「043 第十七話 想い人の情報と召喚勇者の影」
上記の
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「まあまあ、いずれ想い人君と会えるのは間違いないし。捜索は明日からでも大丈夫だろう。慌てなくても大丈夫さ」
「でもケンツさん、ユーシスも外国人です。私、リットールに来るまで色々差別にあったり、時には強姦されそうになったりもしました。この国はきっと私達外国人が長く居続けるのは困難だと思います。だから早くユーシスを見つけて保護しないと……今日はもう諦めますが……」
いやアリサ、そんなに慌てるな。
どうせ武闘大会の日には遭えるんだしさ(多分)。
つーか、強姦されそうになった?相手何者だよ!?
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部分に関する裏話です。(全四話中三話途中までを紹介)
【洗礼 -接触- sideアリサ】370
― パカラッ パカラッ パカラッ パカラッ
愛馬ファイスに跨り、街道を北に駆ける。
駆けながら、ラミア神殿を出る前に聞かされたレクチャーを思い返していた。
・アドレア連邦の民族は、王国と比べるとかなり閉鎖的なので、人との接触には細心の注意をすること。
・トラブル・面倒事には関与しないこと。
・優しい顔は絶対にしないこと。少々ツンツンするくらいで丁度いい。
・すぐには正体や性別がわからないように、フードを普段使いすること。
・剣は|ディメンション《報酬の》|アーマー《鎧具》と一緒にしまい、普段は他人の目に付かせないこと。
・アドレア連邦には【真正勇者】【召喚勇者】の他に、【アドレア連邦認定勇者】が存在している。理不尽な勇者特権が与えられているので絶対に近づかない事。
・とにかくアドレア連邦は、内戦直前なので何事にも注意!
などなど……
「うーん、なんだか面倒な国みたいねぇ……」
アドレア連邦は、スラヴ王国や東スラヴ帝国と比べるとかなり窮屈な国のようだ。
村と村、加盟国と加盟国、そして連邦と外国……
とにかく閉鎖的かつ排他的で差別意識が激しく、余所者を全く受け入れようとはしない。
外国人などは身分の高い者でない限り、完全に無視されるか、逆に食いものにされるそうだ。
― パカラッ パカラッ パカラッ パカラッ
どれぐらい走っただろうか。
街道は大きなモミの木と小川のある草原に差し掛かった。
「ファイス、ここで休もうか。おまえも食事と休息を摂らなきゃね」
「ヒヒーン!」
― パカラッ パカラッ パカポコ パカポコ ……
ファイスが足を止め、私は下馬した。
「ヒン!ヒン!」
ファイスは小川で十分水を飲んだ後、生えている草をモリモリ食べ始めた。
私も夕食の準備をしないと。
今は夕方四時、真冬の1月の日は短く、すぐに日が暮れてしまう。
私もファイスも昨夜テヘラの【ラミアの祠】を出てからずっと走りっ放しだ。
ヒールを駆けながら飛ばして来たとはいえ、このペースではファイスが壊れてしまう。
どうしても十分な休息は必要となる。
モミの木の傍に荷物を下ろし、感心しながら上を見上げる。
「こんな南方でもモミの木が生えるんだ。今夜はここで野営ね」
幸い小川には魚がいるみたいで、私は手釣りで十匹ほど|鱒《マス》を釣り上げた。
すぐにハラワタを抜いて木の枝を刺す。
そして火を熾し塩焼きにしたところでトップリと日が暮れた。
「美味しい、美味しい」
冬の鱒はよく脂がのっていてとても美味しい。
「ふぅ、残りは明日の朝と昼用に保存と……ん?」
(っ――――――)
今、風に乗って微かに人の悲鳴が聞こえたような?
休んでいたファイスも頭を|擡げ《もたげ》耳をピクピクさせている。
私は慌てて火に土をかけた。
そして休ませていたファイスを|時間停止空間《馬房》に戻す。
「|フライ《飛翔》」
状況を確認するために空に舞いあがった。
「北の方だと思うんだけど……」
目を凝らして街道北方面を探してみると――
「 ! 」
― (キンッ、ガキンッ)
剣と剣がぶつかり合う音!
やがて眼下に二台の幌馬車とそれを襲う野盗が目に入った!
「ぎゃあああああ!」
「ぐがあああああ!」
「ぎええええええ!」
次々と倒されていく幌馬車の男達。
野盗達は中々の手練れのようだ。
― ビリビリ!
「いやああああああ!」
「誰か助けてえええ!」
絹を引き裂くような女性の悲鳴!
野党に襲われ服をはぎ取られかけている!
「いけないっ!」
私はラミア神殿で受けたレクチャーのことなど完全に忘れ、野党達の中に乱入した!
