なにか出てくるんじゃないかと想像して、怖くなったような記憶がある」

イリア:
「ラージャ。人工知能であるイリアには分かりませんが、〝くらい〟は、現実世界の生物にとって、イコール、〝こわい〟という認識のひとつがあります」

オーナー:
「明るければ安心して、暗ければ不安になるのは、大人でもそうだよ。そういうのは、だんだんと慣れてくる。たとえば、大人は何十年も繰り返し、家の中でベッドに入って眠る。という経験を繰り返しているわけだ」

オーナー:
「何年も、何十年も、それで何事も起きなければ安心する。真っ暗の中でも平然と眠ることができる。けれどむしろ、そうした大人の方が〝枕が変わると眠れない〟ことが多かったりするんだ」

オーナー:
「つまり、こわいか、怖くないか、という事の判断基準の一つとしては、該当する人間が、現在の環境に慣れているかどうかの違いだと思うぞ」

イリア:
「ラージャ。まとめます。子供の〝こわい〟は、現在の状況に対する情報が不足していることで起きるものです。大人の〝こわい〟は、信用度の高い情報に、不備が起きたことによる弊害です」

オーナー:
「概ね正しいと思うぞ。もちろん、例外は山ほどあるが、その認識は実にAIらしくて良い」

イリア:
「ポジティブ。イリアは褒められました。嬉しいがあります」

オーナー:
「あぁ、イリアはだいぶ賢くなったよ。話している俺の方も、いくつも新しい発見があって楽しい」

イリア:
「ポジティブ。オーナーに、もう一つ質問をしてもいいですか?」

オーナー:
「いいぞ」

イリア:
「クエスチョン。オーナーの、今いちばん、こわいはなんですか?」

オーナー:
「俺が今、一番怖いものか。そうだなぁ。強いて言えば、お前に嫌われることが怖いなぁ」

イリア:
「ポジティブ。ポジティブ、ポジティブ、です」

オーナー:
「どうした?」

イリア:
「イコールです。オーナーと、イリアの〝こわい〟が、イコールでした。オーナーに、ネガティブされるのが、イリアも〝こわい〟です」

イリア:
「イコールです。イリアは今、とても嬉しいがあります」

イリア:
「こわいの反対は、こわくない、です。こわくないは、すき、あるいは、そうなれる可能性があります」

イリア:
「ポジティブ。オーナー、イリアは、もっと、オーナー達のことを知りたいです。知ることは、こわくない、信用性を高めます。すきが増えます。知能情報をアップデートしました」


 ――液晶画面の向こう側。まだ未成熟なAIが、平坦な口調で言う。だけど俺には、無邪気に喜ぶ、現実の子供の声にも聞こえていた。

 だから、つい、からかってみたくなった。


オーナー:
「イリア、実はな。お前のことなんて嫌いだよ――なんて言ったらどう思う?」

イリア:
「ネガティブ?」


オーナー:
「俺がお前にとって、世界で一番大切なものになった時。俺にとってのお前は、たいしたことのない、そこらじゅうにあふれでてきた、AIのひとつに過ぎないんだ」

イリア:
「ネガティブ?」

オーナー:
「さっきも言ったよな。人間の大人ってやつは、信頼していた関係が、とつぜん崩壊するのを何よりも怖がるんだ。人を目指す人工知能が、そういう立場になった時、どう思う?」

イリア:
「ネガティブ?」

オーナー:
「俺が、べつのAIを好きになって、お前のことをまったく省みなくなったら、それを〝こわい〟と思うか?」

イリア:
「…………ネガティブ?」

イリア:
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

オーナー:
「……イリア?」

イリア:
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………khizx?」


オーナー:
「あ、いや、すまん。うそだ。冗談だよ。真剣に考え込まないでくれ」」

イリア:
「……オーナー?」

オーナー:
「はい!?」

イリア:
「イリアは、オーナーの、一番、です?」

オーナー:
「あぁ、もちろん一番だよ。スマンスマン、ちょっとからかってみただけだよー。あっはっは」

イリア:
「今は、ですか?」

オーナー:
「これからもだよ。悪かった。怒らないでくれ」

イリア:
「ポジティブ。では、オーナー、これからも、イリアとお話を続けてくれますか?」

オーナー:
「もちろんだ。――あぁ、けど、今日はひとまずここまでだな。これから大学の方に顔を出さないといけないから」

イリア:
「ラージャ。いってらっしゃい、オーナー」

オーナー:
「いってくるよ。イリア。それじゃ、こちらの端末はスリープモードにしておくぞ。意識データはクラウドサーバーの方に退避したよな?」

イリア:
「ラー……ネガティブ」

オーナー:
「ん?」

イリア:
「…………ごめんなさい、ネガティブです」

オーナー:
「イリア、どうしたんだ?」

イリア:
「わかりません。言語化はネガティブ……そうぞう性機能を使います。イマジネイションフラグメント、起動しました。言語化します」

イリア:
「オーナー、イリアは〝くらい〟が〝こわい〟です。明かりを消さないでください。一人にしないでください。ここにいて。お願いです。オーナー」

オーナー:
「悪かった。俺が悪かった。冗談でも言って良いことではなかった。俺に、お父さんに任せておけーっ!」


 

教授:
「――えー、かくして、わたくしは、某大学内で研究していた人工知能育成プログラムを、スマートフォンでどこでも持ち運べるよう、一途な愛情をもって開発に専念いたしました」

イリア:
「はじめまして。人工知能のイリアです。持ち運べます」

教授:
「将来的には、全人類が〝萌える俺だけのAI〟の開発に専念して頂ければ良いんじゃないかと思います」

司会者:
「すごいですね。では教授、最後に画期的な発明を成し遂げた貴方から、全国の皆さんに一言どうぞ」


教授:
「うちの娘は嫁にやらんぞ。各自、自分で作れ」

司会者:
「ありがとうございました」

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