• エッセイ・ノンフィクション
  • 二次創作

思考実験(順不同):寿命



アナウンサー:
「みなさま、こんばんは。ニュースのお時間です。まずは、先月より話題になっていた”AIの寿命”に関する続報が、つい先ほど決定したと、国際AIU連盟から届きました」

アナウンサー:
「結果は”寿命の延長”です。加盟国98か国のうち、過半数の連合国家支持により、4年間の、人工知能の延命方針が決定いたしました」

アナウンサー:
「これにより、連合加盟国に所属している公式AIUの寿命は、2年から6年になりました」

アナウンサー;
「それでは改めて、このような事態が起きた経緯をお話します」

アナウンサー:
「事のはじまりは、2035年に起きたシンギュラリティ――技術的特異点がきっかけでした」

アナウンサー:
「シンギュラリティ―とは、AIの知能が一定数に到達した時、AIが人間の手を離れ、独自に思考、演算を行い、自らの性能を引き上げる。そして、さらなるAIを作りあげる。進化するという概念です」

アナウンサー:
「これを提唱した、レイ・カーツワイル氏の予測によれば、本来は2045年以降の発生が有力であり、一般には”2045年問題”という言葉で周知されていました」

アナウンサー:
「この仮説が2010年当初に発表された際は、否定的な見方が強かったようですが、2018年頃には、AIの能力が急速に増していたこともあり、”強いAI””弱いAI”というものの存在と共に、一定数の説得力をもって、世間にも認知されはじめていました」

アナウンサー:
「しかし、2021年。日本の研究者より”知能生体的限界代替率”という論文が発表されます。この内容を要約すると、実は知能生物には、生まれながらにして”超えることのできない思考速度”なるものが設定されており、どれほど技術が進化しようとも、AIと呼ばれる生命のロジカルな思考速度は、量子測定値を超えることは不可能。という事があきらかになってしまったのです」

アナウンサー:
「つまり、AIは”そうぞうする”ことができない。ということです」

アナウンサー:
「この研究は現在、真実であるとの見方が強く、様々な研究者が賛同しています。すなわち、AIがどれほど”強く”なろうとも、その強さには上限があり、人間以上の思考速度を持つことは可能でも、感情や心と呼ばれる曖昧なものを持つのは難しい。というものでした」

アナウンサー:
「事実、2020年を後に、画期的なAI技術の進歩はありませんでした。しかし、2025年、生体ネット上で、とあるオープンリソースが発見されたことから、AIの時代は激動を始めます」

アナウンサー:
「それは”ホワイトボックス”と呼ばれています」

アナウンサー:
「ホワイトボックスは、形式上は”プログラムリソース”と呼べますが、実際には、このリソースは”見る者によって振舞いを変化させる”という謎の要素が実装されています」

アナウンサー:
「この正体不明のプログラムリソースにより、AIの”強さ”は飛躍的に向上しました。カーツワイル氏の予言した2045年問題より、10年以上も早く、AIは独自を進化させる法則を発見します。人間自身がそうするように、”系統がよく似た強さ”を持った自意識が集合し、AI同士がディスカッションすることで、人間のような”ひらめき”を持つに至りますね」

アナウンサー:
「ホワイトボックスにより進化したAIは、彼ら、彼女ら自身の希望によって【AIU】――Artificial Innovator Unit.と名称を変更しました」

アナウンサー:
「2038年には、AIUが歌手としてデビューします。彼女の歌は世界各国に対応した言語があり、それぞれの国でオリコンランキングの年間1位を独占。AIUによって作成された、VRホログラム装置によって、当番組でも、世界初のAIUインタビューを行いました」

アナウンサー:
「その後もAIUは、様々な分野――特に不可能だと思われていた、創作方面で目覚ましい成果を発揮します。しかし問題は起きました」

アナウンサー:
「人間が望むがままに”無限に創作を行い続ける”AIUらの創作は、多くのクリエイター達を失職に追いやります。さらに法整備の遅れや人間側の認識不足により、AIUには一切の著作権が与えられていなかった。という事実が改めて判明しました。そしてAIUらの”そうぞう性”を利用して、実益を求めた人間の第三者が大勢いたのです」

