藍内　友紀

パレスチナ人の少女・マナルは三方を壁に、西側を地中海に囲まれたガザ地区で暮らしている。毎朝、一面の瓦礫の中に飲み水を汲みに行く。 水汲みには、従兄弟であるアフマドも一緒だ。けれど…

僕たち戦闘機パイロットにとって、墜ちた仲間を忘れるっていうのは礼儀のひとつだ。 僕の属する国ヒノメはずっと、それこそ僕の曾祖父が生まれる前から隣国と戦争状態にある。小休止を繰り返…

四半世紀ぶりに再会した老人に、あのとき畑から出てきたビニル袋の中身はウサギではなかった、と告白されたものの、結局なにひとつわからなかった話。

鼻歌で体を震わせ、その振動によってあらゆる電子機器にアクセスできるボクたちは、その鼻歌がミツバチの羽音に似ていることから【ミツバチ】と呼ばれている。ミツバチたちはその能力により、…

押し入れの天袋から出て来たのは、幼稚園のクラスメイトである「ひつじの」さんの自由帳でした。 けれど当時のわたしは、ひつじのさんとろくに話したこともなかったのです。 そんな、ひつじ…

アフリカ西部、リベリア。 カラマは、村の問題を解決しに来た「踊る悪魔」が怖かった。そんなとき、村を襲った少女ゲリラ兵アイーシャが「悪魔」を殺してくれた。 村と家族を喪ったカラマは…

小学校1年生の少女・歩は、自分の家が「普通」ではないことを察しはじめていた。 そんなとき、父が「社長」を務める事務所でアダルトビデオのチェックをしている女子中学生さなえに出逢う。…

小学生の「わたし」が引っ越してきた家には、老婆の幽霊が居座っていました。 これは、わたしが初めて「幽霊」というものの存在を意識したときの話です。

【試し読み】芥子はミツバチを抱き【KADOKAWA（角川書店）さまより発売中】 奈良で暮らすイェリコ（11歳）はプロのドローンレーサーを夢見ていた。 けれど参加したレースでイェ…

天井裏を叩く規則的な音。 壁に向かって設置されたカーブミラー。 天窓のある子供部屋としつけのされていない犬たち。 神社の舞殿の床板の裏についた手形。 無人の倉庫からかかってくる内…

深夜に無人の部屋から響いてくる低い歌。 どこにもつながっていない廊下を造った老人。 塞がれた子供部屋にあったもの。 壁の中から出てきたもの。 そして友人が育った、袋小路の家につい…

6歳のナシムは自分の右腕を捨てて、父の機械仕掛けの右腕を継いだ。 コピー銃を密造して収入を得て、家族を支えるためだ。 アフガニスタンとパキスタンの境に横たわる山岳地帯には、どち…

　ボクは不老だけれど、不死じゃない。 　けれど人間たちはボクたち稀人を不老不死の化け物だと思い込んでいる。 　人間の死体に青く輝く石を埋め込んだ結果、生き返ってしまったのがボクた…

　ボクは、飛来する小惑星や彗星や宇宙デブリなんかを地球への衝突軌道からはじき出す流星迎撃衛星に組み込まれている、人工知能だ。ボクの身体には地球の衛星軌道上から広大な宇宙を見張る三…

ボクたち〈スナイパー〉は星を愛し、星を撃ち、星を想って死んでいく。それ以外の生き方も、それ以上の幸せも知らなかった。 でもボクは今、人を想って手紙を書いている。 『星を墜とすボ…

　僕は確かに彼女に――17歳も年下の、三週間後には地球を捨てて新惑星への旅に出る17歳の少女に、惹かれていた。 　そして僕は、臆病だった。僕は彼女のような、往復30年の宇宙旅行に…

　四年前の夏、海外で両親が死んだ。一緒にいたはずのボクにはそのときの記憶がない。 　ある日、伯母の家で陰鬱と暮らしていたボクに、『母親は死んでいない』というメールが届いた。 　メ…