或る楽器の行方を追っていました。
曽祖父が戦前に手に入れた舶来品で、輸入本数も限定的だったと聞きました。
曽祖父はとうの昔にこの世を去り、祖母をはじめとする関係者の言によると、その楽器は戦争や空襲といった混乱の中で失くしたと言います。
中学生の頃でしょうか、親戚縁者が集まった場でその話題が出たのですが、誰もその銘を覚えていませんでした。
きっとモノ自体はもうないのでしょう。
でも興味を覚えたわたしは、「夏休みの調べ学習に使えそう」という邪な思惑で、詳しく話を聞きました。足跡、人となり、その思い出。戦争と出征、そしてシベリア抑留を生き抜いたこと……。楽器の話はそれ以上の情報はありませんでしたが、戦前から戦後にかけての一家族史が語られました。
それから約十年が経ち、わたしの親戚に戦中を生きた人はほぼいません。
その時、こうした話を聞くことができて本当に良かったと思っています。
それからも楽器の件はずっと頭の片隅にあって、大学入学後に調査を始めてみました。でも、実体の不明瞭なものをたどるのはかなり大変です。わたしが話を聞いた時点で、紛失はおそらく七十年ほど前のこと。今ではもう八十年近く前になっています。
断片的な親族の記憶でのみ語られたお話の中から、彼が青年期を過ごした街に限定して調査を開始。まずは戦前の様々な文献をあたりました。同時に、ある人物を探します。困難を極めましたが辿り着くことは出来ました。残念ながらお亡くなりになられていましたが、そこからたどって浮上する銘が二つほど。曽祖父のある年の行動が分かればよいのですが、日記の類も失われています。なので、これ以上は憶測にしかならず、一旦、中断しています。
端折って書きましたが、いずれ手記という形ででも残せたらと思っています。
さて、第Ⅱ章が終わりました。本作のキーコンセプトの一つであるリュートが「実体を伴って」登場です。そして久しぶりに前作の登場人物を描きました。本作のメインストリームの約170年後という設定です。なので今回の花は生花ではなく人工物でした。
第3章はまた本来の時間軸に戻ります。
書きながら聴き、奏でた本章ノオトは、なぜか古い映画音楽『ロミオとジュリエット』でした。
わたしは弦楽器が好きです。執筆の際に横に置いているのは、パーラーサイズのギター。十九世紀っぽいスタイルがかわいいです。わたしよりもずっと年上の中古品。高いものでは無いけれど、愛着はあります。
それだけに、楽器を失くした曽祖父の思いを想像すると辛いものがあります。空襲で焼失したのでしょうが、時代の混乱の中で、何かしらの形で人の手に渡っていて、この世界のどこかに存在してくれていればと思うこともあります。19/02/2023
https://kakuyomu.jp/works/16817330648700768283/episodes/16817330653233956905※作中で多く言及した「ロゼッタ」。わたしの筆力では伝わってない可能性が大なので、リュートのロゼッタを載っけます。流行りに乗って自分をAIアニメ化した絵な上に、トリミングして一部しか見えていませんが、これも一応「著作者近影」というやつでしょうか……え、違う?