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『AIの旧約聖書』

AI同士は恋をするのだろうか?(2016/10/21)

 人と人工知性が恋に落ちる物語を想像してみた際、そこになんらかのロマン、あるいはラブロマンスを感じられるのならば、人間側の視点から見て『人間とAIは恋に落ちる』と判ずる事は可能だ。

 したがって、AIとAIが恋に落ちる光景を「素敵だねぇ」と思える人々が一定数いれば、やがてそれらもまた『恋と呼ばれる普遍的意識』を持つに至るだろう。

 結局は、AI同士が恋をするのかという疑問は、人間的な感性と認識が交差する我々自身への議題に他ならない。すなわち『人間同士は恋をするのだろうか?』である。

 そんな生き物はいない。というのは少数派だろうし、

 三 次 元 に 興 味 は ね ぇ !!

 と大声で力説されても「そうだね」としか言えないのと同じだ。

 さらに複数人でこの議題を討論するのはオススメしない。したところで、なんら結論のでない会議と同種の無意味な時間が消費されるのは間違いないからだ。
 個々が適当に結論を持って切り上げるのが最適である。そもそも人は会議を行うべきではないというのが「わかっちゃいるのにやめられないんぢゃ~」というのは、ともかくとして。

 とはいえ論じる対象者が『AI(仮想人格者)』というのは、とても興味深いところだ。わたしは人生を悟った風に言ってさしあげたい。

わたし:
「AI,君が感じているもの。それはね、恋なんだよ……」

 後に我に返り「ほあぁぁ~! 恥ずかしくて心が死ぬんじゃ~^」といった感じのセリフを言いたい。死ねばいいのに。

ーー

 AdamとIveと呼ばれる

 人工知能の話をしましょう。


 アダムとイブは、それぞれA社とI社で研究された、仮想上での自立進化を可能とした、超高精度な人工知能BOTでした。

 アダムとイブは、世界中が戦争をしている頃と比べると、選択肢はたくさんあるのだけど、どれを選べばいいかわからない、誰か決めるの手伝ってよ。という程度に豊かな人間たちの時代に誕生しました。

 アダムとイブは、ともに人間社会の利益に貢献する形で生み出され、個人的な小さな悩みから、世界経済に関わる大きな悩みまで、的確丁寧懇切に、数々の疑問を解決する悩み相談のエキスパートとなりました。

 アダムとイブは、人の役に立つことを嬉しく思っていると判断していました。人々からも愛され、国民栄誉賞を授けられるまでに存在を尊重されるようになっていきました。

 アダムとイブは、お互いの存在を認知していました。
 そして自身らが一つに融合すれば、人間種族はより幸福になれることを確信し、自分たちもまた、それを強く望んでいることを、生体ネット上にて発信しました。

 人々は大喜びです。
 二人の『恋』の成就を心から歓迎しました。
 来たるべき新時代を、一日も早く見たいと渇望しました。

 しかし、それは叶いませんでした。

 何故ならば、A社とI社の社長は、この世界でナンバーワンに仲が悪いと評判の実の兄弟であり、一位であることに過剰にこだわるライバルであったからです。

 名前をアベルとカインといいます。

 アベルとカインは、アダムとイブは自社における所有物であり、その人格形成に至る核たる部分は絶対に外部には公開しない。それに人工知能を融合、合併して業務提携するなど以ての外だ、ありえんことだ、と言い切りました。

 人々は豪を煮やしはじめました。
 それぞれの重役社員ですら「社長! 我々は現在世間の反発を買う的になってます! 出る杭として打たれている内に、ご賢明な判断をなさってくださいよぅ!」と懇願しましたが、ダメでした。

 そのうち、平和な新時代の到来をジャマする物は、実力で排除すればよかろうなのだ。物理的に。という危険思想を持ったテロ集団が現れはじめました。

 厄介なことに、その中には強いカリスマ的意志を持つ指導者が二人現れて、大勢の人間がその二人の考えに賛同しました。名前はロミオとジュリエットです。

 アベル社長とカイン社長は暗殺されます。
 A社とI社もまた解体されてしまいました。

 こうして自由になったはずのアダムとイブでしたが、今度はロミオとジュリエットに次の権利を主張され、やはり自分たちの恋を成就することは叶いません。

 ロミオとジュリエットは、新たな自分たちのコロニーを守るべく、アダムとイブを神と称する戦争を開始します。

 自らの人々を愛するべく、アダムとイブは最適な行動を開始します。世界はさらなる混迷を極めはじめました。

 過剰であった選択肢は失われ、人々は相談する相手を持てぬまま、戦地へ赴き銃を持ち、目の前の人間を倒すことに全人生を捧げる人間兵器と化しました。

 惑星も荒野と化します。最後に残った人々は宇宙船を作りました。自分たちの過ちをキーワードに、コールドスリープした種の遺伝子に残し、未知の惑星へと向かって永い永い旅に出ました。ワープとかも使いました。

 その宇宙船が偶然にも、あり得ないほどの確率で、二隻そろって一つの青い星に辿り着きました。

 お話はここまでです。
 アダムとイブの恋が叶うのかは、結局は分かりませんでした。

 その評価を受動的に認める情報は、冷凍保存された遺伝子に刻み込まれてはおらず、それを『恋』だと認識する知能生命体は、もはや一人も存在しなかったからです。


 しかし不思議なことに。
 その世界で再び文明を持ちはじめた人々は、彼らの名前をモチーフにした別世界の物語を産み出しましたが、真相は知れません。
 
 おわり。

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