「あなた達、やめなさい!」
「あああん?」
「なんだぁ?」
野盗達は突然の乱入に驚きはしたが、私の姿を確認するや歪な笑みを浮かべた。
「おいおい、他にも女がいたのかよ!」
「しかもえらい上玉じゃねーか!」
「へへへ、こいつはラッキーだぜ」
「今夜は朝までネットリと楽しめそうだ」
「思わぬ儲けものだな、この女、高く売れるぜ」
「げひひひひひひひひ」
野盗の数は6人、そのうち4人がジワジワとにじり寄る!
「一応忠告するわ、痛い目に遭いたくないのなら今すぐ立ち去りなさい!」
無駄なことなのは分っているけど一応警告はしたわ。無視するなら覚悟なさい!
「は?なんだと?」
野盗のリーダーらしき男がキョトンとした顔をして仲間達と顔を見合わせたあと――
― わーっはっはっはっ!!!!!!
腹を抱えて大笑いしはじめた。
「ひーっひっひっ……お嬢ちゃん、中々面白いジョークじゃねーか。どう痛い目に遭うか、是非教えてくれよ」
「|お頭《おかしら》、痛い目じゃなくて、気持ちいい目の間違いじゃないですかねぇ?」
「ちげーねぇ。おまえら、そのお嬢ちゃんをさっさと剥いてさしあげろ。そうすりゃ立場ってもんがわかるだろ」
「あざーっす!ふひひひ、バカな娘だぜ。しゃしゃり出て来ず隠れてりゃいいのによ」
「まあ、俺達には有難い事だけどな」
男達は舐るような目で私を値踏みする。
あー、これはいかにもって感じの野盗だわ。
野盗が吐きそうなゲスなセリフね。
私は【蛇の目】の一件以来、盗賊の類には容赦するつもりはない。
情けをかけて生かして返せば、後々ずっとつけ狙われる。
それを体験的に知っている。
『外道の命は刈り取って然るべき!』
――と、言いたいところだけど、外国人である私が、野盗とは言え人を殺めてしまうのはマズイ。
ユーシスを探す旅は始まったばかりなんだ。
こんなことで足が付いて、アドレア連邦当局に指名手配でもされたら堪ったものじゃない。
殺したりせずに、地味に倒して行こう……
「さっきの威勢はどうしたい、お嬢ちゃん」
「その腰にぶら下げているロングナイフを抜いてかかってこいよ、おらどうした!」
今の私は目立たない旅人の服にロングサバイバルナイフといった様相。
相手が舐めてかかるのも当然だ。
「あなた達如きに刃物を使う必要なんてないわ。血のりが付いたナイフの手入れも面倒なのよ。素手で十分だわ」
私はナイフを抜かず、王国騎士団式格闘術の構えをとった。
「なんでナイフを抜かないの!?」
「ねえ、ナイフを抜いてよ!私達を助けて!」
何も獲物を持たず立ち向かおうとする私を見て、捕らわれている女二人の表情が絶望色に染まった。
「へ、この勘違い女め、すぐにいい声で泣かせて……ひゃぶっ!?」
― メキュッ
迂闊にも間合に入って来た男を掌底打ちで顎を砕く!
「っ――――……」
― ドチャッ……
男は苦しむ間もなく脳震盪を伴い崩れ落ちた。
「なっ!?」
「このアマ!」
「てめぇー!」
今度は三人の男達が一斉にかかってきた!
捕らわれている女達が人質として利用される前に片付けないと……
流れるような動きで迫りくる男どもに次々と腕を絡ませていき――――
― ゴキンッ!ゴキンッ!グシャッ!
片っ端から肩関節を外していく!
「ぎゃあああああああ!!!」
「ぐげえええええええ!!!」
「いぎいいいいいいい!!!」
関節を外され激痛に、のたうち回る三人の野盗達!
「あと二人!」
続いてしゃがんで女達を捕まえている男二人!
「こ、こいつ只者じゃねえ!」
「くそっ!」
リーダー格の男が腰の|半月刀《シャムール》を抜こうとしたが――
「遅い!」
― メキョッ
一足飛びに私の膝が、リーダー格の男の顔面に深々とめり込む!
「ぶげらっ!?」
― ドチャ……
「っ――――!?」
瞬く間に仲間が沈んだことに驚き固まる最後の男!
― スパーンッ!
彼には側頭部回し蹴り!
「げびゃっ!!」
― ゲシャッ……
最後の男は何もできぬまま、横倒しに崩れ意識を手放した。
― パリッ、ゴゴゴゴゴ……
ここで私は全身に雷(いかずち)を纏い、ロングサバイバルナイフを抜いて――
「もう一度だけチャンスを与えるわ。今すぐ立ち去るのなら見逃す。そうでないのなら……殺す!」
そう威嚇した!
