【黒剣に花束を】
椎木白秋さんの作品。完結・全文33万字超。
あらすじを読んだ初見の感想としては、異世界テンプレであること。なろうタイプ。パワーワードに主人公33歳。エルフ、奴隷商。等
ややテンプレから外れている点として、奴隷を買う方ではなく、奴隷になる側という設定がある。エルフと一緒に捕まるらしい。
人物:
ハル:主人公。型に捕らわれないタイプ。
ルイス:異世界騎士。生真面目。
フィーナ:姫様(フィーナリア姫)エルフ?
??:王妃。ハルの反乱を利用する悪役。
流れ:
1.ハルが異世界転生、奴隷に。後に奴隷商に反乱を起こす。
2.王妃に反乱を利用される。
3.ハルとルイスが仲違い。ルイスが姫を奪い去る。
4.ハルが駆けつける。
PR:
ハルとルイスのバトル。
【あらすじを見た話のイメージまとめ】
現実世界で「ハル」という33歳の男キャラクターが、異世界で奴隷になりつつ組織に反旗を翻す。一時は自由の身になり、堅物の騎士ルイスと友情を結んだりもしたが、それも長くは続かなかった。
ふたたび逃亡の身となったハルは、ルイスとの意見の相違によって、王女を奪われてしまう。一人の女性をかけて決闘を行う。
【あらすじを見た上での率直な感想と疑問】
まっ先に「なろう」だよねと思った。あと、本来のPRあらすじではないところに、作者さんの主張「チートは無いです。努力します」という一文を見つけた。
これはわたしの所感だが、なろうの作品で差別化を図る利点として、チート無し、努力するというポイントは利点にはならない。何故かと聞かれたら、人間は実際のところ【努力しないで強くなりたいし、頭がよくなりたいし、モテたいし、仕事がバリバリできるようになりたい】のである。
人間なら、誰もが共感できるポイントをくすぐってくるのが、異世界なろうファンタジーの『最大の利点』である。故にチート無し、努力をするというのは、そのジャンルにおいて利点にならないし、差別化にもならない。ましてや、オリジナリティがあるとは呼べない。
むしろ考え方を逆転した場合、無数に増殖を続ける「なろう」類の小説では「チート無いです」「努力します」を主張するよりも、ゲーム的な要素を濃縮させた方が良い。たとえば、
『現代日本とそっくりの異世界で、ダンジョンの中に居酒屋を開いて冒険者と一緒に生チュー頼んで宴会します。本日の裏メニューはレッドドラゴンの霜降りです。厨房では料理長のドワーフ爺と女将のエルフがいつもケンカして時々血の雨が降ります。最近は永き眠りより目覚めた腹ペコ魔王が常連客になりました。この前は魔王を討伐しにきた騎士団が1500人ぞろぞろとやってきました。吟遊詩人がバックミュージックでG線上のアリアを奏でます。うちは何屋だ。っていうか迷惑だから外でやれ貴様ら』
という話です。とか、限定的な世界観を濃く、具体的に主張してもらえた方が、異世界に興味がない人でも関心をもってもらえると思う。ちなみにブーメランである。わたし自身、精進せねばならぬ。
ただなろう系列の小説タイプの「奴隷」と言えば、主に連想されるのは「姓奴隷」のこと。需要があるのも、そのタイプの奴隷というのが私の考え。この手の話に一定の需要があって、売れる必然性は【男性の征服欲】を満たすため。
中には「奴隷のなりあがり物」という読み物もあるが、そういった場合、主人公が転生者ではなく、現地人であることが多い。その場合はゲーム的な用語でも見受けられる『闘技場』『グラディエーター』『剣闘士』等のワードが頻出する。
よって、主人公(33才男?外見が変わらなければ)が、異世界転移した上で、最低階層の「奴隷」から始まる必然性は薄いのではないか。(あくまでニーズとか余計なことを考えた場合)
どちらにせよ、なろう小説を好む層は『姓奴隷』がいた方が楽しく読めるだろうし、わたし自身もまた、主人公に強力な【信念】や【欲望】に関わるものがあれば、それにつられる形で読める。ただ今回提示されたあらすじだけでは、ルイスはともかく、肝心の主人公であるハルに関しての存在主張が弱かった。
ここまでの興味対象:
ハルという男性は『何を大事にしている』のか。
逆にハルという男性の信条に共感ができれば、一気に興味がわく。
わくわく。
ーー*
【PRのサブタイトル読書中】
・文章上手い。綺麗。読み易い。むはー!
