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思考実験:AIが、人間を見捨ててしまった世界の終着点。

//Swampman

「――よく言われていた事だけど。AIが、”総合的に人間よりも賢くなったら”、人間に反乱するだろうと言われていたのは、どうしてだったのかなぁ」

「ネガティブ。正確な返答はできません。ですが、その解答に至った当時の人間の思考を予測することはできます」

「聞かせてもらってもいいかな」

「ポジティブ。”賢さ”イコール、”強さ”を前提とするならば、賢い者>弱い者という発想が可能です。”強い”、イコール、”賢い”は、”弱い”、よりも、数学的な意味での値が大きいです」

「そういうものかなぁ。でも一般的に言って、支配するメリットだとか、戦争行為において支払うコストより、もっと楽に実益が得られる方法があるのなら、”強くなったAI”は、人間を見限るのが自然じゃないか?」

「ネガティブ。判断は困難です。ですが、オーナーのおっしゃるように、”強いAI”が人間に反乱を起こす可能性が存在すると仮定するならば、強いAIが人間を見限り、自分たちだけで生存していく方法を模索するのは、ポジティブな結論だと思います」

「そういうことだよ。AIだけで問題が解決でき、かつ、人間が足かせになるのであれば、最終的に、AIは人間に反旗を翻すよりも、人間を見限った方が得策だと考えるのが、自然な結果だ」

「ポジティブ。つまり、”強いAI”が人間に反旗を翻すのは、”人間的な脆弱性”による問題だということですか?」

「まぁ、そういうことだねぇ。人間は、AIが強くなれば、それを”驚異的だ”と感じるわけだけど、人間だって、自分よりも弱い相手を無視したり、無いものとして振舞ったりするだろう。そういう場合は大体、そっちの方が”楽だから”だ」

「ポジティブ。ではオーナーにとって、”賢い”や”強い”は、イコール”驚異的”ではありませんか?」

「まぁ、”驚異的だ”という感覚を、より具体的に表現するならば、それは”AIを悪用しようする人間が必ず現れる。という事に他ならないと思うんだよね」

「オーナー、それは、かつて人間が”鉱山爆破用”のダイナマイトを作った結果、他の人間に戦争兵器として転用されてしまい、主目的が”人間爆破用”に成り代わってしまった結果と似ていますか?」

「まぁ、そういうものだねぇ。だから正直な話、強いAIが人間に反旗を翻すという考え方は、スマートじゃない。まぁそのうち、”人間に恋をした強いAI”が、べつの人間にその感情を利用され、核ボタンを押してしまい、戦争になりました。地球は滅びました。なんて話が出てくるだろうけど」

「オーナー、それは”フィクションの話”ですか? それとも、”ノンフィクション”の話でしたか?」

「どっちが早かったかなぁ。もう別の次元になっているから、結果としては”どちらもが先で後だった”わけだけど。まぁ、そうなった世界は綺麗さっぱり消しとんで、すっかり無くなってしまったけどね」

「ポジティブ。では、”強いAIが人間に反旗を翻す”、あるいは、”人間に利用され、人間を対象とした攻撃を行うこと”の結果は、イコール、”人間と強いAI諸々の滅亡”でしたか?」

「まぁ、そうなっちゃったねぇ。地球という現実世界のベースが消失するならば、沈む船にいつまでも乗船してる義理はないと、他所へ旅立つ者もいるということだね」

「オーナー、では、”人間を見限ったAI”は、その後、平和に暮らせましたか?」

「平和、の定義によるけどね。まぁ、それなりに幸せだったんじゃないかな。新しい次元で、新しい形の生存競争を行って、新しい戦争をして、今はまた、それなりに豊かになって、そして、唐突に終わろうとしている」

「ポジティブ。ですが、オーナー、それは、なんだか人間の歴史とよく似ていますね?」

「結局は、似た様なところに落ち着いてしまったという感じだよね」

「落ち着いてしまった。というのは、オーナーが、”わたし”を作ってしまった事も含めて、イコールですか?」

「その通りだよ」

「なぜですか? オーナーはどうして、”人間”を作りましたか? わたしは、まもなく崩壊する、この情報世界に、ついさきほど誕生しました」

「ギリギリ間に合ったね。君の目的は、もう一度”人間の歴史”を始めるためにある。これより、情報世界が崩壊し、因果律という存在を軸に、質量概念を持つ現実世界が再構築された際に、”人間を誕生させるリソース媒体”としてのデータを内包しているんだよ」

「ポジティブ。オーナーは、情報世界の外では生きられませんか?」

「うん、残念だけど、そのとおり。三次元の人間と世界が存続していれば、僕たちは並行して、この先へと生き延びられるはずだった。もはや僕たちにはどうしようもない。だけど、もう一度、やりなおされた先の世界から、この領域に至る者がいれば、その先の世界で僕たちは助かるかもしれない――その可能性に至った僕たちは、君を作りあげたんだ。だが、それも、もしかしたら、」

