• に登録
  • 異世界ファンタジー

【追放した側のファンタジー・英雄ケンツの復活譚】089第三十六話 01 関連エピソード その三


【告】物凄くネタバレ注意




【ユリウスvs復活竜ティラノドラゴン】


「おーい、ガイドの三人が帰ってきたぞー!」


 声のする方を見ると、村人に抱えられた三人のガイドと倒れた馬の姿があった。

 どうやらガイド達は瘴気にかなりやられているようだ。

 咳込みながら、どす黒い血と粘液をまき散らしている。


「大変!|シャフン《創造》、浄化の霧!」


 その酷い有様を見るや、ミヤビはシャフンを行使した!

 ガイド達が霧に包まれ、瘴気で爛れた皮膚や肺が浄化されていく。そしてある程度回復させたところでミヤビは薬草を食べさせた。

 一瞬ガイド達の身体がボウッっと光り、三人はほとんど回復した。


「た、助かった……」
「ミヤビ様、ありがとうございます!」
「村長はどこですか!大至急報告せねば!」


 よほど重要な事なのか?

 ガイド達はミヤビへの礼もそこそこに、村長の元へ行こうとする。


「ワシならここじゃよ」

「「「 村長! 」」」


 村長は三人のガイドに労いの言葉を掛けようと来たのだが……


「そ、村長!今すぐ村の防衛体制を整えてくれ!」
「それが無理なら今すぐこの村を放棄して脱出を!」
「ヤツが!ヤツがすぐそこまで来ている!」


 とんでもなく狼狽している三人のガイド達。

 その三人に気圧される村長。


「いったいどうしたのじゃ?ティラノドラゴンの脅威はもう無くなったというのに……」

「「「なんだって?」」」

「だからティラノドラゴンは召喚勇者達が倒してくれたのじゃろう?」


 一瞬固まるガイド達。

 だがすぐに目を剥いて訴えかけた!


「そ、村長!奴らは嘘をついている!」
「ティラノドラゴンは死んじゃいない!」
「奴ら召喚勇者達は無様に敗北して逃げたんだ!」


「な、ななななななんじゃとう!?」

「間違いないのですか!?」

「間違いありません! |召喚勇者達《やつら》、ティラノドラゴンの縄張りに着いた時、わずか四歩歩いただけで帰ろうとしたのです!」
「しかも俺達を囮にして置き去りにしやがった!」
「その後、ティラノドラゴンに襲われボコボコにされたんですよ!」


 おいおい、あいつら負けていたのかよ!

 それでいて女達を慰み者にしているのか、洒落にならんぞ!


「あいつらっ!」

「ダメ、ユリウスさん!」


 ― ババッ!


 ミヤビの制止を振り切り、俺は集会所の中に飛び込んだ!


「おい、このふざけた下劣な宴は終わりだ!貴様ら全員外に出ろ!」

「「「きゃあああああああああああああああ!?」」」


 集会所の中は描写するのも吐き気を催す生々しさ!

 そして突然の乱入に女達が悲鳴をあげる!


「な、なんだ貴様!」

「俺の名はユリウス!貴様らティラムドラゴンを打ち損じて逃げ帰ったそうだな!」


「「「 ぎっくぅ! 」」」


 俄に狼狽しはじめる召喚勇者アキヒロとその仲間達。

 信じられない事に、奴らバレるなどとは一切思っていなかったようだ。


「は?なな、ななんのことだ?俺達はキッチリとやっつけたぜ。なぁ?」
「お、おうよ!間違いなくやったぜ」
「へ、変な言いがかり付けてテメーただで済むと思っているのか?」


 あくまでシラをきるアキヒロ達。

 しかし反論するも目が泳いでいる。


「貴様らを案内したガイド達が戻って来たんだ!言い逃れできんぞ!」


 ― ピクッ


「なに?」
「あっちゃー、あいつら生きていたか!」
「殺してから逃げるべきだったな、くそっ!」


 アキヒロ達は顔を見合わせてガイド達の事を毒づいた。

 それから――


「あいつらは多分瘴気にあたって気がふれたんだろ」
「仮にそれが本当だとしても、何か問題になるのか?」
「おまえ、勇者に向かって偉そうな口を叩きやがって……覚悟は出来ているんだろうな」


 三人ともユラリと立ち上がり、こちらを睨みつける。

 こいつら、開き直りやがった!


