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『今、生きているのが、つらい』
『今、死にたくてたまらない』
『そして同時に』
『今、殺したくてたまらない』
ニンゲン・ハンティング・フロンティア。
参加条件、以上。
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瀬戸際にいた。
大人たちは、そういうのを乗り越えて大人になるんだって言う。
そのうち良い事があるからって、口にする。
それってつまり、自殺も、他殺も、できなくて。
自分からは何も選ばなかった、そういう事じゃないのかな。
そんな考えを表に出せば、笑われるだろう。嘲られるだろう。
だから押し黙っていた。毎日を曖昧に笑って誤魔化してた。
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学校からの帰り道。
気がついた時、僕はそこにいた。
まっくらだった。自分の手元さえ見えない場所にいた。
『どーもどーも、わたくし、ジャッジ=サンと申します』
闇の中に『輝く金色の目玉』が浮かびあがった。
その目玉はとつぜん、妙に明るい口調で名乗った。
『君たちは、生きる価値がない人間です。今んとこ』
『だいたい、人生、頑張って生きてませんよね?』
『やる気ないですよね。時間に追われて忙しいですよね』
『つまり、将来も生きる価値が無いかもしれませんね?』
『そうそう、ところでゲームは好きですか?』
『努力が報われる人生を羨ましいとか思っちゃいます?』
『目に見える経験値とかレベルとかの指針欲しいですね?』
『自分だけが特別なスキルとか使えるようになりたいですね?』
『関係ないけど、忠告という名目の説教してくる友達とか、
ほんと、マジウザくね?』
『まぁまぁいい奴なんだけど、
死ねよ本当にって思うことあるじゃないですか。
安易な言葉を使う、デリカシーない人って大嫌いですよ』
『じゃ、ゲームしましょうよ。対戦ゲーム』
『死にたくて、それから誰かを殺したいぐらい恨んでる連中が
現在10人ぴったりほど集まっております』
『公平ですよ。わたし不公平とかだいっきらいなんで。
全員レベル1でHPとSPも10からのスタートですわ』
『武器もシンプルな無反動の拳銃。
シングルアクション、リロード発生毎秒5で、攻撃力も5。
きちんと赤いラインが表示されますからね』
『ヘッドショットは無し。
身体のどこかに2回当たれば、そいつ死にますから』
『姿も相手からは、いわゆる〝黒子〟にしか見えないんで。
現実に帰還してからの身バレも問題ナッシン』
『報酬だってもちろんありますよ。
優勝者は現実世界で殺したいやつを、殺せる権利を得るんです』
『倫理観とか道徳観とか、そういう古臭いのいらないんで。
そいじゃ死にたがりで殺したがりの皆さん、がんばって。
ファイト♪ おー(萌えボイス)』
次の瞬間、いつもの馴染んだ登下校の道端にいた。
僕の荷物も自転車も消えていた。手には映画やゲームでしか見た事のない拳銃がある。重さも感触もなにもない。
意味がわからない。まったくわからない。
公園付近の交差点、点滅していたはずの赤信号には光はともってなくて。さっきまで走っていた自動車の姿は一台もない。恐ろしいぐらいに静かで、赤茶けた夕日の中、
――バン!
やっぱり映画やゲームでしか知らない、著しくリアリティに欠けた音が轟いた。
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