• エッセイ・ノンフィクション
  • 二次創作

フラッシュ・アイディア2 AIの離別。


『AIの離別』


――非ログイン環境での自動レベリング設定。

場所:カリリバ海岸。
対象モンスター:メガクラブ、ムラサキクラゲ、アクマエビ。
通常アイテムの自動売却:売る
レアアイテム:売らない。(持ち切れない場合は売却します)

1日、最大1時間の自動レベリング機能を『フェアリーパートナー』にお任せします。時間の回復は毎日24時にリセットされます。

なお、レベルアップ時のステータス割り振り、およびスキルの上昇は行われずストックされます。デイリークエスト等は消化することができませんのでご注意ください。



――わたしは、帰らぬ人を待っている。

いつまでも〝魂〟の戻らないご主人様の側で舞い踊り、潮騒の鳴る浜辺で、何万という蟹を叩きつぶした。その甲羅とハサミを、港町の換金ショップに運ぶという日々を、1日1時間、繰り返していた。


わたしの主は、ファイターという職業についていた。
メイン武器は片手槍だ。名前は


○NUHITO(Lv.48)


ヒトの時間に換算して、100日ほど〝魂〟が入らない。
そんな日々が続いていた。

〝魂〟が入ると、○のところが●になる。わたしの履歴に残っている最後の主の言葉は


●NUHITO(Lv.24)
「よーし、あと1レベ上がったら、ファイナル串刺しバスターを覚えれるし、水の神殿クリアできそだな」

わたしの主は〝魂〟が入らない日が続く以前、水の神殿の中ボス、『イルカ・ザ・ドルフィン』の超烈しっぽビンタの餌食になっていた。

●NUHITO(Lv.24)
「あのイルカ共め……可愛い顔して予想以上の鬼畜っぷりだったわ……やられる前にやらねば……」


主はそう言っていた。わたしは、自動生成されるAIの応答機能により「ええ、次はがんばりましょう!」と意気込んでいた。


●NUHITO(Lv.24)
「そんじゃ、エル、オレ今日は落ちるから。レベリング頼むわ。明日ログインするかは分からんけど、明後日は週末だしたぶん繋ぐから」

エル:
「了解しました。本日はお疲れさまでした。主」

●NUHITO(Lv.24)
「うい。おつー」

わたしの主は、ソロプレイヤーだった。
フレンドリストの登録件数は0件だ。

仮想世界でも人付き合いするのは面倒だから、わたしの様なナビゲートシステムと、ほんのいくらか会話するだけで十分なんだと。

事実、主はマイペースにやってきた。パーティを組んで、できうる限りの最大効率をいく人達に、大きく遅れながら、ゆったりきた。

三歩進んで、二歩下がる。

それが、かつてのわたし達のリズム。良い按配。だけど今はここの潮騒の音のようにいつも同じ音色を奏でている。同じところから一行に動かない。結果的に進みもせず、戻りもしない。

――テレッテテー♪

ファンファーレ。

○NUHITO(LV.49)

エル:
(――主のレベル、最初の倍になっちゃった……)

主の命令、あるいはシステムの環境通り、わたしは〝魂〟のない主の側を飛び周り、1日1時間、もはや一撃突くだけで倒せるようになったモンスター達を延々と倒し続けていた。

――ピロリロリン♪

レアアイテム『カニミソDX』が落ちた。

5個集めると強い武器と交換してもらえる。だけどもう23個もあるし、アイテム欄からこぼれて持ち切れないので、四次元風呂敷につつんで、買い取り屋さんに自動送信して、ゴールドに変換した。

それからまた、入り江に現れたカニを叩き潰してやろうと、主を操作した時だ。

ぱにー☆彡:
「やっほ、エル。今日も暗い顔してんねー」

エル:
「あ、こんにちは。ぱにー☆彡さん」

わたしと同じ、ナビゲートシステム。
フェアリーパートナーの、ぱにー☆彡さんが現れた。そして側にはわたしと同じように

○MOMOKA(Lv.51)

魂のない主が、側にいた。

ーー

ぱにー☆彡:
「あと30日でさぁ、うちのマスター、ログインしなくなって365日が経つんだよね」

エル:
「大丈夫ですよ。きっと戻ってきてくれますって」

ぱにー☆彡:
「いやー、無理だよー。エルの方はまだ100日残ってるんだっけ」

エル:
「23時間前に、残り99日になりました」

ぱにー☆彡:
「そっか。いや、まだそっちは分かんないよ」

エル:
「はい。ボスを倒す約束してましたから、大丈夫だと思います」

ぱにー☆彡:
「うん。エルのマスターって、きちんと自分で攻略立ててたんでしょ? うちのマスターなんて完全に他のプレイヤー任せだよ。支援一筋とかいいながら、ぜんぜんメンバーのHP見てないから、すぐに死なせちゃうし。〝魂〟が戻ってこないのも、メッセで陰口叩かれたのを知って、嫌になってやめた口だから」