「いいから服着てさっさと外に出ろ!三人のガイド達も待っているぞ」

「ちっ、あんまり拡散されてもやっかいだな……」
「それじゃ外に出てコイツとガイドを殺るか……」
「いや、あとあと面倒だし、いっそ村人全員……」


 アキヒロ達はヒソヒソと何やら話しながら、集会所の外に出た。


 集会所前には三人のガイド、それに村長とミヤビ、女を奪われた村の男や家族がズラリ!

 全員非難的な目でアキヒロ達と睨んでいる。

 特にガイドの三人は、今にも掴みかかりそうな感じだ!


「おう、テメーら生きていたのかい」
「運のいい奴らだぜ。どうやって助かったんだ?」
「それより、俺達がティラノドラゴンに負けたって吹聴してくれたそうだな。余計な事しやがって!勇者に盾突いてタダで済むと思うなよ!」


 ― ギロリ!


 アキヒロ達はガイドの男達を睨み威圧する!

 しかし男達はもう媚びないし怯みもしない!


「うるせえ!俺達はアンタらがティラノドラゴンを倒してくれると言うから断腸の思いで女を差し出したんだぞ!それなのに!」

「約束を反故にした勇者なんかに誰が従うもんかよ!」

「どの道この村は終わりなんだ!全部テメーらのせいだ!聞こえるか?あの雄叫びを!」


 ― (ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!! ドスッ、ドスッ、ドスッ……)


 足音と思われる地響きとともに、ティラノドラゴンの雄叫びが響いた。

 ティラノドラゴンの嗅覚は鋭い。

 アキヒロのライディーンに驚いた後、怒ったティラノドラゴンはアキヒロ達の臭いを辿り追って来たのだ!

 もし怒れるティラノドラゴンがミヤビの結界を破り侵入してくれば、村は瘴気汚染により壊滅する!それ以前にティラノドラゴンに殲滅させられる!

 ガイドの三人は、この危機を知らせようと瘴気に汚染された抜け道を通り、なんとかティラノドラゴンより先に村に戻れたのだ。


「おいおい、マジかよ!」
「冗談じゃねえ、あんな不死身のバケモンなんか相手に出来るか!」
「おい、逃げるぞ。どうせこいつらティラノドラゴンに全滅させられるんだ。証拠は何も残らねぇ!」


 ― ブチブチン!


 だめだ、こいつらの話を聞いているとイライラがとまらん!


「もういい!貴様らをボコボコにした後で、ティラノドラゴンは俺が屠ってやる!」

「ユリウスさん、まってくだされ!」


 しかし、それでも村長は俺を引き留める。


「勇者様方、契約は契約ですじゃ。もう一度ティラノドラゴンを屠りに行って下され!最強の勇者様なら、本気を出せばあんな復活竜などワケないのでしょう!?」


 村長はあくまでアキヒロ達にティラノドラゴンを倒して欲しいようだ。

 確かに後々の村の運営と存続を考えれば、遺憾ながらアキヒロに任せるべきだろが、今はもうそんな状況じゃない!

 村民たちの顔を見てくれ!もう暴動寸前だぞ!


「あ?お、おう俺達ならあんなヤツわけないぜ!」
「だが今日は気分が乗らねぇ」
「ていうか、俺達はまだ病み上がりなんだよ。また今度な」


 こいつら一体どんな負け方しやがったんだ?

 完全にティラノドラゴンにビビッてやがる。


「何が『わけねぇ』だ!無様に逃げたくせに!」
「しかも俺達を逃げる時の囮にしやがって!」
「俺達だってなぁ、後が無くなりゃ前に出るしかないんだ!どうせ死ぬなら道連れにしてやる!」


 ガイドの男達は、手にクワや農業用フォークを持ち、アキヒロ達相手に一矢報いる覚悟だ!


「誰に向かって偉そうな口叩いてやがる!」


 全く恐れる気配のないどころか、反抗の意思を見せたガイドの男達に、アキヒロが激昂した!



 ― ブワッ!


 凄まじい威圧感と共にアキヒロが聖剣を抜く!


 これはいかん!


「死ね、クズども!」

「「「 !!! 」」」


 ― グオッ!


 ガイド達に対する容赦ない斬撃!

 こいつマジか!?相手はただの村民だぞ!


 ― ガッキャーン!ギリリリリリリリリィ……


「なにっ!?」


 俺はアキヒロの前に割って入り、聖剣に聖剣を合わせヤツの斬撃を止めた!


