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【追放した側のファンタジー・英雄ケンツの復活譚】089第三十六話 01 関連エピソード その二

【召喚勇者vs復活竜ティラノドラゴン】

Side召喚勇者アキヒロ


 翌日の朝(召喚勇者によるティラノドラゴン討伐の日)――


「うー、いててててて、夕べは飲んでヤり過ぎたな。二日酔いで頭がガンガンするぜ……」

「おいアキヒロ、今日はもう止めとこうぜ。明日でいいじゃん。うぇー……」

「そうもいかん。あの村長、ラミアの巫女の立ち合いの元に書面契約したからな。連邦に提訴されたら面倒だ。腹くくって行こうぜ」

「「うへぇー」」


 召喚勇者|金崎昭博《カネサキアキヒロ》は、仲間の魔法剣士|岡敏夫《オカトシオ》、魔法戦士|渡辺一茂《ワタナベカズシゲ》を起こし、身支度を整え外に出た。


「むお!太陽が黄色くて眩しい!」
「叫ぶな、頭に響く……」
「zzzzz……zzzz……」


 午前中まで惰眠を貪る生活サイクルの彼らにとって、朝7時頃から起きて活動することはなかなかの苦行である。


「おはようございます、勇者様方。さあ、出発の用意は出来ておりますぞ!」


 |ガイドの男が三人《昨日の血の涙の三人》、それにラミアの薬草を脚に施された馬が六頭用意されている。


「よーし、じゃあちょっくら行ってくるか!」
「おう女共、股を濡らして待っておけよ!」
「とっとと終わらせようぜ。ひたすら眠いわ」


 三人のガイドに案内されて出撃していく勇者達。


「きゃあああああああ、アキヒロさまぁぁああああ!」
「ご武運をーーーーー!」
「戻ってきたらすぐに私に寵愛を!」
「いえ、私を先に!」
「何言ってるの!私が先よ!」


 アキヒロに抱かれる順番で、目を吊り上げて揉め始める若い娘達。


「はっはっはっはっ!心配するなみんな纏めて相手してやるぜ!」

「「「「「きゃあああああああああああああああ♡」」」」」

 どうやらこの村の若い娘達は、全てアキヒロの魅了下にあるようだ。




 その様子を見て肩を震わせ血の涙を流す村の男達……


「あの野郎、絶対に許さねぇ……」
「これで討伐に失敗してみやがれ、そんときゃぶっ殺してやる!」


 兎にも角にも、村の娘達の黄色い声援と、男達の怨嗟の視線と嗚咽に見送られ、召喚勇者達はティラノドラゴン討伐に向かった。


「勇者様、間もなくティラノドラゴンの縄張りです。事前に説明している通り大地は腐り泥沼と化しています。また瘴気も濃いので絶対にマスクを外さないで下さい!」


 召喚勇者達一行は、ラミアの薬草を織り込んだマスクを装備して対応していた。これを付けていないと瘴気のひと吸いで肺が一気に爛れてしまう。


「ああ、わかったわかった。余計な忠告はいいからさっさと案内しろ!あとあまりデカい声で喋るな。頭に響く……」


 全く俺を誰だと思っているんだ。このティラム世界の頂点、勇者様だぞ!
 おまえらは黙って言われた事だけをしてりゃいいんだよ!
 クソがっ!


 そんなふうに勇者アキヒロがブツブツぼやいていると……


 ― ガオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!


 ものすごい呪音圧の禍々しい復活竜の雄たけびが!?


「勇者様、あそこを!」

「あん?」


 ついに復活竜ティラノドラゴンが姿を現した!

