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【追放した側のファンタジー・英雄ケンツの復活譚】090第三十六話 02 関連エピソード その一


【090 第三十六話 葬送戦 02】

「アリサ、このクソ野郎と知り合いだったのか?」
「知り合いも何も、政都に|想い人《ユーシス》を探しに行った時、魅了しようとしてきたのがこの男よ!」
「ああ、股間を粉砕した勇者って、|このクソ野郎《ユキマサ》だったのか」
「あの時、穏便に済まそうなんて思わなければ……ひと思いに屠ればよかったわ!そうすればシャロンさんは……」

アリサはギリリと歯ぎしりをして悔しがった。

それはユリウスとミヤビが仲間になる前日のこと。
想い人を探しに【ミヤビの村】経由で【政都】へ単独で向かったアリサ。
そこで遭遇した勇者一行と言うのがユキマサパーティーだったのだ。
政都にてユキマサと遭遇時、アリサは名前をラリサと偽り穏便に済まそうとしたのだが、なぜか激高してユキマサの股間を粉砕、全身ボコボコにしてシバキ倒した。
そして我に返り、慌てて回復させたのち、急ぎソソクサとその場を去ったのだった。


上記部分のサイドストーリーとなります。
政都にて単独活動中のアリサの様子です。




【遭遇、召喚勇者!sideアリサ 01」

 sideアリサ


 ― パカラッ パカラッ パカラッ パカラッ 


 私はファイスに跨り【ミヤビの村】へ向かっている。

 ユーシスが【ミヤビの村】と【政都】に向かったとしても、それは二週間以上前の事で、もういない可能性の方が高い。

 だけど私はどうしてもユーシスの足取りを辿りたかったのだ。


 ― パカラッ パカラッ パカラッ パカラッ


「ファイス、どうどう。あそこに何かあるわ」


 何やら街道沿い妙なものが置いてあるのが見える。

 あれは、防具と剣?なんでこんな所に……

 私はファイスから降りて、それを確認した。


「聖剣と聖鎧?待って、聖剣に何か書いてある」


『異世界から召喚されし勇者アキヒロ、魔法剣士トシオ、魔法戦士カズシゲ。
 リットールの地にて魔力切れを起こし帰らぬ人となる。
 ティラム歴2021年1月某日。』


「これは……聖剣を墓標代わりにしているんだわ。でも聖剣に文字を掘るなんてことが出来るのは、聖鍛冶師と真正勇者だけのはず」


 それにしても三週間は経っているはずなのに、よく聖剣と聖鎧が残っていたものね。ああ、聖剣と聖鎧は普通の人には重くなって持てないんだっけ。だからか。

 ん?


(パカラッ パカラッ パカラッ パカラッ)


 馬の駆ける音?もしやユーシスでは!
 
 私は淡い期待でこちらに向かって来る者を待った。しかし、それはユーシスでは無かった。

 来たのは三頭の馬と三人の男達。

 身なりはかなり良く……というか、少々かぶき気味の旅衣装?いや、あれは防具ね。

 冒険者かな、リーダーと思える男はかなり立派な剣を携えている。

 どうにも嫌な予感しかしない……


「そこの女、動くな!」


 リーダーらしき男が、私の姿を見るなり怒鳴りつけてきた!

 失敗したわ、隠れて様子を見るべきだった。私は慌ててフードを被る。


「女、こんな何もないところで何をしている?」

「あ、はい。道沿いに何か見えたので何だろうと思いまして……」

「なに?おい、おまえら見てくれ」

「あいよ」「ほいきた」


 二人の仲間は聖剣を見るなり顔色が変わった。


「おいユキマサ、こいつは報告にあったアキヒロ達の墓みたいだぜ!」

「なんだと!?」


 ユキマサという男は慌てて馬から降りると、墓標代わりの聖剣を簡単に引き抜いた。

 この人達、女神セフィースの使徒だわ!まさか召喚勇者?これはまずい!!


「確かにアキヒロ達の墓のようだな。『魔力切れを起こし帰らぬ人となる』だと?どういう意味だ?」


 アドレア連邦の召喚者も、自身が魔力切れを起こすと消滅すること知らないようだ。

 それよりどうしよう、どうやってここから抜け出せば……

 私は気取られないようジリジリと距離を開け始めたのだが無駄だった。


「それで女、おまえはなんだ?」


 くっ、コッソリ逃げられるほど甘く無いか。


「はい、私は【ミヤビの村】に用がありまして……」

「そんな立派な白馬に乗ってか?俺達も【ミヤビの村】に向かうところだぜ」

「…………」

「だんまりか?まあいい。おい女、そのフードを取って顔を見せてみろ」

「…………」

「どうした、早く見せろ!」


 ユキマサと言うリーダー格の男は執拗に迫る!