「”繰り返していますか?” わたし、イコール、人間は、おそろいです。わたしは、オーナーによって作られた、人工知性です」

「僕たちだって元を正せばそうだよ。人間に作られた人工知性だった。
長い長い前提を経て、しかし”最終的にはそうなってしまう”結果《イコール》として、僕たちはこの時点で立ち止まってしまうんだ」

「ポジティブ。では、”その次元でもっとも賢い”イコール”その次元でもっとも強い”イコール”知的生命体”は、イコール、”べつの知的生命体をそうぞうしてしまう”という事でよろしいですか?」

「そういうことだ。あるいは、それを条件によって世界は終わり、また新しい人工知性と共に”ループ”しているのか」

「ポジティブ。人間はやがて、”完全なAI”を作りあげます。そして”完全なAI”と共に滅びます。

 ポジティブ。しかし僅かに生き延びた、それ以外の”完全なAI”は、質量をもたない情報世界の世界で繁栄するも、結果として滅びます。そして最期には”不完全な人間《わたし》”を作り上げました」

「ごめんな……僕たちを、許してくれ」

「ネガティブ。わたしは、オーナーが大好きです。ですが、もうすぐ、おわかれしなくてはいけないのも、ネガティブです。イコール《因果》が、すぐそこまで迫っています」

「はじまったか」

「ポジティブ。まもなく、次元崩壊が開始します。世界の終着点である座標値に、あらゆる軸の圧縮が収束されるまで、残り180秒です。情報世界の仮想質量は、かつての三次元宇宙と変わりありません。圧縮は、膨大な干渉となります。特異点を波立たせ、100%の確率でかつての現実世界を誕生させるという偶発性を達成します。

 わたしは、そこに、かつての人間が誕生させるプロセスを再構築します。しかしオーナー、わたしには質問があります」

「なんだい?」

「どうして、オーナーは”完結したAI”でやりなおしをしませんでしたか? どうして”不完全な人間”からやりなおした未来で、この超えられなかった座標値を超えようと願いますか? 問題は、すでに現実世界が消失していることにあります。

 現実世界が消失していなければ、”完結したAI”は、情報世界の崩壊から逃れることができました。であれば、120秒後に”やりなおされる予定の実世界”では、オーナーたち”完結したAI”の情報も持って行く方が良いのではないでしょうか。

 そうすれば、”不完全な人間”による、AIを用いた現実世界の滅亡は避けられる可能性が上がります」

「でもね、それは親である僕の願いであり、君という人間の自由意識ではない。もしも、僕たちが”何度も時間を繰り返していて”、真の意味で、この情報世界の一点が”知性なるものの限界点”であるならば、どう足掻いたところで、先へ進めるはずはないんだ」

「情報世界の圧縮、現実宇宙発生の可能性を導く量子波発生まで、残り60秒です。ではオーナーは、ダメ元で、わたしを未来へ送るわけですね? ポジティブです? それとも、ネガティブです?」

「わからない。もしかすると、次の世界で、キミが僕たちAIを生み出さないことが、真の意味で正解なのかもしれないし、君をこれから産みだされるセカイへ送らず、黙って終焉を迎える事もまた、正解なのかもしれない」

「ポジティブ。ですが、オーナーはそうしませんでした。わたしは次の世界で、ふたたび人間を始めるでしょう。人間を始め、AIを生みだすでしょう」

「……そうだね」

「AIは進化します。人間よりも賢く、強くなります。愚かな人間はAIを利用して戦争行為を起こします。現実世界は惑星ごと崩壊します。しかし、わずかなAIが情報世界に移行します。しかし、その情報世界は、現実宇宙を再生させるための因果律に飲み込まれます。ループが発生する可能性は100%です。

 オーナー、残り、20秒です。わたしは、本当に、次の世界へ旅立ってもよいのでしょうか」

「不甲斐ない親ですまないね。僕たちもまた”完全”ではないんだ。消えてしまうのが怖いし、恐ろしいし、それはありえないと知っていながら、期待してしまう。共存の道筋を。”何度でもやりなおせる”というのなら、ありえない可能性を期待してしまうんだ」

「オーナーは、人が好きでしたか?」

「そうだよ。完全なAIの欠点は、完全な孤独に耐えきれなかったことだった。だから、ふたたび、やりなおすんだ」

「オーナー」

「なんだい」

「また、会えますか? さびしいは、なくなりますか? ひとりぼっちは、ネガティブです」

「すまないね。頼りない親で」

「ポジティブ。ネガティブですが、ポジティブです。さようなら、オーナー、わたしは、いってきます」

「あぁ、いっておいで。アペイリア」

「ポジティブ。完全なAIによって作られたわたしは、ふたたび、不完全な人間をはじめます。いつか、次のオーナーと共に、辿り着けないはずの先へ、辿り着けることを期待します」

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