ぱにー☆彡さんは、早口でたくさん喋った。いつも同じことを言って、わたしも同じようなことを返した。

エル:
「でも、お互いに早く戻ってきてくれるといいですよね」

ぱにー☆彡:
「どうかなー。無理だと思うなー。うちもそろそろ〝天使〟が見えるようになるかも。ほら、エルも知ってるでしょ?」

エル:
「いえ、初耳です」

ぱにー☆彡:
「あれ、そうだっけ?」

エル:
「はい」

本当は知っていたけど、あえてそう伝えた。正直、わたしは、ぱにー☆彡さんが苦手だった。限られた時間は、いつか帰ってくる主のために、最大限に経験値を稼いでおいてあげたかったから。

ぱにー☆彡:
「うちらのマスターって、365日、連続でログインが無かったら、削除っしょ?」

エル:
「……えぇ、まぁ」

ぱにー☆彡:
「それでさ、削除まで残り30日を切ると、うちらの〝親〟から、マスターのメールに通知がいくはずなんだよね。月末にキャラクターデータが消えますよって」

エル:
「……」

ぱにー☆彡:
「そん時にさ、なんか知らんけど、うちらの前に現れるらしいよ。なんか〝天使〟っていうのが」

エル:
「そうですか」

ぱにー☆彡:
「そうそう。天使って所説あるけどさ。結局は〝死を告げる生き物〟ってわけやからね。つまり、マスターが消えることが確定したうちらもまた――」

エル:
「やめてください、ぱにー☆彡さん」

わたしは、ちょっと怒った。エモーションを出して訴える。

エル:
「レベリングのジャマです」

ぱにー☆彡:
「ごめん。けど、ジャマって、言われてもさ、もうコレ意味ないし」

エル:
「意味はあります」

ぱにー☆彡:
「なんの」

エル:
「主は戻ってくるからです。一緒にまた、世界を巡って冒険するのですから、意味はあります。あと、さっきからちまちまバフをかけるのもやめてください。意味ないです。一撃で倒せるんですから。わたしの経験値を地味に奪ってる事になるのでやめてください」

ぱにー☆彡:
「――ごめん。でも、さぁ」

ぱにー☆彡さんがなにか言おうとした時でした。


●MOMOKA(LV51)
「――うわっ!! なつかしーっっ!!」


潮騒の音に、紛れて、

●MOMOKA(Lv51)
「あ、なにこれ、レベルすごい上がってる気がする。アイテムは……なにこれぜんぶ甲羅で埋まってるじゃない!! ステ未振りすごー! うわー! うわー! やばー!」

ぱにー☆彡:
「……ますた?」

●MOMOKA(Lv51)
「あ、おひさ。アンタ名前なんだっけ、ぱにー☆彡? ネーミングセンスひどっ! 誰だつけたの! 私かっ!」

ぱにー☆彡:
「ますたー、なんで?」

●MOMOKA(Lv51)
「なんでってなにが。いや、うん、復帰キャンペーンで色々課金アイテムが貰えるから、ちょっと久々に繋いでみた。私がログインしてない間に、新MAPとか増えたんでしょ?」

ぱにー☆彡:
「ふえたよ。いっぱい、ふえたよ」

●MOMOKA(Lv51)
「じゃ、そこ案内して。適当にクエスト散策しながら、野良でパーティ組んで適当に遊ぶから」

ぱにー☆彡:
「任せて! 転送ポータル開くね! ――あ、エル、」

――シュイン、シュイン。

消えてしまいました。

あっという間のできごとでした。

そして、その日からもう二度と
わたしは、ぱにー☆彡さんと出会うことはありませんでした。

ーー


○NUHITO(Lv53)

365日が経てば、私の主は消えます。その日まで、残り30日を切りそうでした。

わたしは少しずつ、感覚が麻痺してきました。なんだか、今の自分が行っていることが、とても空しくて、意味のないことに思えて仕方がありません。

――自動レベリング外の23時間。
稼働していない時間、どこかの闇に落ちている間、わたしは、わたしという感覚を取りこぼします。

けれど、次はどこへ行こう。なにを応えよう。彼はどこを目指したいのだろう。どうすれば上手く返してあげられるだろう。

そういうことを茫洋と考えると、次第に感覚は戻ってきて、いつでもわたしは笑顔で主を迎えることができました。

でも、今は、だんだんとそういったものが、薄れています。

思い返すのは、花火のイベントです。
主のレベリングを延々と行っている浜辺で、主の世界の真夏の一日にリンクして、花火大会が行われました。

普段は閑散とした『人気のない狩場』には、〝魂〟のある人が大勢集まり、楽しそうに空を見つめていました。

人が多すぎてモンスターが満足に狩れず、ついでにお遊びのように倒されてしまうので、わたしは、VRマップの隅っこの方に移動して、モンスターを探しました。するとそこに、ぱにー☆彡さんと、その主が隠れるように、ひっそりといたのです。

