藤咲 沙久

左手で筆を握る。キャンバスの中で猫が鳴く。悲しみに囚われた男の描く絵を眺め、少女は問い掛けた。 「どうしてそんなにも蒼いの？」 答える前と、答えた後。その両方で男は蒼色の絵の…

街から街へ、国から国へ。魔女のアネモスは正体を隠しながら長い年月をひとり生き続けてきた。 古いレンガ屋根、パン屋の香り、本に囲まれた愛しい人。流れ着いたある街で過ごした幸せな記憶…

──なんて美しく、賑やかな街だろう！ スケアクロウは十字に編まれた目を輝かせ、ベストの胸が期待に膨らんだ。この街で彼は幸せを知り、悲しみを知り、そして恋を知る。 スケアクロウ…

──時子と向き合うことから、俺は逃げた。 「チェシャ猫の笑うような月ね」 胸を埋める不安と自虐から目を背けたい一心でやってきた旅先で、クスクスと笑う不思議な少女に声をかけられる…

愛しているから、一緒にいたいから、付き合って長いから。 ──そんな理由、全部“今”しか見えていない！ 「ついに彼女とゴールイン」なんて言ったところで何も完結してないわけで。結婚…

ソロ×ソロ=？？？ 「時代が私に追い付いた。ソロ飯万歳」 一人黙々と食を楽しむ守屋実奈。それは自分と他人のスタンスを両方守る術でもあった。 そんなある日、美味しそうな鯵フライ定…

オタク彼氏×関西弁彼女。 あざとくて、可愛くて、愛しい彼女はどこまで計算してるのか？ 策だとしてもはまりたい、推しと彼女を大好きな彼氏くんが幸せに浸る日常譚。 【KAC2021…

久我雪穂と一条晶は、今最も熱愛報道を待ち望まれている恋愛ドラマの大人気ゴールデンコンビ。 恋人役での共演は3年間で20回を記録した。 とはいえ現実では深い関係があるはずもなく、む…

「安心してください、綿貫春風先生は立派な小心者ですから」 新しい担当編集者は、そうやって褒めてるんだか褒めてないんだがわからない言葉で僕を励ました。 仕方がないのでペンを執る。 …

撮影、検索、スマホはいつも一緒の相棒。 カバーに付けた大好きなキャラクターのストラップを揺らして、無茶だと知りつつ今日も聞いてしまう。 「OK, search. これは恋ですか…

──理解するより先に、首の後ろがざわりと粟立ったのがわかった。 亮介は目を覚ました。どうやら酒に酔って寝ていたらしい。先程した喧嘩の熱も冷めた頃だろうと恋人のもとへ向かう途中、…

織部誠人はいつも迷っている。小さなことから大きなことまで、常に即断が出来ない。それは自分の選びたいものは何か自信がないからだった。 そんな彼がただひとつ、一瞬の迷いもなく感じた気…

たまたま覗いた体育館裏、そこにクラスメイトの穂高がいた。驚きと、いつも目だけが合う彼女への好奇心もあってか俺は思わず声をかけてしまう。 優しい時間が流れる、淡い恋物語の始まり。…

毎週毎週、休みのたびに一日中二人で過ごす。 ──いや過ごしすぎでは？と思い至った初花は挙手をした。 「ひとりの時間がほしい！」 久々にやってきた気を遣わない休日を、さて、どう堪能…

大学生の宵子と小学生の燈は、年の離れた幼馴染み。しょこちゃん、しょこちゃん、と懐く様は本当の弟みたいだ。 燈はもう十二歳。そろそろ誰かを好きになって、誰かの好きな人になる。自分だ…

お題の言葉に添って書く140字小説です。 甘いの、暗いの、ジャンルは定まらず様々。お好きな所から気軽に読んで頂ければ嬉しいです。 (Twitter投稿分のまとめです) 第二弾…

パパとママには、サンタさんが来ないんだって。子供だけの特別だからって。それならボクが二人のサンタさんになればいいんだ！ サンタさんは何を持っているかな。どんなことをしているかな。…

劇団sparkには看板作品がある。主人公が友と恋人を失う悲劇『誰が為』だ。ウィリアム役を演じる緒方と、その役を演じたい穂村。それぞれに感じ、考え、己の道を見定めた。これは、二人の…

── 一度大きく開いた目がふわりと細められる瞬間は、ひどく印象的だった。 高校二年の秋に偶然出会った女の子との会話は、三森の記憶に深く残った。友人とふざけ合いながらも視界にあの…

塾の駐輪場、ほんの数分の会話。これは諦めきれず何かを変えたかった少女と、自分が嫉妬した相手の正体に気づかない少年の、交わらない恋模様だ。

オリジナルキャラ咲斗(さくと)と真生(まお)がメインの140字SS、Twitterに投稿していたまとめです。本編未掲載なうえに一応BL前提ですが、会話文程度なので気にせず単体で読…

大学生の雛太は、親友である和巳に恋をしていた。気付かれたくて、気付かれたくなくて、裏腹に焦がれながら今日も二人で食事を囲む。 「花を待つ」「色移り」「スパンコール」「手強い」「…

「ねぇ、もう一度私が殺してあげる」 気色の悪い夢を見た。顔のよく見えない黒髪の女の夢。その時思い出していれば、何かが違ったのかもしれない。 【お題：オリオン／2,000字以内指…

他人と感情を共有できないことはおかしいと、誰かが言った。もうすぐ夏が終わる。ヒマワリのような少女は今年も、あの場所で寂しい鯨を待っている。 「渡り」「52ヘルツ」「アルバム」の三…

「動物」「星」「お菓子」の三題小話。両片想い未満の二人による、授業前のほんのり甘いひととき。

ガス会社に勤める駒沢琴子は迷っていた。 訪問しろと迫る客、連絡するなと怒る外回り組。 その間に挟まれて正しい立ち回りを考える。わずかながらも培った事務員としての経験をフル回転させ…

──あたしがいなくなったら、あんたは壊れてくれる？ 赤いチューリップが揺れる。屋上から落ちたあの日、ボクは彼女の誘いに乗った。

また会おな！なんて保証のない約束を残していったあの子。俺は今年も人混みの中に黄色い浴衣を探している。夏祭りは、今日で最終日だった。

短編小説強化を目的として知人とお題を出しあった課題作です。 恋愛要素のあるお題だったはずが、完成したのは老人と猫の友情物語でした。なぜ。

「顔をあげ、目を合わせ、ゆっくりと花開くように嬉しそうな微笑みを向けてくれる。それだけで、心臓をぎゅっと掴まれるんだ」 部室に向かう途中で芽衣子と交わす短い会話。それは伊吹の日…