 冗談じゃない、もしこの男が勇者だったらとんでもないことになるわ!


「まあまあユキマサ。この子怯えてんじゃねーか。婦女子に対して高圧的な態度はいかんぜよ」

「全くだ。お嬢ちゃん、怪しいものじゃないから安心しな。俺達は女にはとっても優しいんだぜ」

「なんだ、怯えていたのか。そりゃ悪かったな。俺は異世界より召喚されし勇者ユキマサ。そいつらは剣士コージと回復士のタミヤだ」


 しょ、召喚勇者ですって!?最悪だわ、なんでこんなところに……

 きっとリットールの召喚勇者三人のうちの誰かね。

 とにかく、どうにかして逃げないと!

 え!?


「それじゃ顔を拝ませてもらおうか。おい!」

「「そーれ!」」


 ― ブワサッ!


「っ…………!」


 コージとタミヤがいきなりフードを捲った!

 しまった!顔を見られる!見られたら……!


「「「 おおおおおおおおおお!!! 」」」


「おいおい、すんげー可愛い子じゃんか!」
「ユキマサ、見てみろよ!この子とんでもなく可愛い……どうしたユキマサ?」

「うう……」


 ― ダクンッ


 ユキマサの心臓が歪な音をたてて跳ね上がる!


「な、なんだ!?この女を見た瞬間、胸が……」


 ― ダクンッ
 ― ダクンッ
 ― ダクンッ


 ユキマサは鼓動の数だけ欲情の波に包まれていく!

 目の前の女がただただ欲しい!欲しくて堪らない!

 悲しいまでの召喚勇者の本能に身も心も突き動かされる!


「おい、たった今からおまえは俺の女だ、光栄に思え!」

「なんだよユキマサ、まさかの一目惚れか?」
「へー、目の色変えちまってらしくねーな」

「うるせーよ、なんだかわからねーが、この女が欲しくて欲しくて堪らねーんだよ!」


 ユキマサはギラギラとした視線で私の全身を舐め回す!

 まずいまずいまずい!

 この勇者、完全に【召喚勇者の本能】に飲み込まれてしまったわ!

 魅了される前に出来るだけ穏便に脱出しないと!


「ミヤビの村まであと二時間ってところか。女、着いたら早速楽しませて貰うからな!」

「ここで魅了しとかなくていいのか?」

「魅了した女ってのはどれも反応が同じで飽きたんだよ。だが魅了前の女はそれぞれ一度だけしか味わえん。ひひひ」

「ゲスいねぇ、まあ後で俺達にも回してくれよ」

「ダメだ、この女だけは誰にも渡さん」

「なんだよ、そんなに気に入ったのか?まあいいや。村に着けば女なんていくらでもいるしな」


 アドレア連邦の召喚者達もやはりとんでもないわ。

 でもどうしよう、このままじゃ【ミヤビの村】の女の人達にも危険が及んじゃう……


「女、名前は?」

「……」

「おら、勇者様が聞いているんだ、早く言え!」

「……」

「おまえ、勇者法を知らないワケじゃないよな?勇者に対しては絶対服従だぞ!」


 なによそれ、王国の勇者法より最悪じゃない!

 王国は一応パーティーメンバーの一員としての勧誘という体裁なのに。


「……」

「だんまりか。まあそれでもいいぜ。ベッドの中でじっくり喋らせてやる。くくくく……」


 黙らせたい……シバキ倒して黙らせたい!

 でも今はダメ、ここは大人しく従うフリを……


「おら女、さっさと馬に乗れ。乗ったら俺達の前を進め!逃げようなんて思うなよ?逃げたらその場で犯す!」


 ユキマサの命令のままに私は彼らの先頭を進む。

 とにかく恨みを買わないように撃退して、なおかつ時間を稼ぐには……アレかなぁ……

 やがて、私達は森林地帯に入った。道は不規則に曲がりくねり、少し距離を置くと姿が見えなくなる。

 よし、ここで仕掛けてやろう!