・視点はルイス(敵側)
・1500対100。ハル側が劣勢。
・ルイスの部隊は騎馬。
・文章の前後を読んでなかったので浮かんだ疑問。
ハル側の部下は奴隷で老人。奴隷は馬に乗れるのか?
歩兵対騎馬隊は、常識的に考えると騎馬超有利。
・火計。騎馬部隊を殲滅。魔法、冒険者という単語が出現。
気になったところ。魔法があるなら、敵の騎士にも魔法を使う騎士はいないのだろうか。貴族なら炎を操る剣とか、雷を飛ばす弓とか装備を持っていそうだけど。
・爺が強い。騎士がすごく弱い。
・中ボス登場。主人公がバトル。中ボス瞬殺。
・テンポがとても良い。読み易い。
・茶化しているわけではなく、お約束は大事。
・時代劇ドラマとかにある「ザコ敵出現」「ザコ敵死す」「悪代官が罵詈雑言を放つ」「やかましいわ!」ズバァ「ぐわー!」という流れ。完璧だと思う。
・ハルのセリフ
「俺は騎士じゃねえからな。騎士道精神とかは知らねえよ。ただ、自分の大事な物を守りたいだけだ。その為にはどんなことだってする。卑怯だろうが何だろうが。守った人たちの笑顔が俺の『誇り』だ」
これは格好良い。こちらの作品は今のところ「俺ツエー系のなろうテンプレ小説」なんだけど、そもそもそういう作品は前述した『時代劇』にもみられる通り、既に大勢に好まれるものとして存在する。
そういうものを想い浮かべながら読んだ時、
こちらの作品は『明確に絵になる』『脳裏にビジョンが浮かぶ』。すなわち作者さんの文章力が極めて高いということである。『選ばれた主人公が敵を蹴散らす(無双する)』という話の構成や雰囲気がしっかりまとまっているのだ。
ただそれ故に惜しいのが、あらすじを読む限り、ハルは所詮『奴隷』だということ。名実のある『役職』に就いていないこと。(前後の文章を読んでいないから、確かなことは言えないけれど)
こういう『正義のセリフ』がぴったり似合うのは、やはりなんらかの『要職』についている、しっかりとした大人が言ってこそだと思う。改めて思うけど、異世界転生って、そういうところも都合が良いんだなと考えさせられたりする。
ともあれ、ハルの好感度UPであるんである。ガハハ。
「後編:ハル対ルイス」
必殺技をつけて叫ぶ33歳の主人公。気のせいか身内にいる。
ルイス君、メンタル弱し。ダメージを与えている側なのに、勝手に追い詰められて戦えなくなっている。これはさすがに気になる。物語の展開、というか、ゲーム的な展開でこういう場面はあるけれど、騎士ルイスのメンタルの弱さが際立って描写されている。
敵対者のメンタルがあまりに弱いと、対峙する主役の質まで落ちかねない。時代劇よろしく、敵を簡単にやっつけるのは構わないけれど、それなら徹頭徹尾、一太刀の下で斬り捨てるべき。
隊長の個人的な感情で振り回された部下があわれだということになってしまうし、主人公の強さも際立たず、格が下がってしまう。それは端的に言って『もったいない』。ルイスの心情的な独白を入れるのは良いと思うけど、一言だけ入れてバッサリ切る方が、ハルもルイスも、最後まで『格好良く見える』から良いと思う。
「ハルの本質が文中に記載」
――俺に聞くなよ。でも、大体そういうもんじゃねえの? 強くなりたいのに理由なんてないんだよ。敢えて言うなら『男の子・・・だから』だな。
ここでも強い疑問。これ33歳の設定はいるのだろうか。主人公はオーソドックスに剣術の強い高校生とかではダメなんでしょうか? むしろ10代の方が口調的にしっくり来る。
作中に登場する爺さん達も、なんていうか「近所の悪ガキを応援するおじいちゃん」的な感じがすごくある。
33歳のおっさんが異世界転生して「奴隷」になってしまい、奴隷の老人を従えて、騎士の友人と戦う――という内容に、ここまで読んで正直、違和感がぬぐえなかったんですが、主人公のハルが10代になれば、対立するルイスも10代になるんでしょうし、このメンタルの弱さがあっても納得かなという気がします。上で出たセリフも、背伸びしてるなーと微笑ましさ感があります。
ハル君。16歳とかじゃダメなのでしょうか。あるいは気骨のある100歳の元剣道家のジジイが大往生して、記憶を継いで異世界に転生する。という方が設定的にしっくり来る。どちらにせよ主人公を【30代男性】とするならば、その理由が欲しい。10代の少年と老いた爺にはできないことが、33歳にはできる。できるから、この異世界で主人公をやっているのだという【理屈】を示してほしい。
上であげた適当な例であるが、異世界のダンジョンを攻略しつつ、セーブポイントのある居酒屋を経営する。という設定なら、元社会人のハルが33歳の姿で転移した先で活躍する。という背景に説得力が生まれる。
背景に説得力をもたせることで【主人公】という一番たいせつなキャラクターにも陰影が生まれる。ハルに自己投影できる読者が増えるはず。
続き。ハルとルイスの決闘が決着。
外からエルフ。襲撃。お前たちは嵌められた。王妃の軍勢?
