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咲坂さんは恋愛の神かもしれない。②


「咲坂さんは恋愛の神②」

 引っ越しや、転校というのを一度も経験したことがないと、直接に話をしたことはないが、名前だけは知ってるという相手が増えていく。

 特に相手が異性なら尚更だ。咲坂みちるという名前の女子は、小学校と中学が同じで、何度か同じクラスになった事もあった。

 高校に入ると単純に、五分の一の確率でまた同じクラスになった。

「――高木クン、今ちょっと大丈夫かな?」
「え、なに?」

 昼休み、教室でメシを食っていたら、その咲坂が声をかけてきた。おたがいに顔と名前と声だけは知ってる、業務連絡を交わしたことがあるというレベルの関係だ。

「この前に配られた進路報告のプリントを集めてるの。もし書けてたら、提出してもらえないかな?」
「あ、ごめん、まだ書いてる途中でさ。急ぐやつ?」
「ううん、明日まで余裕あるから」
「じゃあ明日でいいかな」
「いいよ。忘れないでね?」

 咲坂がそっと笑って振り返った。肩口でそろえたセミロングの黒髪が、さらりと揺れる。立ち去って元のグループに戻った後で、一緒にメシを食ってた奴らがさりげなく言う。

「――うちの委員長って、結構美人だよな。こう、清楚系?」
「結構とか付けるなよ。普通にカワイイだろ」

 反射的に返してしまうと、ニヤリと笑われた。

「なに、高木、狙ってんの? 咲坂って意外と遊んでたりするイメージあんだけどな。ほら、隣のクラスに派手な女子いるじゃん?」
「あれ、小学校からの幼馴染だからだよ」
「そうなんだ。ってか高木なんで知ってんだ。ストーカー?」
「ち、ちげーよ! 俺もずっと地元だからだよ!」

 確かに咲坂には『川端まち』という、ギャル系の友人がいる。

 川端は、今年は別のクラスだ。実家は美容院をやっている。咲坂は週末〝友達割引〟で、髪を切ってもらっているらしい。

 ――なんで、俺がそんな事を知っているのかと言うと、中学の頃、咲坂の事がなんとなく、気になっていたからだ。

 機会があれば、なにか話せるキッカケが来ねーかなと思っていた。それで中学当時、同じバスケ部のメンバーで、川端の彼氏だった月島淳史から色々教えてもらったのだった。

「じゃあさ、良かったら今度四人で、どこか遊びにいく?」

 小学校からの付き合いとかいう、超レアな彼女持ちの月島の提案に、当時の俺は「おまえってマジ良い奴!」と歓喜したが、肝心のキッカケは、まさかの別方向からやってきた。

「咲坂くん、よかったら、私とお付き合いしてくださいっ!」

 まったく別の女子から、告白されたのだ。この俺が。

 ――何故、あの時、告白を断らなかったのか。

 いや、だってさぁ……断るとか、なんかほら、申し訳なかったし。相手のことほとんど知らなくても、そういうイベントにぶつかったら、普段めっちゃモテて女の取り換えとか余裕っすわ(笑)とかいう、ブチ殺したい羨ま野郎でも無い限り、OKしてしまうやろ!?

「――えっと、高木、言いにくいんだけど……マチが、あっ、今度の週末、ダブルデートしようって計画してた僕の彼女がね……高木がこの前、別の女子の告白にOKしたの聞いて、今ブチ切れてるっていうか……そのまま正直に言うよ?」 


 「二度とみっちゃんに近づくな、クズ野郎」


「……なんか、僕も軽率だったかなって。ごめん」
「いや、月島は悪くねぇよ、非は俺にある」
「えっと、まぁそういうわけだから……頑張って。僕が言うのも申しわけないけど、彼女と上手くいくといいね」
「おう、お前らのように、俺も末永く爆発するようなバカップルを目指すぜ……」

 そして後から知ったことだが、咲坂は『握手会』という恋愛成就の願掛けを通じて、当時の彼女の告白にOKを返したことを知っていた。そしておそらく高校進学なんかを機として、俺がとっくの昔にフラれた、カワイソウな男子系『高木夏』という事も知っていた。

――

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