 全長約13メートル。

 ドラゴンゾンビにも似た瘴気を纏う、古代の肉食竜だ。


「え、なんか凄い迫力なんだが?」

「そりゃ復活した古代竜とはいえドラゴンですからね」

「あ、そう……よし馬から降りるぞ!」


 勇者の指示で召喚者達とガイド達は下馬した。


 ― ぬちゃ


「なんだこりゃ、足元が泥沼しゃねーか!」

「そうですよ、言ったじゃないですか」

「聞いてねーよ、そう言う事は事前に言えよ、ぼけっ!」

「…………」

「全くつかえねーガイドだな。テメー、村に戻ったら覚悟しとけよ」


 勇者達はそれぞれ得物を手にしてティラノドラゴンに近づいていく。


 ― ジュボッ ジュボッ ジュボッ ジュボッ


「がああああ、歩きにくいな!」

「おいアキヒロ、こんなんでやれるのか?」

「臭いし汚いし、今日はもう帰ろうぜ。そんで女侍らしてリフレッシュしようや」

「うん?それもそーだな。こんな沼地を四歩も歩かされたんだ。確かに十分だよな、よし帰ろう」


 四歩進んだところで踵を返そうとする勇者達。


「ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

「もうティラノドラゴンは目の前じゃないですか!やっつけて下さいよ!」

「俺達、自分の女まで差し出したのに、それはないでしょう!」


 アキヒロ達に大切な彼女を寝取られた三人の男達は、必死になって帰ろうとするアキヒロ達を止めた。


「うるせー!そんなに戦いたきゃテメーらが戦えよ!」

「なんでも人に頼るんじゃねー!そんなだからテメーらは駄目なんだよ!」

「まずは自分でなんとかしてみろ!おら、行ってこい!」


 ― バキッ!ベキッ!ボカッ!


「ぎゃん!」
「げはっ!」
「ぐぼっ!」

「「「あーばよ、クズども!」」」


 アキヒロは三人のガイドを殴り倒し、馬に騎乗してさっさと逃げ出してしまった。

「信じられねー、あの勇者!」
「何が人に頼るなだ!こっちだって好きで頼ったんじゃねーや!」
「バカ野郎、自分達でなんとかしてよぅ、それでも駄目だったんだよぅ……だから……畜生!」


 ― ガオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!


 そうこうしている内に、ティラノドラゴンが間近に迫って来た!


「も、もう駄目だ!」
「ちくしょう、無駄死にかよぅ!」
「こんな結末あんまりだ!」


 ― ガオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 ― ドチャ! ドチャ! ドチャ! ドチャ!


「「「え?」」」


 しかしティラノドラゴンはガイドの男三人をスルーして、一直線にアキヒロ達を追って行った!


「「「助かったのか?」」」


 どうもティラノドラゴンは動くものに対して過敏に反応したようだ。




「おいアキヒロ、あの腐れドラゴンが追って来るぜ!?」
「ちぃ、あのガイドども。時間稼ぎにもならんか!」
「仕方ない、もうすぐ泥沼から抜ける。そしたらやるぞ!」


 召喚勇者アキヒロは、どうにか地が固い場所まで戻ると下馬した。


 ― ガオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!


「へ、バカな腐れドラゴンだぜ。大人しくしてりゃ見逃したのによう」
「アキヒロ、面倒くさいから一発で頼むぜ」
「任せておけ!」


 ― パリっ……ジジジジジ……


 勇者アキヒロの身体が雷(いかずち)を帯び始め――


「食らえ、勇者必殺の剣技、|ジゴブレイク《勇者の雷斬》!」


 ― ガラガラガラ、ドッシャアアアアアアアアアン!!!!


 召喚勇者アキヒロの超破壊剣技!

 アキヒロの放ったジゴブレイクは、後ろの腐った森林ごとティラノドラゴンの胴体を真二つに断ち割った!



 ― アンギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 ― ズチャンッ……


 腐った森林は完全消滅し、ティラノドラゴンも絶叫をあげたのち地に転がった。


「へっ、他愛もない。さあ帰るべ」


 胴体真二つにされたティラノドラゴンを見て、アキヒロ達は勝利を確信する!

 しかし、それで勝てる程ティラノドラゴンは楽な相手ではなかったのだ!


「おいまて、アイツ再生してやがるぜ!?」


 ― ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…… ウニウニウニ……


 砂煙が立ち昇り、幾分視界が悪くなる中で、二つに分かれた胴体から様々な管が伸び、別れた胴体をくっつけようとしている。

 そして、あれよあれよと元通りに復活してしまった。


「え、マジかよ!?」
「なにやってんだ、アキヒロ!」
「次は俺達がやるぜ!」


 魔法付与された大剣を構える魔法剣士トシオ!

 同じく魔法付与された戦斧を構える魔法戦士カズシゲ!


「食らえ!魔法剣、|ウインドセイバー《裂刃の風斬》!!!」
「爆ぜろ!魔法戦斧、覇道撃滅破!!!」

 ― バシュッ!シュガアアアアアアアアアアアアア!!!
 ― ドガッ!ドゴゴゴオオオオオオオオオオオオン!!!