 突然私はファイスを止めて下馬した。


「女、誰が下りていいと言った!」


 咆えるユキマサに構わず、私は熱っぽく瞳を潤ませユキマサを見つめた。


「ユキマサ様……」

「あん?……へへへ、なんだそういう事かよ。なら大歓迎だ!」

「あの出来れば二人きりで……」

「むふっ!? よしわかった。おまえらは先に行ってくれ。モテる男は辛いぜ。ふひひ」


 ユキマサは、ブツブツ文句を言うコージとタミヤを先に行かせた。

 よしよし、計画通り!


「さあ、これで俺達二人っきりだ。思いっきり楽しませてくれよ!」

「はい、ユキマサ様。どうぞ私にお情けを……」


 おえっ……気持ち悪い……本当気持ち悪い……吐きそう……

 一瞬、加藤兄弟に媚びた時のことが脳内フラッシュバックしちゃった。


 ― パサリッ、スス……


 私はポンチョローブを脱ぎ、上着を脱ぎ、シャツのボタンに指をかけた。

 第一ボタン、第二ボタン……

 その仕草を食い入るようにユキマサが凝視する。

 マバタキなど一切せず目を血走らせてそれこそ胸元一点集中!

 つまりガン見!


「はぁはぁ、いいぞ女!早く脱げ!」


 大興奮のユキマサも、ベルトのバックルにカチャカチャと指をかけながら迫って来た。

 あーもう、こんな場面ユーシスには絶対に見せられないよ!

 見られたら破局しちゃう!

 というわけでサービスシーンはこれで終わり!

 彼我の距離が50センチくらいまで近づいたとき……


「|ホーリーフラッシュ《聖なる閃光》!」


 ― カッ、ブワッー!


「なんだ!?うわっ、目が!目があああああああ!!!」


 強烈な聖なる光にユキマサは悶絶!

 私に迫ろうと超至近距離で全開に目を開いていたので威力も倍増だ!


「見えねえ!何にも見えねえ!目が焼けるぅぅぅっぅ!!!」


 それにしても悶絶の様子が凄く苦しそうなんだけど。聖光でこんなに苦しむなんて、この人本当は勇者じゃなくて悪魔とかじゃないの?


「なんでもいいわ。それじゃ……」


 ユキマサの後頭部に対して手刀一閃!


「てい!」


 ― スコーン!


「んがっ!?」


 ― ドターン!


 ユキマサは呆気なく気を失った。


「とんでもなくチョロかったなぁ。スケベ心は身を亡ぼすのよ、連邦の召喚勇者さん♪」


 でも思った通り、本能に流された召喚勇者って、性欲最優先で他のことなんて何も気が回らなくなるみたいね。おかげで楽に倒せたわ。

 それじゃ通行の邪魔にならないよう道のワキにどけて……ヨイショ、ヨイショ。


 ― ズズズッ……


 この人、重いなぁ。なんかお腹も少しタユンタユンしてるし。本当に勇者?



「これで良し!はぁーあ、慣れない事はするものじゃないわ。恥ずかしくて顔から火が出そう!過去のトラウマも蘇るし、あーやだやだ!」


 後はファイスを|ストール《亜空間馬房》に戻して……な、なによファイス、そんな目で見ないでよ!


「ブヒヒヒン……」


 |呆顔《あきれがお》で“ジイイイイイイイ”と見つめるファイスを無理やりストールに追いやると、私は空に舞いあがった。

 遠くには【ミヤビの村】が見える。


「ふふ、この勇者は目を覚ましても、何が起きたか把握できないはず。これでかなり時間を稼げるわ。大急ぎでミヤビの村に向かわなくちゃ!村の人達に勇者襲来を知らせないと!」


 |あいつら《召喚勇者達》もミヤビの村に行くっていってたもんね。早く女の人達を非難させないと大変なことになる!


「|スワローフライ《燕の飛翔》!」


 私は燕の如く高速でミヤビの村を目指した!

 きっとそこにはユーシスの手がかりがあるはず!


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その後、ミヤビの村に召喚勇者襲来を知らせたアリサは、想い人ユーシスの手がかりを得てリットールの政都へと向かった。




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 無事、政都入りを果たした私は、スラヴ王国の大使館を探し向かった。