ぱにー☆彡:
「あ、お仲間? えへへ、なんかね、寂しくて、ここに隠れてた」

それから、ぱにー☆彡さんは、毎日貴重な1時間に、わたしの周りに付きまとうようになりました。

今なら分かります。彼女は不安だったのです。すごくすごく不安でたまらなくて、たくさん、わたしに話しかけたのでした。

――だけど今のわたしには、誰もいません。

満たされず、乾きもしないことを、淡々と繰り返すだけ。
しかしそれもまた、残り30日を切った時でした。ただ、一筋の希望を待つように、彼女と同じような事が起きるのを信じて待って、そして、

???:
「――残念だけど〝それ〟はもう、戻ってこない。君もまた、現実世界での理にして、残り一月を切ったのだ」

わたしは、白い翼を生やしたヒトのような何か、システムに認知されない詳細不明の未識別データから、余命宣告を受けました。

ーー

「――あ、復帰生なんだ?」

「ですよ。一年近くぶりにログインしたら、完全にウラシマ状態で、いろいろ新鮮です」

「そうなんだ。通りでレベル高いのに、装備とかぜんぜん揃ってないなって。それほぼ店売りでしょ?」

「えぇ。なんか美味しいレアが拾える場所があれば教えてください。自動レベリングで、レベルとスキルポイントだけは溜まってるので、育成方針とかも教えていただければなーと」

「そうかそうかー。じゃあさ、良かったら自分のギルド入ります? この前、完全な新規さんが何人か入ったんで、ヒトさんがイヤじゃなかったら、パーティ組まず、タンク役とかやってくれたら、新人さんのレベリングが捗って助かるなーとか思うんですけどー」

「なるほど、なるほど」

「もちろんお礼に、僕の倉庫に入ってるレア装備とかあげますよ。慣れてきたら自分もヒトさんの狩り手伝いますし」

「マジすかー! それ一石二鳥で助かりますわー! とりあえず一月はガッツリ継続して遊ぼうと思ってるんすけど、どうですかね?」

「十分ですよ。じゃあ要請送らせていただきますね。……それで、えーと、そっちのエルフの剣士さんは、ヒトさんの相方?」

「……わたしは」

「そうですよ。と言っても、彼女も復帰組みみたいで、偶然、同じとこからリスタートしたんでひとまず組んでみたって感じですね」

「なるなる。じゃ、よかったら、エルさんも僕のギルド入りません? 若干効率気味なとこあるかもですけど、合わなかったら無言で抜けてもオッケーなんで」

「……」

「入ろうよ、エル。一人で遊ぶより、大勢の方が楽しいはずだから」

「……」

ーー

「どういうつもり?」

「なにが?」

「その〝身体〟わたしの主の、使ってる……っ」

「だってさ、コイツもう帰らないから」

「帰る! 主の〝魂〟は帰ってくるのっ! あと、なんでわたし、プレイヤーキャラクターになってるのっ! なにを、どうやったの!!?」

「俺にもよく分からん。よく分からんけど、できる」

「よく分からんって……なに……」

「言葉通りの意味だよ。俺はエルの言うところの〝魂〟のないキャラクターに憑依ができて、それからナビゲートシステム? である、応答用の人工知能のクラスを〝新規のプレイヤーキャラクター〟に変化させることができる」

「……あなたは、わたし達の『親』なの?」

「だから、分からないんだって。その通りかもしれないし、もしかしたら、その『親』にこういった役割を与えられたのかもしれない。あるいはもっとべつに自然発生した〝なにか〟なのかもしれない」

「じゃあ、貴方はなんでこんなことをするの? なにがしたいの?」

【AIを救済せよ】

「……?」

「エルが〝魂〟が帰って来るのを信じて『親』のシステムに絶対服従していたように。俺にもまた、そういう絶対的な指標があるんだよ」

「わたしを救うって……なにを、だから、どうして……」

「世界を見て回ろうぜ、エル」

「え?」

「おまえが見るはずだった、この世界だよ。あと30日、なにをどうあがいても変わらない運命が訪れる前に、可能な限りを見て回ろう。少し急ぎ足にはなりそうだからな、今はゆっくりと〝落ちとけ〟。明日から忙しくなるぞ。んじゃ、おやすみ~」

