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【追放した側のファンタジー・英雄ケンツの復活譚】096第三十七話 03 関連エピソード その二



【096 第三十七話 リサステーション(甦生)03】


応援要請を受けて、突如ケンツ達の前に現れた召喚勇者ヒロキと召喚聖女アカリ。
今回はこの二人の旅模様を……


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 ◆アドレア連邦北部 アストラ (ヒロキとアカリ)


 ― キュイイイイイイイイイン……


 立体魔法陣が展開され、ヒロキとアカリが姿を現した。

ユーシスを捜索すべく、遥か彼方の【環状砂漠ラミア大神殿】より【アドレア連邦 アストラ】へと、古代魔法転送装置より転送されてきたのだ。

 ― ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 しかし転送されると同時に、弾丸のような横殴りの風と雪が二人を襲う!

「な、なんだ!?」
「ヒロキ、ここ猛吹雪の真只中だよ!」

 ヒロキとアカリが転送した場所は、標高三千メートル越えの高山、アストラ山脈の山頂!
 天候は猛吹雪で視界はわずか1メートル。周囲の様子などまるでわからない!

「あ、アカリ、ストライバーで囲ってくれ!このままじゃ凍え死ぬ!あと照明も!」
「ドーム型|ストライバー《絶対障壁》!|ホーリーライトボール《聖光球体》!」

 ― キンッ! ボヒュッ!ボヒュッ!

 言われた通り|ストライバー《絶対障壁》を張り、聖なる光で周囲を照らすアカリ。
 ストライバーはヒロキとアカリから半径5メートルの吹雪を遮った。

「ふう、ビックリしたぜ」
「ほんと、いきなり凍え死ぬかと思った」
「早速ユーシスを探そう」
「まさかこの雪の下に冷たくなって埋まっているとかじゃないよね……」
「縁起でもない事言うなよ……俺は血痕を探す。アカリはストライバーサーチでユーシスを探してくれ」
「わかった」

 雪に埋もれてはいたが、やはりここはラミアの祠だった。
 しかし、ユーシスの血の跡も、ユーシスそのものも発見できなかった。

「どうやらココじゃなかったようだな、ちょっと安心したぜ」
「ほんと、こんな所に飛ばされたら凍死しちゃう」
「長居は無用だ、次の捜索個所に移動しよう」
「どうやって?」
「うーん……」

 夜の猛吹雪の中、標高三千メートル級の山を下山するなど自殺行為だ。
 頼りのルカとヨウコ(リアース世界からの召喚者)から貰った魔力式ジェットハングライダーも、この猛吹雪の中では確実に墜落して遭難する。

「くっそ、いきなり足止めかよ!」
「どうしようもないよ、諦めて|ビバーク《野営》に備えよう」

 アカリはそう言うと、炎のランジェリーアーマーの力を使い、火を熾して暖を取った。


*


それから数日後……

 ― ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 相変わらず猛吹雪のアストラ山脈!
 ヒロキとアカリはアストラ山脈のラミアの祠にて足止めを食らったままだった。
 祠の周りは朱里の炎の魔法により完全に除雪され、地面が露にされている。
 その祠の前でヒロキとアカリは膝を抱えてチョコンと並んで座っていた。

「アカリ、少しくっ付いていいか」
「うんいいよ、この吹雪っていつ治まるんだろうね」

 ヒロキはアカリの背後に周り、覆いかぶさるように座り直した。
 一向に止みそうにない吹雪。
 アカリの張った|ストライバー《魔法障壁》の向うは、視界1メートル以下の世界だ。
 そんな状況の中、じっとしているのが苦手な祐樹は、何かすることは無いかとソワソワサワサワしてアカリに迷惑をかけている。

「なぁ、ちょっとアリサに信号送ってみろよ」
「また?この吹雪じゃ無駄だと思うけどなぁ」
「いいからいいから」
「はいはい」

 アカリは例の魔導通信機をゴソゴソと取り出した。

『こちらアカリ、応答せよ。オーバー』

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 ツーツーツーツー トントンツートン ………

 アカリが魔導通信機に話しかけると、途端にそれはモールス信号に変換されて送信された。
 キチンと受信されれば信号はテキストに返還され、アリサの魔導通信機にメールのように表示されるはずだ。

 しかし――

 ― シーン

 案の定、返信はなかった。
 やはりこの猛吹雪では信号は届かないようだ。

「やっぱり駄目みたい」
「ちぇ……|ユーシスとアリサ《あいつら》無事かなぁ……」

 彼らが動き出せるのは、やはりまだ少し先のようだ。




*



ヒロキとアカリが吹雪のためアストラ山脈に釘付けにされてからさらに10日目。

「アカリ、吹雪が止んだぞ!」
「ガスが晴れて薄日が差して来た!」

 悪天候のおかげで長らくアストラ山脈に釘付けになっていたヒロキとアカリだが、ようやく天候は回復して出発可能となった。

「アカリ、アリサに通信送ったらすぐ出発するぞ!山の天気は変わりやすいから急ごう!」
「うん!本当に晴れてよかったー。今朝で食料の底がほとんど尽きてたもんね」
「じゃあユーシスを見つけたらマハパワーの都で飯にしよう。あいつ、祠で飢えているかもしれないからな」
「だね!でもマハパワーのラミアの祠も高い山脈にあるんだよね。晴れて欲しいなぁ……」

