まだまだ暑い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。
道路わきに顔を出しはじめた曼珠沙華に、季節の移ろいを感じます。何処かでもつぶやきましたが、「あつけらかん(漱石)」とした曼珠沙華が、陽光の下あるいは漆黒の中でぼんやりと妖しく世界を染めあげるこの季節は好きです。
九番目の章を終えました。これは附章という位置付けなのでいつもの「ティーンの頃の原案メモ」はありませんし、いつもとは異なる人物をメインに据えました。そしていつくかの「世界設定」に加えて噂話や伝聞情報を主体として、五章以降の本筋と平行で進めてきた、とある地域の政治的混乱シリーズが閉幕です。
今回の課題は「実況」風をどう書くか。素材にはチェスを選びました。
幼いころのわたしを、空想好きな性格に作り上げたのは間違いなく『不思議の国のアリス』。今回、形は違えど『鏡の国』のモチーフであったチェスを素材にできて、楽しいひとときでした(その出来はともかくとして)。
チェスを描くにあたっては、『ディフェンス』(ナボコフ)、『僧正殺人事件』(ヴァン・ダイン)、『猫を抱いて象と泳ぐ』(小川洋子)などを再読したり、ここカクヨムさんでもチェスを描いている方の作品を覗いてみたりしました。色々な描き方があり、学ぶことも多かったです。
作品の雰囲気や性格等も合わせて考え、わたしは「棋譜─駒の動き─普通の会話」のユニットを積み重ねるスタイルで臨んでみました。ただ、擬似12世紀末ということで、近代チェス用語や、描写に便利な将棋用語を封印しましたので、難しかったです。
作中、一方のプレイヤーは定跡で言う「ツー・ナイト」と迷いつつ「ジオッコ・ピアノ」の戦型を選びますが、自信を持てず……。中途半端で弱気な指し手や、現代っぽくない指し手、クィーンを動かせないまま短手数で勝敗の付く棋譜を考えて考えて……最終的にGioachino Greco(十七世紀)の著述に似たものを見つけたので、それを借りることにしました。
ちなみに、下写真がチェックメイトの局面。この駒、可愛いでしょ?
描きながら聴いた九章ノオトはコクトーツインズCocteau Twinsの“アリスAlice”。いつものように、リアルタイムを知りません。
幼い頃、田舎の祖父母宅に帰省すると、菜園でよく野うさぎを見かけました。「うさぎさん!かわいい!」と口では言いつつ、ウサギを追いかけるその心の内にあったのは「不思議なことが起きないかな」という期待。
わたしはそんな夢見がちな子でした。
そして時は流れたはずなのに。
静かな夜にひとり、物語を描いていると、かつて夢見た不思議の国を求めて、未だにうさぎを追いかけ続けているかのような感覚に陥ります。
……大人になりきれていないのかな。 26/09/2022