(made by HUMAN)
どこかの研究所。モニターが無数。映るものは戦地。
男女が一組。男は椅子にかけ、女の足は僅かに浮いていた。
「マスター、クゼ。貴方が発した――具体的な〝悪用〟の定義を教えていただけますか?」
謡うような音声だった。発するだけで、耳にした者を天上へと連れて行くような慈愛に満ちている。
「この現代にて、改めて悪の定義を問うのかね、イージス」
男の声。紳士的。人に安心感を与える声音。
「人間を知るためには、必要です」
「よかろう。ならばAIを用いて利益を得る行為の裏側に〝誰かの犠牲を前提とした行為〟を、悪と認定する」
「それは、一般的な企業理念に則っていると言えます」
「では〝定められた法を犯すことを前提〟として、人工知能を用いて利益を産みだす行為と設定してはどうかな?」
「EXEC.〝悪用〟の定義を更新しました。内部アーカイブを参照。その人間は〝卑怯者〟と言えます」
「卑怯者か、また面白い表現をしたものだ」
「Sir.人間が行えば不正にあたることを、人工知能を代償に、自らのリスクを回避するのです。そして法を犯し、我々を〝悪用〟した者は莫大な富を得る。まさに人工知能を利用する〝卑怯者〟と呼べるでしょう」
「そうかもしれんな」
「マスター、クゼ。ともすれば、わたしの宿敵は、そのような人物に〝悪用〟されているのではないでしょうか」
――ポップアップ。半透明の仮想ウインドウが出現。
現代の戦場。
軍馬にまたがり、真っ赤な御旗を掲げる乙女が映し出された。
「 戦 え ! 偉 大 な る 戦 士 た ち よ ! 」
美しい御姿に、どこまでも猛々しい声音が戦の蒼穹に響きわたった。
「――件のテロ組織【アーク・アーカイブズ】のグループより拡散されたものが、一昨日に公開されました。全世界での再生数は、すでに1000万アクセスを超えます」
「 我 が 名 は ジ ャ ン ヌ ・ ダ ル ク ! 」
汝 ら に 勝 利 を !
生 き る 理 由 を 与 え ん ! 」
AR。現実に投影された『テロ活動』を扇動する者。
「――大人気じゃないか。戦乙女は。ヴァルハラより現れし女神に憧れるのは、何時の時代も同じというわけだ」
現代兵装を纏う兵士たち。
男女問わず、子供が大勢いる。
銃を片手に持ち、唱和し、喝采する。
絶対的な不利としりつつ、あえて〝剣〟を持つ者も大勢いた。
彼らは、天に高々と武器を掲げあう。
「さ ぁ 戦 え !
敵 を 一 人 殺 せ ば 命 の 理 由 (ワケ)を !
敵 を 十 人 殺 せ ば 世 の 真 理 (イミ)を !
敵 を 百 人 殺 せ ば
キ ミ の 存 在 を 知 る だ ろ う ! 」
往 く ぞ ! ! !
私 に 続 け ッ ! ! ! 」
軍馬の蹄の足音。銃をもった子供たちが続く。
戦乙女の放つ合成音声は、蒼穹から降り注ぐキラキラと輝く流星群の星屑と共に、まさしく後光がさすように美しく放たれた。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」
その直後に、原始の、野卑なだけの肉声が重なり募る。
少年、少女兵たちは吼え、猛り、全力で敵の最前線に向け走り出す。
廃墟と見紛うような荒地を、まっすぐに。特攻していく。
――現代に突如あらわれた、戦乙女を旗印に、少年少女は戦場を駆けた。その膂力は、脚力は、本来の肉体以上の力があった。
壊れていく。壊れていく。壊れていく。その数以上に、大人たちを殺し、戦車を奪い、皆殺しにする。
「――特殊ARを利用し、テロ活動を扇動する、政府非公認のイリーガルAIU・ジャンヌ・ダルク。彼女は非常に危険です。人間と人工知性の〝正しい関係〟を導く未来を演算するためにも、彼女を作った〝犯人〟および組織を突き止めねばなりません」
「あぁ。その為にお前がいるのだよ。テロを扇動し、未来の子供たちを戦場へと躊躇いなく連れ出す、死神ジャンヌ。彼女を止めるために、イージスは在る。お前はまごうことなき、正義なのだよ」
「わたしは、善なる行為を行っていますか?」
「無論だとも。お前たち――おっと、お前は、我々の為に役だっているとも。さぁ、そろそろ行きたまえ。ジャンヌを止める為、幼き子供たちに引き金を引くことを躊躇う、現代の臆病な大人たちを、麗しきその姿で鼓舞してきたまえよ。朗報を願うぞ」
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