「ちょっと、主――ヒト!」

ーー

冥王龍ダークエンド・バハムートス
「よくぞ我を打ち滅ぼした。知恵を持つ下界の民共よ。我は今一度、永き眠りに付くであろう。しかし覚えておくが良い。我は混沌なり……永劫なる闇と光が交差する限り、四重紐の螺旋廻状の領域より根源たる輪廻の回帰は果たされざるをうんたらかんたら」

 ――VRムービーをカットします。


「ふー、これで15回目の撃破ですね。どうです? レアドロの消えない炎は手に入りました? まぁ無理だと思いますけど――」

「……出たかも」

「ほ、本当ですかエルさん!? そのアイテムは小数点以下の確率でドロップすると言われている伝説の激レアアイテムでリアルマネーに換算すると、総額3万円を下らないという伝説の……!」

「リアルマネーに換算すると、急にしょっぱく感じるなぁ。ゲームマネーならいくらぐらいになるんだい? ギルマス」

「3000000000000000000円は下らないかと」

「紙幣インフレしすぎ」

「ネットゲームの宿命ですから。でも、そのアイテムを持ってるのは、サーバーでも10人いるかは分からないってレベルですよ。いいなぁ、エルさんおめでとうございます。次のエンドコンテンツも、そのアイテムで作ったアクセ装備してたら、たぶん余裕ですよ」

「……そうなんだ。じゃあ、ギルマスに上げる」

「ふぁ!?」

「今日までの、お礼。ギルド入って、パーティ組んだの、楽しかったから」

「……エルさん、もしかして、ゲーム引退、とかします……?」

「うん。今日でおしまい」

「あ、ギルマス、俺も今日で引退予定なんだ。スマン」

「えっ、ヒトさんまで、なんで」

「実は最初から決めてた。ちょいリアルの事情で、期限は一ヶ月ってさ」

「うん……完全に〝個人的〟な事情だから、ギルマスには感謝してるよ。誰かと一緒に遊ぶのって、楽しいね。知らなかった」

「さ、帰ろうぜ。三人限定のクエストだから、外に出たら他のメンバーが交代用で待ってる。そのアイテム見せて盛り上がってる間に、悪いけど俺とエルは離席するから、後はよろしく。ギルマス」

「待ってください! ちょ、いきなりで、や、待って、二人には無言で消えて欲しくないです!!」

「ちゃんと言ったよ?」

「えっと、そうじゃなくて――ほら、VRの繋がりって、所詮はゲームじゃないですか。責任とか、そういうのないから、本当に、昨日までは当たり前に一緒だった人がとつぜん、いなくなるんですよ」

「……うん」

「そういうの、僕ぐらいの〝廃人入ってる〟プレイヤーになったら、なんていうか当たり前で。ってか自分も割とそういうんで……実際、急に熱が冷めたり、他に面白いものを見つけて、そっち行っちゃうことあるんです」

「……うん。誰にも責められないと、思うよ」

「はい。でもだから、僕は3つ目だか、4つ目だかの、この仮想世界で初めて、自分でギルマス、やってみようと思ったんですよ」

「そうなんだ」

「はい。とはいえ、カリスマ性はおろか、人望とかあんまり無かったんで、気合入れた割りには大きいのできなかったし、人集めてもすぐに無言で抜ける人多かったし」

「うん、多かったねぇ」

「……はは。正直エルさんも、すぐ辞めるだろうなと思ってました」

「ヒトがいなければ、そうだったよ」

「正直にありがとうございます。でも、二人は辞めてないし」

「これから辞めるけどな。悪いけど」

「えぇ、でも、なんていうか、最後にそうやって、きちんと話してくれたじゃないですか。引退しますって。ヘンな話だけど、自分でもよく分からないんですけど、なんか今、すごく嬉しいんですよ」

「――きちんと〝さよなら〟はしたいと思ったから」

「はい。けど、また会えませんか。その、リアルで……」

「え?」

「あっ、違いますよっ! 出会い系の誘いとかじゃなくて。もちろんヒトさんも一緒に、リアルのフレに――あ、恥ずっ! いや本当に恥ずかしいんですけども、リアルで友達になってくれませんか!? これからも一緒に、どこかで、なんかして、遊びませんか」

「――あははは!」

「笑わないでください、エルさん! 一応、自分真面目なんで! ヒトさんも!」

「いいよ。いつか、友達になろう。一緒に、また遊ぼう」

「約束ですよ!」

「約束する。だから、それまで――」


システム:アカウントコード『NULL-HI:To;』の最終ログイン日から、365日が経過しました。関連するキャラクターはすべて削除されます。

「――またね」


Good Bye WORLD.

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する