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【追放した側のファンタジー・英雄ケンツの復活譚】第十六話02~03関連エピソード


「040 第十六話 ラミアの祠と亜人レイミア 01」
「041 第十六話 ラミアの祠と亜人レイミア 02」
上記の裏エピソードです。


【大逆転、ユーシスの生存確定! 01】407.

 
 Sideアリサ


 ユーシスとは物心がつく前からの仲良しだ。

 兄妹のように育ち、何かあれば必ず私を助けてくれる素敵なユー兄ちゃん。

 私達の両親が殺された後、孤児院に送られそうになった私を必死で守ってくれたユー兄ちゃん。

 そして思春期に入り、自然とユー兄ちゃんからユーシスへと呼び方が変わり……

 ユーシスを意識して、でも意識していないように必死で隠していて……

 祝福が下りて、なし崩し的に告白した私を受け入れて……

 直後に召喚勇者に魅了され、酷い態度を取った私を救いに来てくれて……

 結ばれて、旅に出て、召喚勇者達に何度も魅了されて、だけど二人で乗り越えて……

 何度も何度も危機を乗り越えて……

 だから……

 だから……

 だから、今度もきっと乗り越えられる!

 そう信じていたのに……


「ユーシスはもういない……」


 受け入れがたい厳しい現実に心が壊される。

 湖を前にして蹲り、私はただただ呆けていた。


 そんな時――

 湖面が盛り上がり、上半身裸の美女が現れた。




「ぷはぁっ! あら、お客さん?」


 突然現れた彼女は私達を見て軽く微笑むと、湖面からこっちに向かって来た。

 長い青黒髪の彼女は、巨大双丘をユサユサさせながらどんどん岸へ近づいて来る。

 彼女が陸に上がった時、隣にいたケンツさんが声を大にして驚いた。


「お、おまえは!?」


 上陸してきた彼女の上半身は超絶爆乳美人、しかし下半身は大蛇!


「くっ、レッサーラミアか!」


 ケンツさんは抜剣して戦闘態勢を取る!

 しかし――


「誰がレッサーラミアよ!」


 なんとレッサーラミアが否定した!