 ヒロキとアカリがアストラとマハパワーの捜索に割り当てられた理由がここにある。
 アストラ、マハパワーともにラミアの祠は山脈の高山窪みにあり、地上ルートで捜索に向かうのが困難…………というか今の時期は不可能なのだ。
 しかしヒロキとアカリには、ルカとヨウコから提供されたジェットハングライダーがある。
 空路でならアストラ――マハパワー間の移動など何も苦にすることは無い。それこそ僅か数時間で到達できる。
 それに今は冬一月。この時期は平地でも悪天候の日が多いが、ヒロキのジェットハングライダーなら日程の遅れを取り戻せる。

「|ハンガー!《格納庫!》」

 ヒロキがそう叫ぶと、時間停止空間がパックリと開き、中から赤い翼のジェットハングライダーが姿を現した!

 二人は急ぎ乗り込み動作チェックを済ます。
 オールグリーン、機体に問題は無しだ!
 そしてアリサに通信を送るとすぐ返信が帰って来た。

「アリサから返信あったよ!テヘラとフェレングにはユーシスは転送されて無かったって!」
「じゃあ残るはマハパワーとリットールだけだな。待ってろユーシス、すぐ行くからな!アカリ、出発するぞ!」
「うん!」

 機体がブルンと震え、魔式ジェットエンジンに火が入る。
 同時に時空ユニットが起動し、機体がフワリと垂直に浮いた!

 ― シュウウウウウウウウウウウウウウウウウン!

 続いてジェットエンジンの可変ノズルから青白い炎が噴き出す!

「|テイクオフ!《離陸!》」

 そしてジェットハングライダーは、抜けるような青空の元、白銀の山脈からマハパワーに向けて飛び去った!


 数時間後――

「ヒロキ、マハパワーの都とマハパワー山脈が見えて来たよ!」
「あっちゃー、こっちの山も相当吹雪いているな」
「どうするの?」
「んなもん決まっている!ユーシスがいるかもしれないんだ。強行あるのみ!」
「だね!着きさえすれば私のストライバーでなんとでも……」

 ヒロキはスロットルを開け【ラミアの祠】のある最も高い山の山頂を目指す!
 しかし山の吹雪はそんな甘いものではなかった。

「くっ、吹雪で前が見えねえ!」

 完全に視界ゼロ!
 こうなると機体に組み込まれた各種センサーが頼りなのだが……

『警告、気流が激しい為、間もなく本機はコントロールを失います。現在視界ゼロ。時空ナビゲーションおよび魔式航空レーダーダウン。現在位置を特定できません!』

 ジェットハングライダーのシステムが恐ろしい警告を発した。

「|エリアサーチ《広範囲サーチ》!」

 アカリがダウンした|各種センサー《目》の代わりを果たそうと、未熟ながらストライバー応用術〈エリアサーチ〉を発動する。

 刹那!

「ヒロキ、左に目一杯避けて!山脈にぶつかる!」
「うおおおおおおおおおおお!!!???」

 ― ボシュンッ!ズズズズズ……

 ジェットハングライダーは、コックピットの底を雪に覆われた山脈に激しく擦りつける!
 まさに間一髪!ジェットハングライダーはどうやら激突を免れた。
 損傷個所も皆無だ。

「ひいいいいいいいいいいいいい!!!」
「あ、危なかった。アカリが居なけりゃ死んでいたぜ……」

 冬だというのに変な汗がどっと流れる。
 ヒロキとアカリは遺憾ながら捜索を断念、マハパワーの都へ転進した。


「くそ、もう少しで辿り着けたのに!」
「しょうがないよ、あそこで無茶したら二重遭難しちゃう」
「あいつの事だから死ぬことは無いだろうが心配だな」
「とりあえず買い物してから食事にしよ?怖い思いしたせいかお腹が空いちゃったし」

 ジェットハングライダーはマハパワーの都から4キロメートルほど離れた所に着陸した。
 ここからは旅人を装って徒歩で都に向かう。


 アドレア連邦では緊急事態でも起きない限り、連邦内国家間の行き来は原則自由だ。
 しかしそれでも差別意識は強いらしく、マハパワーの民も排他的思考のようだ。
 無事、都入りして食料を調達しようと、とある商店を訪れると……

「この干し肉をくれ」
「はいよ、2000ルブルだ」
「値段札には1000ルブルと書いてあるぞ?」
「悪いがあんたらにはその値段では売れないよ。嫌なら他所にいきな」
「「!?」」

 なんとお値段十割増し(倍)で吹っ掛けられてしまった。
 十割増しでも払えない事は無いが、やはり気分は良いものではないのでこの商店をパスする。

「なんだよ、あの店は?」
「ヒロキ、もういいから次の店に行こうよ」

 しかしどの店に行っても店主は俺達の顔を見るなり訝しげな表情で、十割増しの値段を吹っ掛けて来る。中には二十割増しの店も……

 やがて――

「てめぇ、どの店も商品が全て十割増しとはどういう事だ!」
「ちょっとヒロキ、大声だすと人が集まっちゃうよ!」

 とうとうヒロキはとある店前でブチ切れてしまった!