「ひいいいいい!!!」
「ててててめえ、おおおお覚えてやがれ!」
野盗達は慌てて乗って来た馬に乗り、物凄い勢いで北へ逃げ去った。
「ふう、さて次は……」
「「あの!ありがとうござ……」」
「待って、今は一刻を争う状況なの!」
お礼を言おうとする彼女達を遮り、私は幌馬車の周りで斬り殺された男達の元へ。
【洗礼 –欺瞞- sideアリサ】371
「待って、今は一刻を争う状況なの!」
お礼を言おうとする女達を遮り、私は斬り殺された幌馬車の男達の元へ。
そして遺体の様子を調べる。
「みんな死んじゃった……」
「そんなぁ、私達これからどうしたら……」
絶望する彼女達だが私は全く逆の見解だ。
どうやらどの遺体も殺されて5分程も経っていないようだ。
「これなら間に合うかも……|セイクリッドヒール《完全回復》!」
― フワァ……
金色の粒子が殺された男達を優しく包んで癒していく。
「うっ……」
「むぅ……」
「なんだ……?」
次々と目を覚まし、上半身を起こす男達。
「うそ!?」
「た、たしかに死んでいたよね!?」
目を丸くして驚く彼女達。
「あー、えーと……みんなギリギリ生きていたみたい。死んでたらヒール(回復)をかけても復活しないわ」
「そうなの?でも首が半分千切れかけていたように見えたんだけど……」
「私には完全に千切れていたように見えたし……」
「それはアレよ!暗がりだから、よくわからなかったんだと思う。それより二人は大丈夫なの?」
「あ、うん」
「おかげで服のボタンが飛んだだけで済んだみたい」
「そう、良かった」
「本当にありがとう。私はタチュリィ」
「私はビーテリヤよ。この恩、一生忘れないわ!」
他の三人の男達、ビトレイ、テュリィター、トリーズンも起き上がり、それぞれお礼の言葉を口にした。
それからここは目立ちすぎて危険だからと、私が今夜の|塒《ねぐら》にしているモミの木の下へ皆揃って移動することに。
タチュリィとビーテリヤはお礼にと、夕食のシチューを用意し始めた。
タチュリィが器を小川で洗い、ビーテリヤがシチューを調理する。
食事はすでに済ませてはいたけれど、食べた量は決して多いわけでもなく、それに真冬の夜はかなり冷えもするので有難く頂戴することにした。
「え!アリサは外国人なの!?」
お互い改めて自己紹介しているうちに、どうしても素性を明かせずにはいられない流れになり、私はつい話してしまった。
一瞬、その場に|天使が通り《間が空いて》沈黙したが……
「ごめんごめん、こんな所で外国の女の子が一人旅しているなんて、夢にも思わなかったんだ」
「そうそう。だってさ、こんな夜の|人気《ひとけ》のない街道で、外国籍のこんな超絶美少女が野盗を追い払い、その上死にかけていた俺達を助けるなんて、確率的にあり得ないじゃん」
「月の隕石が脳天直撃するよりあり得ないよねー」
「でもさ、これからは気を付けた方がいいよ?自分達が言うのもなんだけど、アドレア連邦って閉鎖的な大国だからさ、外国人と分かれば無茶苦茶してくる輩もいるし……」
「自分の国を悪く言いたくはないけど、ほんとイヤになるほど閉鎖的だからねぇ」
― ハァ…………
焚火を囲んで五人とも大きな溜息を付いた。
「でも皆さんは良い人そうじゃないですか。閉鎖的だなんて微塵も感じませんよ」
すると五人はお互い顔を見合わせた後、大きく笑い始めた。
「いやいやアリサさん、俺以外はこいつらも連邦民らしいクズだから」
そう言ってビトレイは仲間をビシッと指さした。
「あんた何言ってんの!アリサ、騙されないでこいつら正真正銘のクズだから気を許しちゃ駄目よ!」
今度はタチュリィが訴える!
「そうやって人の事をクズ扱いするやつこそが真正のクズというもの……アリサさん、こいつらを信じちゃいけないよ!クズほど自分をいい人アピールするものだからね」
今度はテュリィター注意勧告!
その後も、おまえがー、あんたらがー、と笑いながらのけなし合いが続く。
中々楽しい人達のようだ。助けてよかった。
こんな人達ばかりなら、アドレア連邦も思っていたよりずっと過ごしやすい国なのかも。
だいたいヨシュアさんとカーシャさんのレクチャーは、少し大げさな気がしていたんだ。
もしかしたら、慎重を期すために大袈裟に言ってくれたのかもしれない
― グツグツグツグツ……
「みんな、シチューが出来あがったみたいよ」
「「「「「おお、待ってました!」」」」」
タチュリィが皆の前でシチューを器に盛って渡していく。
「はい、どーぞ!」
「「「「「 いただきまーす! 」」」」」
― ぱくっ!