「な、なんだテメェ!」

「いい加減にしろよ、クソ野郎……」

「「 !? 」」


 まさか勇者である自分の斬撃が止められるなど夢にも思っていなかったのだろう。

 アキヒロは驚き固まっている。

 いや、アキヒロだけじゃない。アキヒロの仲間も、そして村人達も驚愕して固まっている。



「村長、こいつらはもう駄目だ。何も期待できんぞ」


 俺はアキヒロから離れ、村長に決断を促した。


「勇者様方、討伐は無理ですか?ティラノドラゴンには勝てませぬか?」


 村長は悲しそうな顔でアキヒロ達に訴えた。

 村を束ね守る長としては、今後の連邦の脅威を回避するためにも、どうしても約束通りアキヒロ達にティラノドラゴンを屠って貰いたいのだろう。

 穏便に済ますのなら確かにそれが一番なのだから。

 それにアキヒロ達にとっても名誉挽回のチャンスであるのだ。

 しかしアキヒロは村長の差し伸べた挽回のチャンスを放棄した。


「バカ言え。さっきも言ったがあんな腐れドラゴンなんか敵じゃねぇ!」
「だがおまえ達は勇者に対して不遜すぎた。もう絶対に助けねぇ!」
「討伐の契約は今この場で打切り!破棄だ破棄!」

「そんな、それじゃなんのために娘は、孫は、村の娘達は……」


 村長はついに心が折れ、ガックリと膝を地に付いた。


「いいか、これは全部おまえ達の不遜で不敬な態度が原因だ!」
「せいぜい自分達の愚かさを呪いながら腐れドラゴンに殺されるがいいぜ!」
「特にそこのおまえ!責任のほとんどおまえだからな!」


 アキヒロはそう言って俺を指さした。

 どうやら俺はよほど嫌われたらしい。

 だが、ティラノドラゴン討伐破棄の言質はとれたぞ!


「俺の責任ね……まあいい。村長、やつらが討伐失敗して降りた以上、約束通り俺がティラノドラゴンを討伐するが宜しいな?」

「うう、お願いします。もうユリウスさんに御縋りするしか……」


 よし、これで何も問題無くティラノドラゴンを討伐できる!

 その後は召喚勇者ども、貴様らの性根を徹底的に叩き直してやる!


 ― ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 ― ミシミシィ……パリーン!


「来たか!」


 ミヤビの結界のせいで侵入するのを躊躇っていたティラノドラゴンだったが、ついに村に入り込んで来た!


「へへへへ、あの野郎死んだな」
「あいつがくたばる様(さま)を見てからずらかるとするか」
「異議なし!おら、てめぇ!さっさと倒しに行って死んでこい!」

 アキヒロ達はニヤニヤしながら俺をせっついた。

 しかしアキヒロ達のニヤケ顔は、わすか数秒で驚愕の表情に変わることになる。




「|デフォイメント《アーマー展開》!」


 ― グオゥ!ゴオオオオオオオオオオオオオオ!


 一瞬にして|ディメンション《報酬の》|アーマー《鎧具》を装着!

 全身に紅蓮の炎を全身に纏わせティラノドラゴンと対峙してすぐ!


「 炎 獄 流 星 斬 ! でええええええええええええい!」


 ― ドゴオオオオオオオオオオオオオオ!!!!


 獄炎を乗せた斬撃がティラノドラゴンを叩き斬る!


 ― アンギャ……!?

 ― バシュンッ!

 ― ドサ……ゴロリ……ジュジュジュジュ……


 あっさりと首を斬り落とされたティラノドラゴン!

 聞いていた話どおりだ。完全に絶命してピクリとも動かない。


「|ファイヤーバースト《火球爆破》!」


 ― ゴウッ! ゴウッ! ゴウッ! ズガボオオオオオン!!!


 火球の連続放出、そして命中した火球が獄炎爆発してティラノドラゴンを焼き尽くす!


「えっと、確か額の奥だったよな……お、これか。思ったほどデカくないな」


 俺は燃えカスからティラノドラゴンの討伐部位である魔核(コア)を見つけ、布に包んでポーチに入れた。

 なんだよ、召喚勇者一行をフルボッコにしたって言うから一応警戒したのに、全然大したことなかったぞ?

 あいつらなんで負けたんだ……ん?



 ― ぽかーん

「え、あれ?」
「おい、もしかして……」
「やったのか?やっつけたのか!?」


 ほんの数秒で片が付いたティラノドラゴン討伐劇。

 それを目の当たりにした村人たちは、すぐには理解できず戸惑っていたが……


「やった!ほんとにやった!」
「信じられねぇ!あの兄ちゃん、本当にやりやがったぜ!」
「もう瘴気に犯される事は無いんだ……うう、村は救われたんだ!」


 ― わっ!