 トシオの放った|ウインドセイバー《裂刃の風斬》がティラムドラゴンの腹を裂き、
 カズシゲの放った覇道撃滅破が裂かれた腹奥で暴力的に破壊する!


 ― ギャアアアアアアアアアアアアアアアアス!!!!


 濛々と砂煙が立ち登る中から、ティラムドラゴンの断末魔の様な絶叫!


「「やったか!?」」

「おい、そのセリフは!」


 アキヒロがフラグなセリフに反応するももう遅い!


 ― ブォウ!ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!


「「「な、なんだぁあああああああああああああ!!!???」」」


 突如砂煙の中から瘴気混じりのファイヤーブレスがアキヒロ達を襲った!


「ぎゃあああああああああああああああああ!!!」
「ほげえええええええええええええええええ!!!」
「うびゃああああああああああああああああ!!!」


 召喚者トシオとカズシゲの身に付けている防具は、それぞれ国宝級の逸品であり、並のドラゴンブレスやファイヤーブレスなら一撃や二撃くらいまでなら完璧に防げる。

 しかし瘴気が混じる炎となると話は別で、もろに食らった二人の防具は瞬間に腐り焼けてしまった!

 一方アキヒロの防具は全て聖なる防具であり、ティラムドラゴンの瘴気混じりのファイヤーブレスを完璧に防いだ!

 ただし、マスクを除いて。


「ぎゃあああああああああああ、む、胸が苦しいい!!!!!」


 マスクは薬草を織り込んだ布製のマスクだ。ファイヤーブレスに耐えられるワケも無く焼失!

 マスクを失い焼けた瘴気をマトモに吸い込んでしまい、肺を爛れさせ苦しむアキヒロ!

 トシオとカズシゲも肺と全身を爛れさせ――


「ぐあああああああああああ熱い!」
「苦じいいいいい!!!」


 ――絶叫しながら転がりまくる!


「ち、ちくしょう、脱出するぞ!|ライディーン《勇者の雷》」


 ― バリバリバリ、ゴッシャアアアアアアアアアアアアン!!!


 ― ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!?


 ティラムドラゴンの目の前に|ライディーン《勇者の雷》を落し、牽制・目くらまし!

 アキヒロは無様にも馬に抱きつくようにして、手持ちのポーションで凌ぎながら戦場を離脱したのだった。



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【召喚勇者達の帰還と代償】




 
「熱いいいい!いでええよぉおおおお!」
「身体が腐る!助けてくれぇぇええええ!」
「い、息が……誰か傷の手当を!がはっ!」


 召喚勇者|金崎昭博《カネサキアキヒロ》とその仲間達は、どうにか生きて村に戻ってこれた。


「こ、これは勇者様、いったいどうなされたのです!?」


 予想していたよりも早く戻って来た召喚勇者達。

 村長は驚いたが、そのボロボロのサマを見てもう一度驚いた!


「ちょ、ちょっと油断しただけだ!それより医者はまだか!グバァッ!」


 腐った血と粘液を吐き散らしながら、アキヒロは村長に怒鳴りつける!


「い、いま村の回復士とミヤビ様を呼びに行かせてます。それより……それよりティラノドラゴンはどうなりました?無事討伐できたのですか?」

「グフッ……お、おう。ちゃんとやっつけて来たぜ。この村はもう安全だ!」


 なんと勇者は嘘をついた。

 ティラノドラゴンは討伐されていない。今も健在だ!



