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【追放した側のファンタジー・英雄ケンツの復活譚】第十六話01関連エピソード


「040 第十六話 ラミアの祠と亜人レイミア 01」
上記の視点の違う裏エピソードです。




【ラミアの祠と絶望の現実!? 02 sideアリサ】406

 
 ◆転移装置のあるダンジョン 



 Side アリサ


「おいアリサ、わかるのか?」


 ダンジョン奥の石板に触れて転移装置を起動させる私。

 その私をケンツさんが後ろから覗き込む。


「大丈夫、ラミア遺跡のことは、連邦に来る前に異世界の友人達から教えて貰ったから。多分応用が効くはず……ほら!」


 |コントロールパネル《石板テーブル》を操作してポンと叩くと――


 ― キュルルルルルルルルルルルル……


 私達はリアース世界の言語で構成された積層型立体魔法陣に包まれ転送された。


 ― キュルルルルルルルルルルルル……


「ふえー、いきなり転送させられたから驚いたぜ。ふむ?」


 ケンツさんがキョロキョロと周囲を確認する。

 その横で、私は一点、目の前の大きな祠に目が釘付けになった!


「ついに、ついに来たわ!」


 屋根のある石造りの大きな祠……これがリットールのラミアの祠!

 私は早速ユーシスの痕跡がないか調べてようと祠に駆け寄りかけた。

 その時――


 ― ピキューン♪ピキューン♪


「あ、魔導通信機が鳴ってる!もしかして朱里達が先にユーシスと会えたのかも!?」


 二つ折りの通信機を開け、期待感にドキドキしながら画面に表示された文字を読む。


『コチラアカリ マハパワー ニハ ユーシス ノ コンセキ ミトメズ。 コレヨリ リットール ヘ ムカウ。』


 ― ざわっ……


 背筋が煤けざわついた。

 マハパワーにもユーシスはいなかった。

 もうユーシスが転移してきたとすれば、この目の前にある祠以外有り得ない。

 そして、もしユーシスが転移してきた痕跡が無ければ、それはユーシスが次元の狭間に落ちて死んだ事を意味する。

 次元の狭間を彷徨い続けるユーシスとは、二度と会う事は叶わない……

 真冬だというのに、タラリと全身に嫌な汗が流れた。

 いけない、落ち着かなきゃ。


 すぅぅぅぅぅぅ……はぁぁぁぁぁぁ……


「よし……」


 ひとまず大きく深呼吸。

 それから目の前にあるラミアの祠へ一歩一歩ゆっくり慎重に進んでいく。


「ここに必ずユーシスの血痕が残されているハズ……」


 しかし祠の中に入り私の目に写ったものは、奇麗な床と壁、それに石板だった。

 ユーシスの痕跡、すなわち出血の痕などどこにも無い……


「そ、そんな……嘘よ、こんなこと……あるわけ……」


 そんなバカな!絶対にどこかにユーシスの痕跡があるはずよ!

 私は血眼になって祠の中を徹底的に調べた!


「無い!どこにも無い!」


 もしかして祠の外!?祠の正面!?左右!?後ろ!?

「無い!なんで無いのよ!?」


 もしや屋根に!?

「無いわ!全然無い!」


 祠の周囲の茂み!?

「無い……なんで無いのよ……こんなの、こんなのって……」


 自分の目で確かめたものを全力で否定する!

 しかし否定しても現実はかわらない。


「わああああああああああああああああああああああ!!!!」


 絶叫が島に湖に響き渡る!

 状況がユーシスの存在を否定して、もう認めろと圧をかけてくる!


「嘘よ、こんな結末……私は……認め……」


 ― ふらっ……


 一瞬意識が飛びそうになり、私は地に両の手をついた。

 石造りの床にポタポタと涙が溜まって行く。



「おい、どうした!?」


 私の声に驚いて、ケンツさんが血相を変えて来てくれた。


「ユーシスの痕跡が……どこにも無いの……」

「他の祠に転送された可能性とかあるんじゃねーか?」


 私は力なく首を振る。


「一緒に探してくれている仲間達から通信が入ったの。他には何処にもいなかったって……ここが最後だったの……だからここに来ていないということは……ユーシスは次元の狭間を彷徨っているの……もう助けられないの……もうユーシスは生きていないの……」


 項垂れ呟くようにケンツさんに説明した。

 ケンツさんは、なんとも言えない顔つきで言葉を絞り出す、


「そ、そうか。なんと言って慰めていいかわからねーが……あれだ、希望を閉ざしちゃいけねーよ。ここに着いたばかりだし、もっと島の中とかも探してみようぜ、な?」

「うん……」


 それから私はケンツさんと一緒に島中ユーシスの痕跡を求めて探し回った。

 しかし探せば探すほど、私の心は絶望が大きく膨らむだけだった。

 もうダメだわ、ユーシスはこの世にはもう……

 島の浜辺で私は立ち止まる。


「ケンツさん、ありがとう……少し休ませて……」

「ああ、わかった。少し離れた所にいるからな」


 ケンツさんは私に気遣って外してくれた。

 ケンツさんが去る足音が聞こえなくなる頃に、私はその場に崩れ落ちた。


「いやああああああああ!!!ユーシスー!ユーシスー!!!こんなの嘘よ!こんな結末認めない!返事してよユーシス!どこかに隠れて見ているんでしょ!出てきて!お願いよぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!」


 ― シーン……


 絶叫の後には静寂が広がるのみ。

 ユーシスは現れず返事も無い。


 それでも私は認めたくない!認めたくない!認めたくない!認めたく……ない……

 振り向けばそこにユーシスがいるのではと思うも、そこには島の草木が広がるのみ。

 ただ、身近にユーシスを感じるような錯覚がして……

 それがユーシスの魂の残滓のような気もして……

 ユーシスの存在が希薄になっていくような気がして……


「認めない、認めないんだから……でも……ユーシスがこの世にいないなら……私もユーシスと同じ|場所《ところ》へ……」


 目の前には澄んだ真冬の湖。

 ――あそこに行けば、あそこに身を沈めれば、ユーシスに会える……――

 そんな気がして足を引きずるように何歩が進んだとき――


『アリサ、しっかりしろ!気を確かに持て!入水しちゃダメだ!』


 ユーシスに引き留められた気がして、私は動きを止めた。


「じゃあ……私はどうしたらいいのよ……ユーシスのいない世界なんて耐えられないよ……わああああああああ!!!!!!!」


 私はまた泣き崩れてしまった。




 

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