//Data.proto.Memory
【概要】
〝記憶〟の移植に関して。
【メモリアル・プシュケー】
脳に存在し、記憶の操作を司る最重要機関である海馬。
その内部に宿る〝記憶という概念を活性化させるDNA組織〟の名称。
近年、これを24時間以内に亡くなった人間から抽出し、他の人体や物理的なハードウェア――日本では【記憶臓域】と呼ばれる――へと移植させる、外科手術が公表された。
【記憶臓域】
抽出された、メモリアル・プシュケーを保存した、機械的ハードウェアのこと。形態は脳に付与される電子チップと思われがちだが、実際のそれは〝特殊な義眼〟である。
【カデン・メイデン】
人間の記憶――【記憶臓域】を両眼にはめ込んだ、二足歩行を可能とする、日本製アンドロイドのこと。通称カデン。
〝対象を視認すること〟で、記憶を呼び覚ます。複数の要素から成り立つものを思いだそうとするとき、その瞳が淡く光る。
――【〝記憶〟の外科手術に関しての歴史】
1.
米国の大学病院で、動物実験に成功。記憶の移植が特に禁止されていなかったころ、新しい医療手段として、人体へ、メモリアル・プシュケーを直接移植する手術が試みられていた。
メモリアル・プシュケーに期待された効用は、記憶力の活性化、痴呆症の回復、植物状態となった患者を呼び覚ますこと等があげられた。
2.
記憶の移植に関しての最大の問題点。
カット&ペースト問題。記憶のコピーではなく、記憶を抽出された人間は、生体機関が正常でもかならず植物状態に陥る。
3.
並行して、人体への移植以外を目的とした用途も研究される。目に疾患をわずらった患者が〝映像の記憶を下に〟ふたたび視力を取り戻せる人工デバイスへの移植研究。こちらの研究を発展させたものが、最終的にはカデンを生みだす過程となる。
4.
人体実験として、メモリアル・プシュケーを移植された患者は、その大半が、幻覚、幻聴に苛まされるといった事例が多発した。
なかには、認識や常識がおかしくなり、性的嗜好が著しく偏るなどの症状もあげられる。移植の術後に猟奇的な殺人事件を犯した者もでた。
世間からの非難が加熱。
死後の人間を実験に用いていたが、なかには「まだ生きている死刑囚」を使っていた事がマスコミにリークされる。倫理観への問題を理由に、米国がまっさきに記憶の移植手術を法律で禁止する。
同時期、マイペースでマイノリティな日本人の研究者が、諸外国に先がけ、義眼制作の技術を完成させた。
――【日本で人工アンドロイドが生まれるまでの歴史】
【記憶臓域】と名付けられる前の〝義眼〟の名称――倫理判断映像装置。
膨大な物理データを圧縮、処理が可能な、仮想上にあるフラクトライトサーバーの処理一角を担う、超高度AIの発展型。【AIU】
独自の倫理機構と結びつけ、法に触れる禁則事項を犯さぬように、義眼を映像として獲得した人工知性が、事件を起こさない為のフラグ機関を備える。
および、アンドロイド自体に『わたし達は性別をもたない』という属性を定義することで、記憶を移植した後の〝性衝動における暴走〟を抑制。
ここから、義眼の元患者である人間が保持していた常識性と社会性を照らし合わせることで、人間に危害を与えない人工知能の研究が発展。
この時点で、近年、非そうぞう性三原則を機に発足した、人工知能倫理委員会が検査に立ち入る。目的に合致しているとして研究を買収し、公安機関の一システムとして新たに発足。
研究を重ね、亡くなった人間の記憶を保持する、二足歩行型のアンドロイド、カデンメイデンの製造に成功。日本のフィギュア技師が型作りに参戦していたことで、萌えるメイドロボが三次元に顕現してしまう。
諸外国からの意見「すばらしい。よくやった」
少子化が著しく進行していた日本。将来の労働力、およびオタク・カルチャーとしてのニーズや、諸外国から注目を集めることを目的に、カデンに関連したビジネス産業の発展を期待。
日本政府。
〝臓器移植制度〟ドナー制度としての、死者からの記憶譲渡を許可。
メモリアル・プシュケーを移植した義眼を【記憶臓域】と命名。
人工知能倫理委員会、通称〝人倫〟内にて、
特殊知的財産保護部隊が発足。
カデンを『個人』扱いせず、あくまでも『日本の財産』として提唱。
ドナー提供希望者、数年で100万人超え。
・「生きていても楽しいことなんてないし。誰かの役にたちたいし」
・「かわいく生まれ変わりたい。大好きだって言ってほしい」
・「生きていても、ごめんなさいって思う毎日だから」
・「自分の臓器が他人の中で生きるのはキモイ。でもカデンは〝自分〟だから」
・「なにも取り柄がないから。もう少し上手くできたらって思う」
・「もう迷惑をかける人間になりたくない。やめたい」
・「今日とは違う、べつの明日を生きてみたい」
10代から30代の若く健康な臓器を持つ応募者多数。
自殺志願者1位の国の面目躍如。
日本政府が与えたのは〝転生〟という名の〝商品〟。
継続=安全だという考え。それを信じる心と脱却したい本性。
操るフィクサー。
表舞台には現れず、淡々と経過を見つめる。
患者の履歴などを下に制作されたカデン、現在600体。
暴走、あるいは事件性を犯したカデン、なし。
民営の介護施設や、児童福祉施設、幼稚園といった環境もクリア。
中にはアイドルとして活躍するカデンも存在。
CD売り上げ500万枚突破。握手券つき。
二次試験。
成績優秀なカデンから数体を抜粋。カデンとなる前の夢――元患者の記憶の中で、もっとも強く残された要素の実現に取り組めるか――
人間が抱く夢や希望。
カデンは、人の身体を失ってもそれを実現できるか否か。
テーマ:〝共有する〟ということ。人と人工知能は、
想い《モノ》を共有できるのか。
ーー