「レッサーラミアでないのなら、あんたいったい何者なんだ?」

「私は亜人ラミア族のレイミア。下等な|魔物《ペット》の|レッサーラミア《ガーディアン》とは違うわ」


 ラミア族?確かレッサーラミアの上位種とか近縁種とか言われている亜人。

 昔、小沙漠のラミア神殿で、王国文化庁のアナスタシアさんから聞いてぼんやりと覚えているわ。


「で、あなた達は何者?見たところカップル冒険者みたいだけど」


 呆けている私を気にしながら、ケンツさんがこのラミアの相手をしてくれた。


「ああ、俺達は冒険者だ。ダンジョンを通ってここまで来たんだ」

「ダンジョンから?よく石板を操作できたわね?」

「まあな、こいつがラミア遺跡の扱い方を知っていたんだ」

「ふーん?でもその子、なんだか危なそうなんだけど」

「…………」

「実はさっき、こいつの想い人が次元の狭間に彷徨ってしまった事がわかってな。もう二度と会えなくて塞ぎ込んでいるんだ。そっとしといてくれ」

「あらまあ、それは気の毒ね。良かったら元気づけに一緒に食事しない?美味しそうな|寒鱒《かんます》を獲って来たの」


 レイミアの両手には大きな寒鱒が四本も握られている。

 ケンツさんは私をチラリと見てからレイミアに返答した。


「ありがとう、それじゃせっかくだしご馳走になるぜ」

「ふふふ、じゃあ付いてきて」


 レイミアは湖で寒鱒のわたぬきを済ました後、島の中心へと向かっていった。


「ほらアリサ、しっかりしろって」

「………」

「まだ想い人を諦めるには早いだろ。後でもう一度島を探ってみようぜ、な?」

「うん……」


 項垂れる私の手を掴み、ケンツさんはレイミアの後をついて行った。


「あれ、ここは……」


 レイミアが向かったのは、さっきのラミアの祠だった。

 レイミアは早速火を熾して寒鱒を串に刺し塩焼きにした。


「そう言えばあなた達の名前は?」

「俺はケンツ、こいつはアリサって言うんだ」

「ケンツにアリサね。ん、アリサ?どこかで聞いたような……まあいいわ。でもよく来れたわね?ダンジョンにはレッサーラミアがうようよしていたでしょう?」

「まあな、生意気にも俺様を魅了しようとしてきたけど、俺様にチンケな魅了なんざ通用しなかったぜ!」

「もしかしてレッサーラミア達を殺した?」

「いいや、みんな俺様に恐れをなして逃げちまったぜ」

「よかった。あの子達、この祠を守るガーディアンなの。へー、そんな強いようには見えないけど凄いんだ。レッサーラミアの魅了が通用しないなんてね」

「ま、まあな!」


 ケンツさんとレイミアの他愛のない会話が続き、私はぼんやりと聞き流していた。


「それにしても……ついこの間にもお客さんが来たばかりだというのに、こんなすぐに新しいお客さんが来るなんてね」


 うん?今何か重要な事をレイミアが言ったような……


「で、レイミアはここで何をやっているんだ?見たところ、この島には他に家みたいな人工物は無いし……?」

「ふふふ、私はこのラミアの祠の守護者なの。まあ管理人みたいなものなんだけどね」


 ― ピクッ


 祠の守護者?管理人?
 

「管理人さんか。最近何か変わった事はあったかい?」

「そうねぇ……男が一人、この祠に転送されてきたくらいかな?」


 ― ピクッ ピクッ


 え?男の人がここに転送? ダンジョンからの転送じゃないよね?

 それってまさか……
 

「なんだって?そいつはどんな男だった?」

「うんとね、なんか転送事故にあったようでね、片腕を無くして凄い出血をして死にかけていたのよ」


「ひゅっ……」


 変な息が……

 いや待って、片腕を無くして凄い出血をして死にかけの男がここに!?

 その男の人、もしかして……いや、もしかしなくても!?

 胸が高鳴り出し期待と不安混じりにレイミアの次の言葉を待つ!


「それでその男はどうなった?」

「それがね、血を失って死ぬ直前くらいまで身体が冷えちゃってさ、仕方がないから私が素肌を合わせて抱きしめて温めてあげたの。
 そしたらその男、意識が朦朧としていたせいか私の事を想い人と勘違いしてさ、『アリサぁぁぁぁぁん』って何度も胸に顔を埋めてブリュブリュと甘えるの。ほんと可愛いたらありゃしない♪
 ………あれ、そういえばソチラの彼女さんの名ってたしか……?」


 私の名を!

 私の名を何度も!

 あああああああ!もう間違いない!ユーシスだわ!

 ユーシスはここに来たんだ!次元の狭間には落ちてなかったんだ!


「私がそのアリサです!ねえユーシスは?ユーシスは生きているの!?」


 ― ガバッ!


 私はレイミアに、いやレイミアさんに襲い掛かるように迫った!

 突然豹変した私の襲撃に、レイミアさんの顔が驚きに引き攣る!


「わ、もしかしてあなたがユーシス君の想い人のアリサさん!?こりゃマズイ!
 寝ぼけてオッパイブリュブリュの件は、絶対に秘密にしてくれって頼まれていたのに!」

「オッパイブリュブリュなんてどうでもいい!ユーシスは!?ユーシスはどこおおおおおおおお!!!!」

「ひいいいいいいい!」

「オッパイブリュブリュって……想い人君よ、あんた一体なにやってんだ……」


 ケンツさんは呆れた顔をするが、私はそれどころじゃない!

 だって、寝ぼけてオッパイブリュブリュして甘えるくらいには元気ってことよね!?

 ユーシスはやっぱり生きていたのね!

 ねえ、早く、早く答えてよ!

 ユーシスは生きているんでしょ?

 近くにいるの?

 ユーシスに合わせて!


 私はレイミアさんの両肩を握り、ガックンガックンと揺らして迫った!







【408.大逆転、ユーシスの生存確定! 02】




 *



 Side アリサ


 ユーシスはやはりこの島に転送されていた。

 ユーシスの痕跡が見つからなかったのは、管理人であるレイミアさんが奇麗に掃除したからだそうだ。


「で、レイミアさんよ。アリサの想い人は無事なのかい?」


 私をレイミアさんから引きはがしながら、ケンツさんはレイミアさんに訊いた。


「ゴホッゴホッ、なんて馬鹿力なの!? ええ無事よ。私の身体を張った献身的な介護のおかげで、二日ほどで完全に意識を取り戻したわ」


 無事!

 ユーシスは無事!

 私が最も聞きたかった言葉がついにレイミアさんの口から聞けた!


「ユーシスやっぱり生きていたんだ……、良かった……本当に……ううぅ……」


 完全に涙腺が崩壊して、大量の涙が祠の床に溜まって行く。

 ケンツさんがコチラを見て嬉しそうに親指を立ててくれた。

 ありがとう、ケンツさん!

 ここまで来れたのはケンツさんのおかげだわ。

 本当に感謝してもしきれない。もちろんユーシスの命を救ってくれたレイミアさんも!