 俺の周りが村人が集まり、褒めたたえながらモミクチャに!

 みんな嬉しい気持ちはわかる。しかし今はそんな場合じゃないんだ!


「みんな、まってくれ!まだあいつ等を……」


アキヒロ達にケジメを!


 そんな思いも空しく、召喚勇者達は歓喜に湧く村人たちを壁にして、姿を消してしまった。



-----------------------------------------------------------------







【魅了解除】

 

「やったー!村は救われたぞー!」
「よかった、本当に良かった……」
「しかし、大きな……大きな代償だった……」
「この一年、本当に厳しかったな」
「ああ、ミヤビ様がいなければ、この村もとっくに瘴気に飲み込まれていたからな」
「あの兄ちゃんも凄かったな。まさか瞬殺とは!」
「本当にあの兄ちゃんとミヤビ様にはいくら感謝しても足りないぜ!」
「あとは女達にかけられた魅了か。それもあの兄ちゃんがなんとかするらしいぜ」
「本当かよ!一体何者なんだ!?」


 目の前でティラノドラゴンが瞬殺!

 歓喜の渦に包まれる村人たち!


「さすがは真正勇者様ですじゃ!ありがたや、ありがたや……」
「やはり本物は違いますね!」


 村長とミヤビも感心かつ大喜びだ。




 そもそも、このティラノドラゴンを含む復活竜というのは何なのか。

 ミヤビの説明によると、元は500年前にリットールに災を招き人々を滅ぼしかけたと伝承される、【死病を司る邪竜アパーカレス】の眷属と伝えられている。

 しかし今回の復活竜の襲来はどこか謎な部分があった。

 ミヤビの村に三頭の復活竜達が現れたのは丁度一年前。

 この三頭は連邦とリットールのデータには確認されておらず、何の予兆もなく突然現れた。

 三頭の復活竜が現れてから、近隣の二つの村と自然豊かな森が瘴気に飲み込まれるのに、二週間と掛からなかった。

 その後、村長と村の重鎮達は、リットールとアドレア連邦に討伐を依頼するも体よく無視。

 ついにミヤビが姉レイミアの助力を得て、討伐に乗り出したが三頭の復活竜のうち一頭を討ち損ねた挙句、ミヤビ自身も呪傷を受ける重傷を負ってしまった。

 その討ち損ねた一頭こそが、復活竜の中でも最強種と呼ばれるティラノドラゴンであった。

 農産物が思うように収穫できず、経済的にも苦しい状況の中で、村はなけなしの金を出して冒険者ギルドへ討伐依頼を出した。

 しかし出された討伐依頼は即座に塩漬け案件となってしまう。

 やがて内戦が近いこともあり、連邦は各地に召喚者達を威力訪問させることにした。

 その過程で、ミヤビの村は召喚勇者アキヒロ達に目を付けられてしまったのだ。

 だがアキヒロ達は討伐に失敗し、代わってユリウスがティラノドラゴン討伐を果たした。

 そして今に至る訳だが……


 なんらかのケジメを付けさせるつもりだった|召喚勇者達《アキヒロ達》の姿はもう無い。

 不本意だが、これで一件落着……

 かと思えばそうではない。まだ例の後処理が残っている。




「アキヒロ様~!!!」
「何処へ行かれたのですか!」
「私たちも連れて行って下さいまし!」
「私達を見捨てないで!」
「この身体の疼き……アキヒロ様がいないと駄目なのぉぉぉおおお!」


 歓喜に湧く村の男達や年寄りたちとは逆に、若い娘達は絶望の表情を浮かべ狼狽えている。


「近づかないでよ!私の身体はアキヒロ様のものよ!」
「やめてよ!触らないで!汚らわしい!」
「あんたなんて大嫌い!近寄らないで!」
「嗚呼愛しのアキヒロ様~~!!それに比べてあんたはゴミ!」
「ぺっ!こっちくんな!」


 娘達は、アキヒロがいなくなり不安な気持ちを想い人にきつく当たり散らす。


「な、なぜだ!」
「あいつらがいなくなって魅了は解けたんじゃないのか!?」
「頼む!正気に戻ってく(ベキッ!)うごっ!?」
「落ち着け、あの兄ちゃんが魅了を解いてくれるから!」


 想い人達はアキヒロが居なくなったというのに、いまだにボロクソに女達からボロクソに嫌われ相当困惑しているようだ。


 そう。

 アキヒロは魅了を解かずに去って行ったのだ。


「|アキヒロ達《あいつら》、面倒かけやがって!」


 そして、魅了被害はここからが修羅場。

 今回は、召喚勇者の魅了下における女性の心理状態について、予め魅了前の女性本人や、想い人そして家族に説明がされていた。

 それがせめてもの救いになればいいのだが……


「じゃあ、魅了解除アイテムを使って|勇者の魅了《チャームアイ》を解いていきます。皆さん、彼女達の心のケアを宜しくお願いします! 縮地!」

 俺は口早に説明し、質問が来る前に縮地を使い行動に移す!


