• に登録
  • 異世界ファンタジー

【追放した側のファンタジー・英雄ケンツの復活譚】閑話(161部分)

茶番の閑話(読み飛ばし推奨)

【ティラム逃亡記出張版 01】


パカポコパコ

愛馬達の歩容が駈足から|常足《なみあし》に変わる。
ケンツ達と別れてから七日目。
|真正《野良》聖女アリサ、|真正《野良》勇者ユーシス、召喚勇者|ヒロキ《祐樹》、召喚聖女|アカリ《朱里》の野良勇者パーティーはようやくリットールの国境を越えた。

歩容が穏やかになったところでアリサはユーシスに話しかけた。

「ねえ、|ユリウス《・・・・》さん」

相変わらずアリサから“ユリウス”と呼ばれ、ユーシスは眉間にシワを寄せた。

「アリサ、リットールの国境は超えたろ?もうその呼び名はやめてくれ」
「あ、ごめん。なんか“ユリウスさん”に慣れちゃって」
「ほんと勘弁してくれよな。この前なんかベッドの中でも“ユリウスさん”って耳元で囁いたし。俺一気に萎えちゃったよ」

愛する女とベッドの中で愛し合いながら、女が違う男の名を口にする。
例えそれが自分自身が演じた男の名だったとしても、とんでもなく屈辱的である。

「私、ユリウスさんに心を寝取られちゃったかなぁ」
「待ってくれ。ユリウスしているときに君の心を寝取った覚えはないぞ! 寝取ろうとしたことも無い! ユリウスとして君を口説いた事なんてなかったろう!」

冗談めかして言うアリサだったが、情緒不安定なユーシスはそれを真に受けてしまう。
アリサはそれを面白がり心の中でほくそ笑む。

「酷い、ユーシスは私を愛してないの!?」
「だから、ユーシスの俺は君を愛しているけど、ユリウスの俺は君を愛していないというか……」
「酷い酷い! ユリウスの時は私を愛して無かったんだ。私のことなんてどうでもよかったんだ……だから他人行儀だったんだ……」

アリサはシクシクと泣き出してしまった。
もちろん意地悪そうなニヤニヤ顔を両手で隠しながら。

「いや違う。ユリウスの時もアリサを愛していたし!」
「やっぱり私の心を寝取ろうとしたのね? この鬼畜勇者!」
「ちがーう! アリサ、キミなんだか面倒くさい女になってるぞ!」
「そうさせたのは全部|ユーシス《ユリウスさん》のせいよ。自業自得だわ」
「ぐぬぬ……」

アリサは歪な笑みを浮かべた。

「まあまあ、なあユーシス。おまえもうユリウスに戒名……じゃない。改名した方がいいんじゃねーか?」
「私もそう思う。ユーシスよりユリウスの方がメジャーな感じでかっこいいし」

ニヤニヤ顔で割って入ったのは召喚勇者|ヒロキ《祐樹》と召喚聖女|アカリ《朱里》。
ここぞとばかりにユーシス弄りに参戦する。

「改名なんかするか! おいアカリ。それは俺の名前がマイナーだと言いたいのか? いったい何の根拠があって!」

ユーシスはアカリに食ってかかった。

「マイナーとは言わないけどさ。だって、乙女ゲーとか異世界恋愛小説とかだと【ユリウス】ってイケメンな王子様とか上級貴族の子息とかに付けられるメジャーな名前じゃん。一方【ユーシス】って全然聞いた事ないし」
「それはおまえ達の世界の話だろ! こっちの世界じゃ【ユーシス】だってメジャーな名前だぞ!」
「そうなの?」「本当か?」

ヒロキとアカリはアリサに訊いた。

「え、どうかな。私も他に【ユーシス】って名前の人には合ったことないわ」

アリサは首を傾げて答えた。

「ちくしょう。やはり俺はマイナーなのか……」

アリサの駄目だしを食らってユーシスの目に涙が浮かび、やがてそれは頬を伝って流れ落ちた。
それはユーシスの愛馬ネロのたて髪をシットリと濡らし、ネロは迷惑かつ不快そうにブヒヒンと鼻を鳴らす。

「ははは、悪かったよ。ちょっと揶揄っただけだ」
「【ユーシス】いいじゃない。素敵な響きよ」

ヒロキとアカリはネロの機嫌が悪くなったのを見て、慌ててユーシスに謝りフォローした。
ユーシスより馬の機嫌を気にするのが悲しいところだ。


「……それでなんだよ」

ユリウス……じゃない。ユーシスはブスッとしながら改めてアリサに訊いた。

「え? ああ、もうすぐ例の村よね。大丈夫かしら」

旅のルート上にあるとある村についてアリサは懸念していた。
なぜなら、その村は訳ありの召喚者だけで構成された村だからだ。
その訳ありの理由とは――

「召喚者と言っても無能力者とハズレ|祝福《ギフト》が降りた連中だろ? 召喚勇者は一人もいないって言うし大丈夫さ。それにサービス精神旺盛な安全な村だとアニキ達から聞いたぜ」


そしてアニキ達というのはユーシスとアリサの兄貴分・姉貴分の真正勇者ヨシュアと真正聖女カーシャの事である。
アリサ達はヨシュアとカーシャが用意した逃亡ルートを旅しているのだ。

「俺達の世界の文化が満載の村なんだろう?」
「楽しみだね。ゲーセンとかボウリング場とかあるのかな」

ヒロキとアカリは「故郷の文化に久々に触れられるかもしれない」そんな期待に胸を膨らませているようだ。

「アリサ、心配するな。何が有っても俺はおまえを守るから」
「うん……」

ユーシスはアリサにそう言って安心させた。
やがて召喚者達の村に到着。
しかし一時間もしないうちに……

「んあああああ、なんなのこれ!? 私こんなの知らな……ひぎぃぃぃぃぃ!」

白い部屋の中で白い衣装に身を包んだ中年男に無慈悲に激しく責め突かれ、ビクンビクンと身体を震わせ絶叫するアリサの姿があった。



つづく?

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する