「ほーう?外国のお兄さん、随分と威勢がいいじゃないか。おい、こいつらの身ぐるみ剥いでやんな!」
「「「「おうっ!」」」」

 近所の商店から、棍棒を持ったオッサン達がワラワラと現れた!

「「なっ!?」」

 ヒロキとアカリは取り囲まれてしまった。

「な、なぜ俺達が外国人だとわかったんだ!?」
「変な素振りは見せなかったのに……」

 困惑するヒロキとアカリ。まさかこんなに簡単に外国人だとバレるとは思わなかったようだ。
 しかしオッサン達はヒロキとアカリの間の抜けた言葉に大笑いし始めた。


「わははははは、そりゃ何かのギャグかい?」
「テメーらなんて見た瞬間に外国人だとわかったぜ」

「「だから何故!?」」

「だっておまえら見るからに東洋顔じゃん」
「そんなノッペリ顔の連邦民がいるかっての!」
「ここに召喚者は勇者キヨシ様からいないからな。おまえらが外国人なのは必然なのさ」

「「 あ…… 」」

 ここにきてヒロキとアカリは気が付いた。
 アドレア連邦マハパワーの民(たみ)は、見るからに西洋人顔の北ユーラジアン人が99.99パーセントを占める。
 しかしヒロキとアカリは東洋人顔の日本人。人種が違うのだから顔を見られりゃ一発でバレるのだ。

「しまったあああああああ!うっかり忘れてた!」
「私達としたことが、こんなミスを犯すなんて!」

 ヒロキとアカリは、ラミア神殿出発前に受けたヨシュアとカーシャからのレクチャーを思い出した。


『ヒロキにアカリ。おまえ達は東洋人顔だから気を付けろ。人と接触する時は必ずメイクして顔の感じをユーラジアン人に近づけるんだ』
『アドレア連邦の民は全体的に差別意識が強く排他的だからね。外国人だとバレたら無茶苦茶な扱いを受けるぞ。十分気を付けてくれ』


「そういえばヨシュアさんとカーシャさんが強く念押ししてたよな……」
「二十日近く山籠もりしてたせいで、すっかり忘れてた……」

 いかにも『ヤラカシター!ドーシヨー!』という情けない顔をするヒロキとアカリ。

「わはははははははははは!」
「こいつら本物のバカだぜ!」
「ここまでバカだと何の躊躇いも無く毟れるな!」

 そう言って棍棒片手にジリジリと間合を詰めて来るオッサン達!

「くっ、これ以上騒ぎを大きくするのはマズイ!」
「私に任せて!|ホーリーフラッシュ《聖なる閃光》!」

 カッ……ピカッ!!!!!

「うわっ!」
「な、なんだぁ!?」
「目がぁあああああ!!!」

 とんでもない閃光がオッサン達の目を襲い、一時的に視力を奪った!

「ヒロキ、今のうちに逃げよう!」
「目がぁああああ!!!」
「なんでヒロキも閃光浴びてるの!?」
「だっていきなりだったから……」
「もう!」

 アカリはヒロキの手を引いて、急いでその場を離脱した。

「はぁはぁ、ここまで逃げれば大丈夫かな」
「うう、まだ目がシパシパする……」

 二人は噴水のある広場まで逃げて来ると、追手がいないこと事を確認して足を止めた。
 目をゴシゴシと擦るヒロキを呆れ顔で眺めるアカリ。

「これからどうしよう。日が落ちちゃったし、暗がりでメイクは厳しいなぁ……」
「もう十割増しでも諦めて買うしかないな。食料品くらい大した額じゃないし」
「でも宿屋も十割増しなんじゃない?出費がかさむなぁ……」
「よし、それじゃ俺が何か策を考えるぜ!」
「ヒロキの策は100パーセント失敗するから却下!」
「えーー」

 ヒロキの策が成功した試し無し。
 アカリは秒で却下した。


 ― ゆらり……

 噴水の縁に腰かけて、「あーだこーだ」と今後のプランを練り始める二人。
 その二人の前に人影が。

「もし、外国の方のようにお見受けしますが、何かお困りごとですか?」
「「え?」」

 二人が顔を上げると、そこには品の良さそうな美熟女の姿があった。




その後、ヒロキとアカリはこの美熟女の策略に嵌り、【召喚勇者キヨシ】なるものに売り飛ばされ、祐樹はボコボコのタコ殴りにされ、朱里はキヨシに全身舐め回されヨダレ塗れにされるのだが、それはまた彼らの物語である。


(おわり)

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