溢れ出す白い光に花はほころび、遠くの空に薄霞。
いつの間にか、春。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
年度末の慌ただしさに、なんとなく気分も高揚せず、生命に溢れる季節の中にあって、ひとり冬に取り残されているようで、少しだけアンニュイなわたし。
気分転換に見た目をちょっと変えてみるけれど、なんか違う。
例えばインセンスが、その香りを漂わせながら灰になっていく。
そんな静謐の時間をじっと見守り続けるような、そんな余裕がないんでしょうね。
学生の頃は年度の変わり目はわくわくしたけれど、今はあんまり好きじゃない。
さて、いつもと全く雰囲気の異なるものを描いてみました。
まさか戦場を描くなんて思っていませんでした。争いごとは嫌いです。加えて本章は、主人公を男性に据えた時に、いつか来ると思っていた「女性が登場しない」話。こんなの描けるのかななんて考えながら、中世武勲詩的な世界を目指してみた次第です。
前作では間接的に主人公が関わるバックストリームとして、十二世紀の市民の日記に描かれた“Le meurture de Charles le Bon(1127年)”に準えた事件を設定しました。今作は主人公が直接的に関わる事件として古英語詩“the Battle of Maldon(991年)”に着想を得たこの戦いを用意してみました。どちらも一般的にはマイナーな歴史的出来事なのかもしれませんが、研究史の蓄積はあり助かります。もちろんかなり都合よく改案しています。
開戦シーンは、ノルマン=コンクェスト(1066年)において、吟遊詩人が『ロランの歌』を詠唱して先陣を切ったという故事からの着想。挿入したのは、元ネタに敬意を表し“the Battle of Maldon”の一文。四カ月前の「ノート(14)」で書いていた、「古英語の訳に挑戦中」はこれでした。近代英語訳も四編ほど参考にしながら訳してみたものを、恥ずかしながら載っけてみました。わずか二行分ですが、わたしには大冒険。わたしごときがこの古英詩の訳に挑戦するなんて、大それたことですから。
描きながら聴き奏でた今章ノオトは『スカボロー・フェア/詠唱 Scarborough Fair / Canticle』。古いバラッド詩をもとにした、言わずと知れたSimon & Garfunkelの曲ですね。
もうすぐ訪れる新年度。
桜の開花も始まりつつあります。
ニュースが届けるようないわゆる「賑やかなお花見」は苦手ですが、奥山に自生する桜の木をひとり静かに見つめるくらいの時間は欲しいかな。
誰にとっても慌ただしい時期と思いますが、みなさまご自愛ください。21/03/2023
https://kakuyomu.jp/works/16817330648700768283/episodes/16817330654049329739