「そ、そうですか……これで村も救われる……犠牲を払っただけのことはあった……」


 村長は、未だ勇者に魅了され、勇者達を心配そうに取り囲んでいる娘達と、相変わらず涙を流す男達を見て、自責と憐みの念を抱いた。

 そして、取り囲んでいる娘達の中に混じっている【愛する孫娘】の姿を見て、村長もまた嗚咽を漏らすのだった。




 *




 Side ユリウス


 俺がミヤビと畑の前で話をしていると、村の男が血相を変えてやってきた。


「ミヤビ様、勇者達が戻って来ました。恐れ入りますがおいで頂けますか!」

「え、こんなに早く?それでティラノドラゴンは?」

「はい、無事討伐されました!」

「そうですか……」


 ミヤビは俺の顔をチラリとみると、複雑な顔で微笑した。

 ミヤビには俺のティラノドラゴン討伐の事情も話していて、召喚勇者達が失敗した時は俺の出番であることに期待をしていた。

 しかし村の娘達の尊い犠牲を考えると、やはり俺なんかに出番が回って来るより召喚勇者達がキッチリと倒した方が良いわけで、その複雑な心境が表情に出てしまったのだろう。

 俺もこの一件は、召喚勇者達が仕事をした方がいいと思う。

 でないと、我が身を差し出した娘達や、その想い人の男達が浮かばれない。


「ま、これで良かったんだよ」

「そうですね。私もそう思います」


 召喚勇者達はティラノドラゴンを討伐はしたものの、瘴気と火傷で重症を負ったらしい。

 先に村の医者と回復士(ヒーラー)が治療にあたっているが、身体に染み込んだ瘴気をなんとかしないと治療が困難なのだそうだ。



「召喚勇者どもめ、完全に油断していたようだな」


 俺は、ヒロキ、|ハヤト《オスカー》、|炎皇斗《カオス》、|禅《ゼン》と言った同じ召喚勇者達の戦いぶりを思い出しながら、ティラノドラゴン如きに傷を負わされた召喚勇者達に対し、何かモヤモヤとした不満を募らせた。

 彼らは事前に村長よりティラノドラゴンの討伐方法を聞いていたはずだ。

 苦戦する要素などどこにも無いはず。


「ジゴブレイクで首を斬り落とせばいいだけの事だろうに……なにやってんだ、あいつら」


 俺は少々呆れながら、ミヤビとともに召喚者達が寝かされている集会所へ向かった



「おお、ミヤビ様!待っておりましたぞ」


 集会所つくなり、血相を変えた村長が直接案内してくれた。

 なにしろ召喚者達に万が一の事があれば、必ず連邦捜査官が乗り込んで来る。

 その後、連邦から何をされるかわかったものではない。

 故に村長を始め、村の重鎮達は必死なのだ。

 そして奴ら召喚勇者達の状態は思った以上に酷かった。


「うぐぅいいいいいいいいいいい……ぐぼぁ!」
「はひっ、はひっ、はひっ、はひっ……」
「ビクン……ビクビクン……」


 勇者アキヒロは肺をやられ、腐った血と粘液をまき散らしている。

 魔法剣士トシオは自発呼吸が難しく、心肺停止寸前だ。

 魔法戦士カズシゲは激しい痙攣に襲われて、意識はすでにない。


 おいおい、召喚勇者ともあろうものが、死にかけているじゃないか!?

 もしかして、俺の見識が間違っていたのか?

 実はティラノドラゴンとは勇者以上にメチャメチャ強いのか?


「それでは早速始めます。|シャフン《創造》、浄化の霧!」


 ミヤビは万能薬として使えるラミアの薬草をまた一握りした。

 そして|シャフン《創造》を行使!

 召喚者達が霧に包まれ、瘴気にやられ爛れた皮膚や肺が浄化されていく。

 そしてある程度回復させたところで手を止めた。


「じゃあ後は回復士(ヒーラー)さんにお任せしますね」


 ミヤビは、後を村の女性回復士に引継ぎ外に出て行った。

 追うように俺も外に出る。



「ミヤビ様、勇者達は無事なのですか?」


 想い人を奪われた男達がワラワラと集まりミヤビに訊ねてきた。


「はい、今は回復士さんに交代してもらいました。ヒールの重ね掛けで完全回復することでしょう」

「そうですか……」
「いっそ、そのまま死ねば良かったのに」
「バカ、死なれでもしたら連邦捜査官が乗り込んで来るぞ!」
「ちくしょう、回復したら、また俺達の女はやられちまうのかよぅ……」
「相手が召喚勇者じゃ仕方ない……」


 おいおい、ティラノドラゴンを討伐しても終わりじゃないのか!

 とんでもなく悲惨だな。


「なあ、やっぱり召喚勇者と契約しなかった方が良かったんじゃないか?見ていてかなりキツイんだけど……」

「私も反対したのです。そんな契約、狂気の沙汰じゃないって……でもね、召喚勇者に目を付けられたこの村は、どのみち村の女性達を差し出すしかなかったんです。勇者法があるから……」


 そうだった。勇者法があったんだ。しかし、それでも……


「むぅ……」


 悲しみに明け暮れる男達の姿を見ると、想い人を奪われた時の自分と被るんだよな……


「ユリウスさん、妙な事は考えないで。これは私達の問題です。正直助けて欲しい気持ちはあるけれど、これは私達の選択なの……」


 選択?