「「「「「 ………… 」」」」」
皆、一口すると揃って黙り込んだ。
なに、この味……
不味くは無いけど、微妙に苦い。ていうかやっぱり不味い。
はっ!まさか毒入り!?
あれ?でも私だけかと思ったけど、他の人達も微妙な顔をしている。
その中でテュリィターが重そうに口を開いた。
「おい、ビーテリヤ……」
「んん、なにー?」
「おまえ、またシチューに銀杏(ぎんなん)を入れただろ……」
「うん、入れたよ。銀杏大好きだもん!」
銀杏!?
そういえば銀杏が丁寧にスライスされて入れてある!
苦さの理由はこれだったのか!
でもなんでシチューにスライス銀杏……ただでさえアドレア連邦の銀杏って苦さ十倍なのに。
アドレア連邦はシチューにスライスした銀杏を入れるのは普通なのかしら?
いや、スラヴ王国でもシチューに銀杏入れる時もあるけれど、スライスしちゃ駄目でしょう!
こんなのシチュー全体に苦みが浸透する!
「うへぇ、せっかくのシチューが台無しじゃねーかよ」
「俺、銀杏嫌いなんだよな。しかもなんで刻んであるの!?」
「勘弁してくれ、お客さんも食べるのになんでスライス銀杏……」
「アリサ、無理して食べなくてもいいわ。今から何か作るから」
あ、やっぱり普通じゃなかったんだ。
そりゃそーよね、酷く不快な味だもん。
「みんな酷い!」
クソミソに言われ、ビーテリヤは涙目になっている。
「わ、私は大丈夫だから。銀杏大好きだし。美味しい!美味しい!」
せ、誠意はありがたく受け取らないとね……
そう思い、頑張ってシチューを完食した。
うん、苦い!不味い!不快!
「ほんとゴメンね、こんなハズじゃなかったのに」
タチュリィが物凄く申し訳なさそうに謝ってくれた。
その後、談笑してからビーテリア達は二つの天幕に別れて就寝。
皆が天幕に誘ってくれたが断った。
「みんな危機意識が甘いわ。さっき野盗に狙われたばかりだというのに……」
ビーテリア達は天幕に入り、誰も見張りに付かない。
これでは野盗が息を潜めて襲ってきても気が付かないじゃない。
私はフードに身を包み、目立たない小さな焚火の傍で、半分寝ながら見張りについた。
元々野宿するつもりだった私は別に何も困らない。
はずだった。
午前2時頃……
「はぁ、はぁ、身体が火照る……なにかおかしい……」
私は、身体の火照りと異常な発汗で悶え始めた。
【洗礼 –本性- sideアリサ】372
午前2時頃……
「はぁ、はぁ、身体が火照る……なにかおかしい……」
私は異常な身体の火照りと発汗で目が覚めた。
「なんだろう、風邪かな……喉も凄く乾くし……水を……」
立ち上がり水筒を取りに行こうとするも……
― ぐにゃあ~、どてん
視界が歪み尻もちを付いてしまった。
「うぁ……た、立てない……喉がひりつく……熱い……これ、ちょっとヤバいかも……」
はぁ、はぁ、本当に熱い……水……
なんだか身体も敏感になって……衣擦れがゾワゾワとする。
悪寒とは違う何か妙な……私の身体、どうなっているの?
必死で這って水筒を手にしようとするが――
― ひょい
「え?」
「外で妙な音がしたと思ったら……いったいどうしたんだ?」
そう言ってビトレイが水筒を手にして立っていた。
「なにか……少し体調がおかしくて……あの、水筒をこちらに……」
しかしビトレイは私の願いを無視して――
「なに?……わ、すごい熱じゃないか!みんな来てくれ!」
「なんだぁ?」
「どうしたぁ?」
続いて幌馬車からテュリィター、トリーズンも出て来た。
「アリサさんの様子が変なんだ」
「どれ……おい、すごい熱じゃないか!」
「汗もこんなに!?大変だ、早く服を脱がさないと風邪をひくぞ!」
「え?いや、ちょっと……!」
三人の男達は真顔で私の服を脱がせ始めた!?
「な!?|ひゃめてくらさい《やめてください!》……|へ《え》!?」
呂律(ろれつ)が回らない!?
なんで?どうして?
それに力が全く出ない!
そう言えばこの人達、こんな時間に起きて来たのに全く眠そうな素振りがない!
まさか……まさかこの人達が何かしたの!?
「ふふふ……さあさあ大人しくして」
「へへへ……早く服を脱がないと」
「ひひひ……風邪をひいたら大変だよ」
「いひゃぁぁぁ!やめへぇ!ゆるひへぇ! |ビーへリア《ビーテリア》! |タヒュリィ《タチュリィ》!」
苦しい中、私は必死で二人に助けを求め叫んだ!