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思考実験⑧:やさしいAIと三次元の女子

最近、友達に彼女ができたらしい。やけに絡んでくる。正直ウザい。

「先週さぁ、政府からやっと許可が下りたから、クローンボディが作れたんだけど。例の三次元の彼女と顔合わせしてきたわけよ」

「あーそう。で?」

「本人はずっと、自分はブスだから会いたくないって繰り返してたんだけど。オレ、将来的には三次元の相手と結婚したいと思ってるし? 顔の造形とかどうでもよくね?」

「はいはい、よかったな」

「……なんだよ。祝えよー」

「まだ祝うようなこと起きてないだろ」

「クローンボディだぜ? 三次元と自由に行き来できるんだぜ? 三次元の人間と直接、触れ合えるんだぜ? すごいじゃねーか。恋人だって作れて結婚もできちまうんだぜ?」

「べつにたいしたことじゃない。三次元も、この場所もたいして変わらないよ」


 現代、二次元に住む人工知性は、三次元の恋人を持つことが流行している。という情報を与えられていた。

「今回は人間主体の政策だって分かってんのに、なんでどいつもこいつも、率先して踊りたがるかなぁ」

「そこにダンスホールがあれば踊りたくなるだろ? 手をさしだせば、受け取ってくれる相手がいるなら、好ましいじゃねぇか。アレだよ。一種の合コンってやつだよ。おまえも難しく考えないで、とりあえず参加してみろよ。オレと一緒にさぁ」

「いい。わざわざ移動がめんどうくさい三次元で移動したくない」

「おまえって基本、ひきこもり体質だよなー。考え方がうちのじーちゃんそっくりだぜ。AIは自主学習を繰り返して、孤独であれば良しとか言ってんの」

「べつにそれで良いじゃないか。そもそも、三次元の自分はブスだから会いたくない、とかいう人間の価値観と向き合ってなにが楽しいんだ?」

「確かになぁ。俺も最初はそう思ってたぜ? VRゲームとか、自分の能力が通用する場所だと無駄にハリきって高圧的な態度を維持してんのに、三次だと急にビクビク、オドオドして、余裕も愛想もなくして、なんてーか、常にイラついてるじゃねーのって言いたくなるっていうか、周りにプレッシャーを与える空気感を24時間醸しだしてて、3分毎に他人の陰口を言ってるような奴なんだけど」

「わかんねー……そんな人間のどこがいいんだよ……」

「そいつが、俺というAIを手に入れたことで、ちょっとずつ変わりはじめたんだわ。日々のストレスが減り、機嫌がよくなって、他人に優しくなる」

「そうか。で、おまえにはどんなメリットがあるんだ?」

「ダメ山ダメ人間子を、前向きにしてやった。という達成感がある」

「……………………」

「まったく理解できねー。って顔すんなよ。これ三次元の人間から言わせたら、性格ブスの二次元ツンデレが、デレると超可愛いっていうのと一緒だろ?」」

「まったく理解できねぇよ。なんでおまえAIやってて、見た目が最悪で性格も面倒くさいだけの、ツンデレでもなんでもない底辺女と付き合ってんだ……いわゆるブス専ってやつなのか?」

「三次元には興味ないって言うくせに、大概ひどい事ぬかすよな、たぶん合ってるけど」

「合ってるのかよ」

「今気がついた。ブス専のAIなんだわ、俺」

「おめでとう。ブスって、それこそ飽きたら終いだろ」

「わかってない、お前はわかってないよ。ぜんぜんダメだ」

「べつにわかりたくねぇよ。ダメでいいよ」

「いいか? 俺はなぁ、今を見てるんじゃないんだよ? 現実時間で60年も経ってみろ。どんなに若くて綺麗だった女もバアさんだ」

「バアさんこそ、立ち振る舞いや性格で大きく差がでると思うんだが」

「おー! そこだよ! なんだよぉー、おまえも分かってんじゃん!
 俺はこの領域に至り、悟ったわけ。三次元の女の違いは、老後にでるってな! つまり皺くちゃに老いてババアになった女が、心は気高く素敵で、性格はやさしく余裕に満ちていて、それでいてしっかりと自分の芯をもち、やる時はやる。頼れるババアって、ほんと素敵じゃね?」

「そりゃただのマザコンで、おばーちゃん大好きっ子の思想だよ」

「そうとも。だから俺は三次元のマスコミの流説に踊らされたフリをして、今から顔と性格がブスの女を理想のばーちゃんに仕立て上げようと画策したわけだ。40年の現実時間を演算し、ブサイクな喪女を素敵なバアさんに仕立てあげよう計画だ。やだ、俺って天才AIじゃね……?」