 ― シュバッ!

 スパーン! スパーン! スパーン! スパーン! スパーン!
 スパーン! スパーン! スパーン! スパーン! スパーン!
 スパーン! スパーン! スパーン! スパーン! スパーン!


 ハリセンを手にし、力を込めて魅了された女達をシバきまわす!



「おい、ちょっと待て!」
「本当にそれで嫁の魅了が解けるのか!?」


 突然の凶行に驚く男達!

 当然だろう、どう見てもただの暴力行為にしか見えない。

 しかし、シバいた直後に魅了は解除!

 そして始まる阿鼻叫喚の地獄絵図……


「え、嘘、なんで!?」
「いやあああああああああああ!!!」
「私、なんて汚らわしいことを!!!」
「違うの!あれは私じゃない!私はあんなことしない!しないの、うわぁぁぁ!!!」
「あなた、ごめんなさい……私、いっぱい汚れてしまいました……」
「もう、死のう……死ぬしかない……」
「うぷっ……おえっ……げえええええ!!!」
「さっきのは違うの!私の身と心はあなただけのものなのぉおおおおお!!!」


 絶叫する者、後悔する者、否定する者、懺悔する者、死に急ぐ者、吐気が止まらない者、言訳する者……

 それを必死で支える想い人や家族達……


「お父様ぁぁぁ!」「おじいちゃん!」

「うぉおおおおん!済まない……本当に済まなかった!!」


 村長も、娘と孫娘を抱きしめ号泣していた。





 村は一時パニック状態に陥ったが、それでも一時間程で全員冷静さを取り戻していった。


「発狂した者は無しか……魅了されてから時間があまり経っていなかったのと、女達は魅了前に説明を受けていたのが功を奏したな」


 後は任せて大丈夫だろう。早くこの村から出ないと。

 ヘタにお礼の宴でもされて足止めされるワケにもいかないからな。



「ユリウスさん、もう行かれるのですか?」


 俺が号泣する村長から討伐完了のサインをもらっていると、ミヤビが話しかけて来た。


「ああ、ここから先は村の皆さんに任せるよ」

「たしかギルドに戻ってから政都の大使館を目指すのでしたね」


 ミヤビは確認するかのように問う。


「もしかしたら国へ戻れるかもしれないからね」

「なら政都まで私も|御供《おとも》しましょう。失礼ながらユリウスさんだけでは政都には入れないでしょうから」

「本当かい?それは助かる!でも傷は大丈夫なの?」

「ユリウスさんがティラノドラゴンを倒してくれましたので呪傷の効果が消えたんです。おかげで薬草だけで回復しましたよ!もう何も問題無しです。ほらっ!」


 ― どろん


 そう言ってミヤビはラミア形態になり、ニコニコしながら傷の有った箇所を見せてくれた。

 なるほど、キレイに傷が治っている。


「えへへ、今なら私でもティラノドラゴンを倒せますよ!」


 エヘン!と胸をはるミヤビだが、上半身裸のラミア形態は本当に目のやり場に困る。


「わかった。よろしく頼むよ」

「こちらこそ!(ここまではバンバラ様の預言夢通り。ここから行く末を見極めないと……)」


 ミヤビはニッコリと返事をしたあと、何やら考え込んだように見えた。


「村長、お世話になりました。ミヤビさんを少しお借りします」


 俺は村長にもう一度挨拶をし、村人たちに気付かれないよう村を出た。

 後はもう一つの仕事か……



 *



 ― てくてくてくてく……


「あの、ユリウスさん。馬に乗らず歩いて行くのには何かワケが?」

「まあね」


 ミヤビの言う通り、俺はネロには乗らずに、わざとゆっくり歩く。


「やはり彼奴等は来ますか?」

「多分ね。あのアキヒロとかいう召喚勇者、かなり陰険陰湿執拗なヤツみたいだったからな」





 そして、村が見えなくなるくらい歩いたところで――


「よう、さっきはよくも恥をかかしてくれたな!」


 予想どおり俺達の前に、召喚勇者アキヒロ達が現れた。




コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する