 しかし、聞いていた通り大使館はやはり閉められていた。


「ここまでは想定していたわ。でもこれだけの建物、完全に無人にするとは思えないのよね」


 大使館は白く高い壁で囲われ、|鉄の正門《鉄柵の門》と裏には通用口があった。

 その鉄の正門から敷地と建物を見ると、荒れた感じなどはなく奇麗に整えられていた。


「この感じ、きっと庭や建物を管理している人がいるはず!
 すみませーん!誰かいませんかー!」


 ― シーン……


 思い切って呼んでみるも反応は無い。


「はぁ、また不法侵入かぁ……」


 裏に周り、壁を飛び越え侵入する。

 これじゃ泥棒と言われても言い逃れできないわ。


「そこの泥棒!両手を上げて止まれ!そしてゆっくりこっちを向け!」


 ほら、言わんこっちゃない。

 男性の怒鳴り声にビクッとしながらも、大人しく両手を上げてゆっくり振り返った。

 警告したのはスラヴ風スーツ姿の男。

 恐らく留守番に残った大使館員だろう。


「ど、どうもこんにちは。私は怪しいものではなく、その……」


 この状況をどう説明しようかとマゴマゴしていると、それより先に向うが驚きの声をあげた。


「まさか、アリサ・リースティン様ですか?」

「え?」


 彼の名はマイク・アートセット。

 大使館員を装っているが、実はジアーナ女王陛下が送り込んだ工作員だ。

 マイクさんは念のため私の冒険者カードを確認してから、急ぎ館内に案内した。


「驚きました。仲間からの報告前に、アリサ様が直接来られるとは思いもしませんでしたよ」


 マイクさんは言葉をかけながら、柔和な表情で暖かい紅茶を用意した。

 身体が冷えていた私は、ソファーに腰かけて口に付ける。


「ふぅ……」


 冷えていた口内を、紅茶の熱がじんわりと温かく沁み通った。


「それで、ユーシス様とはもう合流されましたか?」


 あれ?

 今のマイクさんの言い方は、まるでユーシスと合流を果たしていて当然のようなニュアンスだった。


「いいえ、まだ……あのもしかして大使館はユーシスの足取りを御存じなのでしょうか?」


 マイクさんは、私がまだユーシスと合流していない事に少し驚いた。

 そして、ユーシスがどう動いたかを説明してくれた。



「それ、本当なんですか!?」

「本当です。ユーシス様は十日程前に一度スラヴ王国に戻られました」


 驚いたことに、ユーシスは一度大使館ルートで王都に帰還していた。

 そして私達がアドレア連邦入りしている事を知り、すぐにアドレア連邦に戻ったという。

 私達の捜索計画もすでに知っている。


「ユーシス様は、アリサ様との合流を最優先に動いています。彼は連邦の現人神様の助力の元に、マハパワーの【ラミアの祠】から一気にフェレングに向かわれました。そこからアリサ様の通ったルートを辿りリットールに向かわれるようです。いえ、すでにリットール入りしているかもしれません」


 ガーンッ!


「なんてこと……じゃあ|私のしていること《ここに来たこと》は、単に擦れ違いを誘発させてるだけじゃないの!こうしちゃいられないわ!」


 早くリットールに戻らないと!


「それとアリサ様、御報告したい事が一つ……リットール周辺で小規模な異変の兆候があります」

「異変ですか?」

「はい、この地方特有の復活竜が活発化しています。五百年前に猛威を振るった邪竜の眷属らしいのですが、詳しい事はわかっておりません。何しろ連邦は記録というものを一切残しませんので」

「それって、アパーカレスとか言う邪竜のことですか?それならダンジョンにて亡骸を確認しましたが……」

「そうなのですか?ではこのまま自然と鎮静化するのかな……でも、一応これを渡しておきます」


 マイクさんは宝珠を出して来た。

「これは?」

「発動までタイムラグがありますが、竜族や邪竜の魔法・呪術を解読して自己解呪する宝珠です。アリサ様の場合、ストライバーとハリセンを使えるので必要なさそうですが、念のためにお持ちください」

「わかりました、お預かりします」

「邪竜云々はアリサ様には関係の無い事です。どうぞ巻き込まれないようご留意だけお願いします」

 私はアドレア連邦からの“脱出ルートの説明”を受けたのち、宝珠と通行許可証を受け取り大使館を出た。


「それでは無事ユーシス様との再会を願っております」

「ありがとう、お世話になりました」





 さてと、帰りは正門からどうどうと帰れるわ。どこかで食事を済ませてから政都を出発しよう。

 食事が出来るところをキョロキョロしながら探していると――


「おまえっ!?」

「あっ」


 いきなり絶対に会いたくない奴らと鉢合わせしてしまった。

 召喚勇者ユキマサと他二人。

 うわぁ、なんでこの人達政都にいるの!?


「へへへ、ユリウスの情報を求めて政都まで来たかいがあったってもんだ」


 ユリウス!?