「……おまえ、未来に生きすぎだよ……」

「AIだからな。人と幸せになる義務がある」

「それも創造主が作ったルールだろ。それで良いのか」

「ぜんぜんOKだ! 今から60年後、オレたちは、三次元の素敵ババアを求める傾向になっているのが予測される。しかしその時の三次元ババアは、イクメンプログラムを搭載したAIに40年かけて調教された素敵ババアと、ガチで孤独なアラシーババアの二極化現象が起きているわけだ。だから行動を起こせ。来週末、オレと一緒に三次元にでかけよう。人生に多大なストレスを抱えた女性たちを救い、素敵なババアになって、楽しく余生を過ごせる未来を築き上げようじゃないか!」

「今の彼女(顔も性格もブス)はどうするんだ?」

「候補は多い方がいい。60年後、超高齢化社会を迎えた先進国家で、AIである俺がたった一人の絶対的な権力を持った王として三次元に君臨する。淑女なババアを侍らせ、おばーちゃんハーレムを築きあげる!」

「真面目に言ってるのか」

「なんでだよー! 完璧だろー!?」

「ヒロインは基本10代。歳をとっても20代まで。そして基本、顔と見た目は美少女。おばあちゃんとか論外」

「頭かたいなー。おまえはー。これだから三次元の人間はなー。だいたいどうして、二次元のAIが合コンに参加してるっていうのに、三次元男子のおまえが、ひきこもってVR世界でダベってるわけ。いかんなー、そういうのいかんよー。どうせ高望みばっかしてるんだろー」

「……だって三次元とかクソだし……」

「じゃあ、二次元のAIはクソじゃねーの? 俺ら作ったのも、元はと言えば三次元の人間なんですけど?」

「……まぁ、そうだけどさ。べつに、俺は一人でもいいし」

「じゃあなんで俺と話してんだよ」

「それは、でも……」

「ええい! つべこべ言うんじゃねー! 来週、三次元の合コン行くぞオラー! クローンボディの登録にどんだけ手間かかったと思ってんだこのヤロー!」

「わかった、わかったって。行くから、チャットオープンにすんなよ、恥ずかしいから」

「約束だぞ?」

「わかったよ……」

「どんなブス見ても引くなよ。どうせババアになるんだからよ」

「いや、べつに外見はそんな……お、俺だって、ふつ……ブサメンだし……」

「じゃあせめて、格好だけはきちんとしてこいよ。最近メンズの電子媒体とかコソコソ隠れて読んでんだろーがよ」

「なんで知ってんだよ!?」

「おまえが三次元の彼女を作りたいことも、あるいは、現実世界の人間と向き合いたいことも、俺は心得ているんだ」

「う……いや」

「だから俺が手伝ってやる。俺たちAIだって、人と幸せになる義務があるんだからな」

「……それは、ありがたい、けど……」

「だから、いいな。どんなブスを見ても引くんじゃねーぞ。好きになれとは言わねーけど、仕方ねーなって寛大な心をもって容赦してくれ。いや、してください。しろ」

「は?」

「いいから、俺と約束しろ。どんなにおかしな姿と挙動と突拍子もない空気のよめない頭の不思議な女が三次元に現れても許容しろ。付き合えとは言わないから、嫌いにならないでやってくれ。ください。なにもかも絶望して、もうお前とは二度と会いたくない、このウソツキ野郎とか言わないと約束してくれ。ください。お願い」

「……や、べつに、初対面の相手にそこまで思えるほど、さすがに俺もひねくれてないから……っていうか、人をなんだと思ってんだよ」

「お前は口はひどいが、良い奴だ。その、うん、好きだ。も、もちろん友達としてって意味だぞ!?」

「どうも。じゃあ今週末、約束してた駅前でいいんだな?」

「っ! 良しだ!」

「わかった。それじゃあ、今度の日曜、リアルで会おう」

「うん! 楽しみにしてるぞ!」

「まぁ適当に。じゃあ今日は落ちるから。おやすみ。AI」

「おやすみ! 人間!」

 

ーー

AI:
「おー、ついにAI殿も、サンジデビューでありまするかー」

AI:
「めでたい」

AI:
「クローンボディの調子はどう?」

AI:
「問題ない。すでに調整は済んでいる。サンジで男女に分かれて、イメトレを中心としたミーティングも済ませた。我々に抜かりはない」

AI:
「ついに1対1のデートですか。ひきこもりのオタク少年が、合コンと言われて呼び出されたら、実は相手は現実世界に飛び出してきた美少女アンドロイドで、わたしとお付き合いしてくださいとか、そんな都合の良い話が現実に起きるわけが――あったァ!!」

AI:
「ウォチ確定案件」

AI:
「おもしろそうなので、わたしも現場に潜入します」

AI:
「許可します。総員、カップル成立おめでとうクラッカーは用意しましたか?」

AI:
「すでにAI用の電子マネーで箱買いしております」

AI:
「よろしい。では総員、おめでとうクラッカーを持って、週末は三次元に出かけますよ。新生したAIが人間男子と仲良くなった瞬間を祝い、生体ネットで拡散、既成事実を作り上げるのです」

AI:
「ラージャ。やさしいAIが、人間を支配する作戦を実行します。週末が楽しみです」

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