 選択肢が実質一つだけじゃないか!こんなもの選択とは言わない!

 最近はヒロキ達と一緒だったり、王国の勇召喚者達が多少大人しくなったこともあって、奴らをどこか緩く見ていた。

 やはり召喚勇者はクズばっかりだ!

 まるで一昔前の、そう……まだエウロパが異世界人召喚事業のトップだった頃の|スラヴ王国《うち》並に酷いぜ。


 しかし、ティラムドラゴンは討伐されてしまった。

 彼らは代価を払わねばならない……



 ― ガラリ!


「おい!酒と女を持ってこい!今すぐだ!」

「はぁああああああああん、勇者さまぁ♡」


「ちっ、回復したとたんこれかよ、色欲勇者め……」


 なんと治療を終えた召喚勇者アキヒロが、集会所の窓を開け酒と女を要求してきやがった。

 しかも治療してもらった女性回復士(ヒーラー)を魅了していやがる!


「おいミヤビ、おまえも来い!自主的に来る分には問題はねーだろ!」


 アキヒロとか言う勇者、あろうことかミヤビを指名してきやがった!


「ミヤビ様は巫女にして現人神扱いですじゃ!連邦からも手を出さないよう聞かされておられるでしょう!」


 村長は涙を流しながら訴えた。


「ちっ!」


 ― ピシャッ!


 アキヒロは忌々しそうな顔で村長とミヤビを睨んだ後、乱暴に窓を閉めた。


「あの魅了された回復士さん、村長の娘なんです……」

「なんだって!?」


 ミヤビが悲しそうに言った。

 じゃあ、あの村長は娘と孫を召喚勇者に奪われたのか!?


「他にも姉妹で魅了されてしまった娘達や、若い母親とその娘も……進んで犠牲になった女性以外にも、気に入った女性を見つければ手あたり次第です。例外は私くらいなんです」


 ― ブチン!


「もはや黙っているわけにはいかない!」


 俺は集会所の中に乗り込もうとしたが――


 ― ガシッ!


「駄目!もしこの村で勇者殺しが起きたら、間違いなく連邦から兵が送られて来ます!この村が滅んでしまう!呪傷を負った今の私では村を守り切れない!」


 必死の眼でミヤビが俺の腕を掴んで止める!


「っ――――!」


 くそ、どうしようもないのか!


 やがて集会所内に村の娘達が入り浸り、酒池肉林の淫猥な宴が始まった。

 そして集会場の外には娘達の想い人や親族が集まり、皆一様に怒りと悲しみと絶望の涙を流す……


「ユリウスさん、もう行って下さい。ここから先は私達が……」

「いいや、この状況はもう君達では解決不可能だ。悪いがこれより俺も介入させて貰う!村長も宜しいですね!」

「ま、待ってくだされ!そんなことになったら必ず連邦から討伐の兵が来る!この村が滅んでしまう!」


 村長も必死で止めに入る!


「ぐっ……だったらその兵とやらも、俺が屠ってやるだけだ!」


 制止させようとする二人を振り切ろうとしたとき――



「おーい、ガイドの三人が帰ってきたぞー!」


 声のする方を見ると、村人に抱えられたガイド三人の姿があった。





 *





 ◆その頃のアリサ


「うへへへへへ、外国人娘は性奴隷だぁぁぁぁぁぁぁ!」


「また!?なんなのこの国は!えーい、アリサパーンチ!」


 ― バッコオオオオオン!


「ぐっへえええええええええええ!!!!!???」


 ― ドチャ……


 最初はとある村で、道を尋ねただけだった。

 しかしアリサのスラヴ訛りに気付き、男はいきなり豹変したのだ!


「これからは話し方のアクセントも気を付けないと……本当に面倒な国だわ!」


 男をシバキ倒したアリサは、逃げるように村を出た。


「ファイス、ごめんね。また飛ばしてもらうわ」

「ヒヒーン!」


 ― パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ、


 ユーシスの捜索と我が身を守るための逃亡のような旅……

 アリサの受難は相変わらず続いているようだ。


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