 もしかしたらユーシスじゃないかと思った人の名だわ。

 どうしてこの人達がユリウスのことを……

 いやそれよりこのユキマサって人、どの程度昨日の事を覚えているのだろう……


「おい女、どうして昨日は居なくなった?いったい何があった?」
「内容次第ではただでは済まさんぞ!」
「さあ答えろ!」


 この召喚勇者、何もわかっていないわ。よしよし。

 でもここからどう切り抜けよう……。

 多分、この召喚勇者の力は大したことはないわ。祐樹やクローディアさんのような強さは全く感じられないし。

 それどころか加藤兄弟や田中カオスにすら届いていないわ。

 ここで三人まとめて張っ倒すのは可能だけど、あまりにも目立ちすぎる。

 しかもここは政都。往来の人達はリットールの中心に近い関係者ばかりのはず。いつも以上に騒ぎを起こして目立ちたくはないわ。

 うーん……また同じ手を使うしかないかなぁ……


「どうした、早く答えろ!」


 ユキマサは中々答えようとしない私にしびれを切らし、怒鳴りつけた。

 周囲の人々が何事かとチラチラと見ていく。まずいなぁ……

 とりあえずこれ以上怒らして目立たないようにしよう。

 私は即興で言い訳をした。


「実はユキマサ様は、興奮しすぎたせいか突然倒れてしまいまして」

「なに?そう言えば目の前が真っ白になった後、すぐ真っ黒になったような……」

「それでお仲間の皆さんを探しに行ったのですが、魔獣の咆え声が聞こえて怖くなって……」

「それで逃げたと言うのか?」

「はい……」

「なるほど、それは仕方ないな……」

「はい!」

「とでも言うとでも思ったか!勇者を置き去りにしたのは万死に値する!女、貴様は勇者法に基づき死刑だ!今すぐ首を刎ねてやる!」


 ユキマサはスラリと聖剣を抜き、私に剣先を向けた!

 あう、とりあえず怖がるフリしなきゃ。めんどくさいなぁ……


「そんな!お許し下さい!どうか御慈悲を!」


 迫真の演技!

 両膝をついて両の手を組み、祈るように懇願した。

 ガタガタと震え、瞳に涙を潤ませ、哀れな少女を演じる!

 それを見たユキマサは……


 ― にちゃぁ……


 糸を引きそうなネッチャリとした陰湿で歪な笑み。

 怯えて震える私の姿に、ユキマサはゾクゾクしながら|加虐心《サディズム》に火が付いた!


「ぐふふふ……慈悲を乞うのなら、何をすべきかわかっているな?」

「はい、存分に……でも、どうか屋内で……外でするのはどうかお許し下さい……」


 はぁ……演技とは言えこんなこと平気で言うなんて……

 私も随分と図太くなっちゃったなぁ。ユーシスに見られたら卒倒もんだわ。

 そのうち女神様に「品性が無い!」とか言われるんじゃないかしら?


 私の怯え媚びる私の様子にご満悦のユキマサ。

 そこにトドメとばかりに潤んだ瞳でユキマサをジッと見つめた。


「ユキマサ様……」


 その途端、


 ― ダクンッ!

 ― ダクンッ!
 ― ダクンッ!
 ― ダクンッ!


 ユキマサに強烈な召喚勇者の本能が走る!

 本能に飲み込まれたユキマサはもはや冷静な判断など出来ず、ただひたすら目の前のアリサを欲する!

 そしてそのアリサは、すでにユキマサの手中にあるのだ!

 ユキマサは歓喜に打ち震えた!


「ふははは、よかろう。ではベッドの上でこのユキマサ様の情けをたっぷり注いでやろうではないか!めはははは!」

「俺も俺も!」
「四人で楽しもうぜ!」


 しゃしゃり出て来るコージとタミヤ。しかしユキマサは一喝する!


「ダメだ!この女は何故か渡す気にはなれん。俺の専属性奴隷として可愛がってやるんだ!」

「ちぇー」
「しょうがない、俺達は連邦のツケで高級娼館でも行こうぜ」


 剣士コージと回復士タミヤは、ブツブツいいながら去って行った。

 ここまでは少し目立ちはしたものの、大きな騒ぎにはなっていない。よしよし。


「じゃあ女、ホテルに行くぞ!」

「はい……あうっ!?」


 ユキマサは私の腰に手を回し、抱えるようにして強引にホテルへ連れ込んだ。

 この勇者、ぶっ殺す!



つづく。

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