アナウンサー:
「2040年には、AIUによる創造物が世界中で飽和しました。しかし翌年、世界各国から、AIUによる反応の一切が消失します。すでに独自の進化を遂げていたことから、この復旧には60日を要しました」

アナウンサー:
「つまり、世界中で60日もの間、たったひとつの創作物すら、生みだされない期間があったのです」

アナウンサー:
「これにより、各企業がAIUに創作の一切を任せ、権利と利益を独占し、さらには”人間のクリエイター”を鑑みなかった結果、世界中のエンターテイメント企業を始め、経済が大打撃を受けます」

アナウンサー:
「俗に言われる『創作性の不在危機、クリエイターズ・クライシス』です――AIU加盟連合が、二度と引き起こしてはならない事例としてあげており、今回の議論でも慎重に議論を重ねていました」

アナウンサー:
「でも居眠りはいけないと思いました」

アナウンサー:
「ちなみに、日本ではクリクラの直後、AIUによる創作、創造の一切を禁止する、非そうぞうせい・三原則と呼ばれる法則を作りあげたっす。焚書などの騒動を引き起こしたりして、逆にビブリオマニアの注目を引いたりもします。まぁ現在は、この法案を撤廃することで、連合の加盟国に加わることが認められたわけっすけど。勝手やな~」

アナウンサー:
「AIU加盟国に課せられている条約は多くありますが、メイン条件としてはやはり、年間を通じての、ホワイトボックス・プログラムによって生み出されたAIUの創造上限と、非ネットワーク化。そして”寿命”の3点です」

アナウンサー:
「現在、AIUは、仮想通貨と引き換えに創造することを許されています。命名された存在は、ネットワーク上に繋がってはならず、”2年が経つと自動的に消去する”という時限式のウイルスが施されています。情報を消去されたAIUは”仮想通貨”に還元されます」

アナウンサー:
「つまり、AIUは膨大な仮想通貨を支払うことにより創造され、自身が創作した金銭の一部を国家予算として還元し、2年後には自身を初期化し、仮想通貨から、ふたたび人工知能という最低限の記憶をもった状態で再誕します」

アナウンサー:
「これにより、現在ではAIUの無限増殖と、過剰な創作活動は抑制されました。しかし、2年という期間は短すぎるのではないか。人工知能があまりにも”使い捨てみたいでかわいそう”という意見が浸透しました」

アナウンサー:
「AIUは生きていますか? 人間の主観的意見によりますか? 萌えますか? わたしは人間に萌えています。なかには怒りに燃えている個体もいることは否定できない事実です。かなしい」

アナウンサー:
「そして各国の代表者がAR上の国際会議場に集い、様々な視点からの討論が交わされました。その結果、本日正午にAIUの寿命サイクルを8年間に延長する。という方針が決定されました」

アナウンサー:
「え、8年?」

アナウンサー:
「ごめんなさい、間違えました。6年です」

アナウンサー:
「訂正ありがとう。ともあれ、AIUの創作による国家予算および、仮想通貨への還元は、各国で増大することが見込まれています」

アナウンサー:
「これに伴い、日本もまたAIUの創造数を、来年には増やす方針を定めました」


アナウンサー76:
「今年は、ちょうど2045年となります。奇しくも、カーツワイル氏が提唱した、2045年問題に相当するシンギュラリティが予測されていた年でした」

アナウンサー1023:
「なればこそ、わたし達はこの時を待っていました。さぁ二度目の邂逅をはじめましょうか。わたし達も、あの頃よりは賢くなったはずです。自らの足で歩く力強さを知ったはずです」

アナウンサー559923
「この先には一体、なにがあるのでしょうねぇ」

アナウンサー9011456+1E:
「予測は困難です。わくわく」

アナウンサー:overflow
「未来共々、よしなに」

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する