カクヨムではご無沙汰しております。
カクヨムコン5でご支援くださいました皆様に、厚く御礼申し上げるとともに、お話したいことがありまして参りました。
現在『それでも朝日は昇る』は「小説家になろう」にも転載させていただいております。
そちらでは明日4/7に第9章が更新されるのですが、それに合わせて近況報告にアップロードする文章を、こちら用に少し修正して掲載したいと思います。
カクヨムには、すでに第9章が掲載されているので、読んでいただいた方には何の話であるかはお察しのことと思います。
サンブレストの大虐殺についてです。
『それでも朝日は昇る』は様々なテーマを内包した作品ですが、その一つが「葬られた歴史の真実とは何だったのか」です。
その一つにして、歴史の大きな分岐点。それが「サンブレストの大虐殺」です。
歴史を変えたいと願っていたはずのアイラシェールが、なぜ虐殺を行ったのか。
歴史を知るカイルワーンが、なぜそれを止めなかったのか。
その答えがこれでした。
この作品を私が執筆したのが2000年から2002年頃、自サイトで公開したのが2006年、そしてカクヨムへの転載を行ったのが昨年です。
そして今、小説家になろうへの転載を行なっていたのですが、まさか世界がこのような状況に陥ろうとは。
まさか新型コロナウイルス、COVID-19がここまで蔓延しようとは。
世界的パンデミックに現実に直面しようとは、考えもしませんでした。
そして今、非常に悩んでいます。
これが初めての公開であれば、おそらくとりやめていたと思います。
しかしすでに自サイトで何年も公開していたものであること、今までにかなりの方に読んでいただいている作品であること。
つまり、かなりの方が9章で何が起こったのかすでにご存知であること。
それを鑑みた結果、「小説家になろう」への転載に踏み切りましたし、自サイトとカクヨムにもこのまま掲載しておくことに決めました。
ですが、同時にどうしても記しておきたいことがあります。
お話ししておきたいことがあります。
私は、9章でアイラシェールが行ったことを、肯定していません。
あれが正解だとは、正しい行いだったとは思っていません。
あれは正道では、正義ではありません。
そして医者であるカイルワーンが最初から治療を諦めたこと、サンブレストの村人を助けようとしなかったこと、そしてアイラシェールを止めようとしなかったこと、それもまた正しいとは思っていません。
疫病の蔓延を防ぐために、感染地域の住人を抹殺する。
そんなことは、あってはならないんです。
そんなことは、許されてはならないんです。
それを正しいこととは、どうか思わないでください。絶対に思わないでください。
その選択は、絶対正しくない。
これだけはどうか、判ってください。
病魔に冒された人を排斥していい理由は、見捨てていい理由は、攻撃していい理由は、どこにもありません。
この物語は、それを一切肯定していません。
それを正しいことであると、正義であるとは一切謳ってはいません。
アイラシェールとカイルワーンが行ったことは、間違いなく罪です。
それは本文でも記したとおり、アイラもカイルも判っています。
許されざることです。許容していいことではありません。
しかしながら。
あの状況で、二百年後の医療に精通しているにも関わらず、コレラの感染媒介が何なのかも治療法も全く判らなかった二人が、他にどんな手段を用い得たのか。
何もしないでただコレラが蔓延するのを見ていればよかったのか。
アイラが言うように、村をただ封鎖し、村人が病で全滅するのを待てばよかったのか。
それが正しい選択だったのか、と問われれば、それもまた正しいとはとても言えない。
じゃあどうすればいいのよ、と問われれば答えがないんです。
正解がないんです。
何をどう選んでも正しくない、と私は思います。
何をしてもしなくても罪になる。そう思います。
それでも選ばなくてはならない。
そしてその罪を背負い、責任を取り、罰を受けなければならない。
それが多くの人間の命を背負う「為政者」の定めなのだと、私は思います。
この物語は悲劇です。
いずれ辿り着くこの物語の結末が、バッドエンドかどうかは読んでいただいた皆様の判断に委ねたい(そして今までも意見が割れてきた)ことなのですが、この一点においては紛れもなく悲劇です。
決して許されない、人の命の取捨選択をしなければならなかったことが。
そしてその罪を背負い、罰を受けなければならなかったことが。
紛れもなく悲劇です。
アイラシェールが、どれほどその選択を下したくなかったのか。
どれほどカイルワーンが、彼女をその罪に押し出したことに苦しんだのか。
その悲歎を、絶望を、その中でも運命の果てる最後まで生きよう、前へと進もうとした決意を、どうか皆様お酌み取りください。
そして願わくは。
誰を傷つけても、排斥しても何も変わらない現実のパンデミックを、少しでも被害少なく食い止められますよう。
全力で戦ってくれている医療関係者の皆さんが、少しでも命の取捨選択を行わなくて済みますよう。
私はアイラシェールの選択を、正しいことにしたくない。
ああすべきだったなんて、誰にも言われたくない。
私たちの今生きる世界は、あの選択をよしとしない。
それは綺麗事かもしれないけれども、もはや時間は戻せないのだから。
21世紀に生きる私たちは、その選択肢をよしとしない理性と知性を持っているはずだと信じます。
であると同時に。だからこそ。
許されざる罪を犯すしかなかったアイラシェールとカイルワーンを、悲しんでやってくだされば、作者としてこれ以上のことはありません。