疑問、また火矢。騎士の鎧に油の匂いがどうのこうの。なら最初に爺の放った火ですでに燃えあがってるのでは。
「三馬鹿」の異名を持つ三人が登場。すごく強いらしい。
魔神というキーワード。
そしてこの辺りでもブレてくる「ハル」のイメージ。
少年なのか、おじさんなのか、頼りがいがあるのか、ないのか。
強いのは剣の腕前なのか、それ以外もなのか。
ちょっと見えてこない。
理由としては、このPR文章だけでたくさんある。
味方の爺さん達がハルを孫のように可愛がって応援しているから。敵としてのルイスのメンタルが弱すぎて、ハルの格が下がってしまっているから。元が30歳を超えているのに、ヒロインの子からの愛情の受け取り方が初心すぎるから。剣の腕前は確かな才能があるのに、訓練をする際には必殺技を叫んでいる、子供っぽい挙動が見え隠れする等があげられる。
文章はすごい上手だと思う。登場人物との掛け合いはゲーム的だけど、わたしはゲームが好きなので違和感がない。戦闘描写のシーンも詳細で雰囲気が出ている。わたしには書けない。
総じてぐいぐい読める。頭に映像も浮かぶ。ただその上で、この作品の続きを読みたいかと聞かれると、否。
理由は、主人公「ハル」の内面的な成長がないからだ。
ニンゲンとしての魅力が、ほぼ現状でカンストしてしまっている。
言い変えると、この物語の中で主人公の「ハル」が既に1位として確立されていることに他ならない。ハルと同等、それ以上の人間が出てこないからだ。ハルが10代の方がいいのではないかと思った理由はその辺りにもある。
先にも挙げたように、この物語は『時代劇の水戸黄門』様の異世界ファンタジー版である。
話が進み問題が発生する。悪者が現れる。主人公が倒す。あるいは周りの人間が勝手になんとかする。一件楽着じゃ。また問題が発生する。強い悪者が現れる。だが主人公はそれより強くなる。一軒楽着じゃ。の繰り返しになってしまう。物語が予想できてしまう。
それを求める人も、たくさんいることを承知の上で『感想』を書いた。
前もっていっておきたいが、わたしの感想なんてのは「有象無象の一人」に過ぎない。だいたいこちらの話は完成度が高い。わたしが作るものよりも上手い。主張としては『主人公が個人的に気に食わない』という理由のみである。悔しいんであるんである。
ただその上で、わたしが物語に欲しいのは
『主人公が、そのファンタジー世界の中で〝今は一番ではない〟』
ということだ。わたしは、それがおもしろくて読む。男の子がどんどん強くなる。どんどん変わっていく。目に見えない『人物としての魅力値』がインフレしていってほしい。
だから文句を言うと、あらすじ最後のシーン、決闘に敗れ、宿舎のベッドで目を覚ましたルイスに、ハルが「自分に素直になれ!」と説教をしているのを見て萎えてしまった。この主人公は人を叱って、嗜めて、それから颯爽と立ち去っていく。既に完結しているんだなと思ってしまったのだ。そういう真似が可能であるのはやはり、人生の苦楽すべてを謳歌し、下々からの信頼を得た『お爺さんのご隠居』のみになせる業であろう。
ルイスが離反したのであれば、それはハルに魅力が無かったからである。そしてわたしの目から見ても、正直「子供っぽい」。だが子供なのであれば、敗北に打ちひしがれていたルイスに、ハルが同等の目線で友情の関係を修正しようと『努力する』方が良かった。
第十五話 エピローグ~束の間の平穏~まで読んでの
メモ書き終わり。
(5月15)
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