「それで?ユーシスってやつは?ここにいるのかい?」

「もういないわ。三週間近く前だったかなぁ、何をするにもお金が必要だから、まずは冒険者ギルドに行くって。それで私に伝言頼んでラミアの森の外に出たの」

「三週間近く前……私が連邦に転移してきた頃だわ……」


 なんてこと……

 最初の捜索地点をリットールにしておけば、ユーシスとは簡単に再開できたのに。


「ユーシス君はアリサさん達が転送されてくるかもしれないからと、最後の満月の晩まで待っていたの。けど誰も来なかったから自分から動く事にしたみたい。お金を手にしたら【政都の大使館】に行くとか言ってたかな。あと私の|託《ことづけ》で【ミヤビの村】に寄ったと思う」

「【ミヤビの村】って【現人神ミヤビ】のいる村だな。ワリと近所だぜ」

「ちなみにミヤビは私の妹なの」

「マジか!祠の守護者・管理人とか言うから只者ではないとは思っていたが、まさか現人神の姉とは……」

「じゃあその【ミヤビの村】か【政都の大使館】に行けばユーシスに会えるの!?】」


 私は期待に胸を膨らます!

 しかし、膨らんだ期待がアッサリと縮んだ。


「いやアリサ、リットール政都の大使館は内戦が迫っているせいで全て閉鎖されたよ。各国の大使館員は全て自国に向かったはずだ」

「そんな!」


「それで、さっき言ったユーシス君の伝言なんだけど、冒険者ギルドの武闘大会開催中まではリットール付近に留まるそうよ。でも武闘大会終了後は自力で母国を目指すって」

「冒険者ギルドの武闘大会?」

「なんでそんなモノに……」

「ケンツさん、リットールの武闘大会ってどんな感じなんです?」

「ああ、それはな……」



 冒険者ギルド主催の武闘大会。

 どこの国のどんな街の冒険者ギルドでも大なり小なり開催しているイベントだ。

 私はダバスの冒険者ギルドで一度経験している。

 このリットールの冒険者ギルドでは、部門別トーナメント方式で行われるスタンダードなものだそうだ。




「ごめん、私が勧めたの。もしユーシス君の仲間が訊ねてきたら、人が集まる武闘大会にも探しに来るかもしれないからって……まずかったかな?」


 少し申し訳そうなレイミアさん。


「いや、ナイスアシストだよ。武闘大会に想い人が来るのなら、アリサはそれを待っていりゃいいんだから」

「それは……そうだけど……」


 ああ、もどかしい!今すぐ会いに行きたいのにぃ!

 大使館は閉まっているし、街には召喚勇者達がうろついているし!

 ここにきてオアズケ食らうなんて!


「まあ、慌てなさんな。想い人君の生存はこれで確実になったんだ。まずは冒険者ギルドで訊いてみようぜ」

「うん……」


 私は逸る気持ちをケンツさんに宥められ、まずはレイミアさんが調理してくれた寒鱒を頂いた。


「美味しい……」

「でしょう?ユーシス君も美味しいって言ってくれたのよ」

「そうなんですか?あの、ユーシスを助けて頂いて本当にありがとうございます!」


 まだレイミアさんにお礼を言っていない事に気付き、私は深々と頭を下げた。


「それで、ブリュブリュの件なんですが……」

「うぐっ!」
「あ、やっぱり気になるんだ」


 ケンツさんとレイミアさんは、揃って苦笑いした。

 だって気になるじゃん!

 まさかとは思うけど、レイミアさんのお腹に新しい命とか宿って無いよね?

 その後、私とケンツさんはレイミアさんに案内されて、ダンジョンを抜けて島の外に出た。


「アリサさん、ユーシス君と再会できることを心から願っているわ」

「こちらこそ、ユーシスの命を助けて頂きありがとうございました!」

「色々と世話になったな。今度お礼に……は無理か。(ダンジョンで)レッサーラミアの餌食にされちまうな」

「その気持ちだけでいいわ。じゃあね、二人とも」


 レイミアは、蛇の胴体を|翻して《ひるがえして》戻っていった。



 ユーシスはリットールの冒険者ギルドに向かった。

 なら必ずケイトさんかベラ、二人の受付嬢のどちらか、あるいは二人と接触しているはず!


「よし、急いで戻るぞ!ケイトにギルド預金を下ろした外国人がいなかったか、もう一度聞いてみるんだ!」

「うん! |ストール《馬房》!」


 突如空間がパックリと開き、中から愛馬ファイスが現れた。


「さあケンツさん乗って!飛ばすわよ!」

「お、おう!」


 ― パカラッ! パカラッ! パカラッ! パカラッ!


 私達はファイスに跨り、一路リットールの冒険者ギルドを目指したのだった。

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