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るねさん's ノォト(10)  memoire

 朝顔、風鈴、かき氷……視覚や聴覚などで求める涼も、エアコンにはかなわない。
 詩的な情緒なんて言ってられないほど厳しい暑さが続きますが、いかがお過ごしでしょうか。

 この夏は、とある小冊子の原稿締め切りに追われていました。
 わたしは研究者でもなんでもない一般人ですが、ご推薦をいただきヨーロッパ中世史で一文を書く機会を得ました。店舗に並ぶ類のものではありませんが、雀の涙とはいえ原稿料も発生しているので、非常に気を使いました。
 お仕事と並行しながらの作業だったので、もう一度機会があっても、もう無理というのが偽らざる感想です。

 というわけで、一銭も発生しないこちら趣味の作文は、気晴らしに書いているとはいえ、冗長さだけが取り柄の、非常に残念な八番目の章となってしまいました。
 本章は「過去と現在をいかに織り交ぜるか」、また「どのような一文を持って、時間軸を切り替えるのか」を考えて書いてみましたが、難しかったです。

 わたしのこのお伽噺の原点は、ティーンの頃に空想したメモ書きです。これまでの章でも、実際のところ、そのメモの3割程度しか使える設定・叙述がなかったのですが、本章はまったく使えませんでした。訪れた国と船に乗る程度しか原形は残っていません。
 
 その本章のもととなったメモ書きは、十七歳のわたしが書いた最後のメモ書き。
 あの頃のわたしは、模擬試験でも国英社は他が引くぐらい、えぐい点数をとっていましたが、数学は平均あるかないかでした。問われていることの意味を見いだせず、自分の理解力の無さが悔しくて、涙を浮かべながら数字と格闘していました。書いては消し、別の方法を考えては行き詰まり……数学の提出プリントや問題集は、零れた涙でいつもシワシワでした。
 
 十七歳の夏。受験勉強に本腰を入れることを迫られ、空想で遊ぶ時間はもう終わりと決めて、このメモを書いた記憶があります。でも、ここまで改変されて原形のない本章を、当時のわたしが見たらどんな顔をするのだろう。
 ちなみに、舞香峰るね(17)が考えた本章ラストシーンは船出でした。これがもう、既視感しかありません……『指輪物語』、大好きでした。
 
 書きながら聴いた八章ノオトは、The Chick Corea Elektric Bandの“エターナル・チャイルド Eternal Child”。チック・コリアを初めて知った時、もう既に亡くなられていました。

 結局、数学IIIなんて使うことはなかったけれど、静まり返った部屋で涙を浮かべながら数字に苦しんだ日々は、今になって愛おしく思います。
 もう一度やれと言われても、今のわたしには絶対に出来ないから。

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