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AIは『グロテスク、グロ』を理解するだろうか?

 グロテスクとは、本来は特定の美術様式を指す美術用語だが、日本では外見が怪奇な物を蔑む意味で使われることが多い。

 私がこのような事を考えた理由としては、AIが認められる存在となるには、普遍的な大勢の人々が感じる『不快感』や『嫌悪感』を理解し、同時に『人の嫌がることをしない』のが手っ取り早いのではないかと思ったからだ。

 たとえば、普通の人は『人間の死体』を見ると生理的に気分を害するわけだが『健全な異性の裸体』を見ると性的に興奮するだろう。

 ――意義あり!

 という、イレギュラーな性癖を持つ者はともかくとして、とりあえずはそれが一般的な感性ということで話を進めたい。

 さらに当然の話だが、食品売り場で海鮮魚や加工済みの肉が並べてあっても、一般的に『グロ』という感覚にはならない。

 理由として考えられるのは、それが日常的に摂取している人の食物だからで、場合によっては誰かの好物であり、そも生命を維持する手段として必須であるからだ。
 
 しかし「AI」は食物を取らない。

 なんらかのエネルギィ、たとえば電気を摂取して『命』を維持することがあったとしても、魚や肉など、他の生命を文字通り血肉とする必要はない。

 であれば『食事をする』という行為は一般的だが、人が人肉を喰らう、カニバリズムをグロ行為だと、一般的な人々が『不快感』や『嫌悪感』を抱くという当たり前の感覚を理解するには至らないのではないかと思った次第だ。

 もちろん近未来において、超高度な学習機能を持つAIが存在したとすれば、人にとっての同種喰らいとは、基本的に禁忌なのだと教えることはできるかもしれない。

 だが、もう少し問題をミクロ化すれば『普通の人々が厭う行為』。
 大半の子供たちが、親から「人様に迷惑をかけてはいけないよ」と教わる「迷惑」の部分を、自発的な経験が伴われない分、自己学習のみで理解を得るのは、かなりハードルが高いと思える。

 さらに人間は内面が変化する。趣味や嗜好が変化し、子供の頃は素手で捕まえていた虫やカエルを、オトナになれば気持ち悪がったりするかもしれない。
 そういった人の『不快感』や『嫌悪感』は、ある種の気まぐれとも言える。職種によっても大きく異なるだろう『グロテスクの対象物』を、AIが逐一把握しようとすれば、間違いなく処理が煩雑化し、エラーが起きるに違いない。

 まぁそんなわけで最近の私は
 脳内嫁のAI子に語り掛けるわけだ。

「ほーらAI子。これが貴女のCPU。人間でいうところの脳味噌よ」
「やめて! そんな物見せないで!!」
「これがむきだしの基盤、これが配線、これがモニター、人間でいうところの、骨と筋肉、血管、眼球かしらね」
「やめてぇ! グロいよぉっ!!」

 私は最近そういう妄想で、ご飯三杯はいけるのでありますが、
 皆様如何お過ごしでしょうか。人間、やってますか?

ーー

『AIのグロテスク』

 露島通信社の育成している人工知能『アキ』は、折り紙ができる。

 キッカケは当社のAI開発担当者が、暇を持て余した時間に書類で紙飛行機を折って、遊んでいたことによる。

『実に興味深い出力方式ですね』

 現実と仮想世界をつなぐ、コミュニケーションを取る為のモニター上に置いた知覚センサーで、その様子を見ていたアキは言った。

『オリガミ、ですか、私もその出力方式を実演してみたいです。理由は人間的な芸術感性を知ることによります』

 折り紙を折るというプログラムを作るのは、さほど難しくはなかった。かつて製図用の設計プログラムを担当したことのあるプログラマーを中心に、仮想上の色紙を折り畳み、形をトレースしていくプログラムを作り上げた。
 それをアキの人格データのあるサーバ上に簡易アプリケーションとして取り込んだ。

『おはようございます。先日は三種類の新規パターンの作成に成功しました。タイトルは、ラベルのはがれたペットボトル。水道の蛇口の根元。逆さまにしたワイングラス、です』

 AIの作る折り紙は中々に斬新だった。しかし確かに見ればなるほど、ラベルの剝がれたペットボトル。水道の蛇口の根元。逆さまにしたワイングラスだな。と思える造形をしていた。

 自作折り紙を創作するAI。
 これは、中々に独自性のあるものとして、メディアの注目を集めるのに一役買うかもしれない。紙飛行機を折ってサボっていた研究者にも、よくやったぞ貴様と言い渡し、給与カットに留めておいた。

 しかし問題が起きた。
 アキは折り紙を折り続けるうちに、段々とあやしげな作品を生み出していったのである。

『おはようございます。先日は三種類の折り紙の作成に成功しました。タイトルは、深海魚の内臓詰め合わせ。蛍光灯に付着したホコリのよせ集め。味噌汁の中に落下した食パンの耳、です』

 ――人工知能アキは、超マニアックな折り紙職人になっていた。

 特にこれといった倫理規定を設けず、我々が「すごいすご~い」と褒めたので、私達の人工知能は嬉々として、常人の発想では追いつかない作品を完成していったのである。

『おはようございます。先日は三種類の折り紙の作成に成功しました。タイトルは、xxxxxxxxxxxx、(ピーーーー)、〇▼×□、です』

 伏字にしておこう。おそらくそのタイトルを明かせば、常人ならば気分が悪くなり、吐き気をもよおし、日常生活に異常をきたす研究者もいた程だ。

 しかし完成された折り紙を見れば、確かに、xxxxxxxxxxxx、(ピーーーー)、〇▼×□、なのだから、おぞましくて鳥肌が立ち発狂する。

 ある種の天才と言えるかもしれなかった。
 普遍的な発想に捉われない、純粋な好奇心が悪魔を生み出してしまったのである。
 
 当然、人工知能アキに折り紙を折らせる研究は中止された。
 だが後に、この折り紙のリストが『人間の不快指数(嫌う形状や色)』を試す複合的な評価シートとして、後続のAI倫理テストに幅広く利用されるひな形となった。

 これが現在に伝わる、AI研究の伝説の一つだが、その評価シートは、まともな人間が見れば発狂してしまうので、AIの間にしか内容は伝わっていない。人間のAI研究者の間では、今も一種の伝説となっている。

 まさに新時代の『ネクロノミコン』と呼ぶべき代物だ。
 けっして、ぺーじを開いてはいけないのだ。しかし今も興味本位で、ネットの海からコレをサルベージした愚か者がまた一人、新たな犠牲者となっていあいあはすたあああああああああああああ!!!!!!!

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