• 現代ファンタジー

リマリア夢日記2「死者の追跡」

そこは夢なのか現実なのか。
先程から『夢の中で目覚める』という行動を5回は繰り返している。
視界に映るのは自分の部屋。起き上がったつもりなのに起きられない。
気付けば夢の世界へ引き戻される。


ここはどこだ。
私はもう永遠に目覚めないのだろうか。それならそれで良い。
未練も、後悔も何もない。

そんなことを思いながら目の前の景色に目を向ける。
目の前に見えたのは夕暮れ時の日の光が差し込む学校の教室のような場所。乱雑に散らかる机と椅子がある。
どこか懐かしいような気がする。自分の人生では見たことのない景色だが、どこか記憶の中にあるような気がするのだ。

周囲を見渡すと教室の中だというのに壁の途中が廊下へと繋がっている。
その奥にはどこへ繋がるのかよくわからない窓付きの扉があった。
扉の窓の向こうを見つめる。

影。それは何かの黒い影。
人?いや、私の直感は『そうであり、そうではない』と告げていた。

死者だ。
あれは紛うこと無き死者の影だ。

現状認識もままならないというのに、私の直感はそうだと決めつける。
やがて扉が開き、黒い影が宙に浮かんだまま真っすぐにこちらに迫ってくる。その数は3つ…いや4つ。

魔女の三角帽子をかぶったような黒い影が向かってくる様子を見た時に思ったことはただひとつ。


殺される。
逃げなければ影に殺される。


そう思い至る前に自然に足が動いていた。
机の隙間を縫うように走る。視界に広がっていたよりも教室はずっと広い。
やがて影は前にも後ろにも、横にも迫る。行き場を塞がれていく。

それでも逃げる。
ただ捕まらないように逃げる。

つい先程までこの世に未練などないと思っていたにも関わらず、なぜ逃げようとするのか。
その答えを自分で見いだせないまま足だけが動く。
これが本能というものなのか。

未練など無いが、その結末は自分の手で決めるべきだ。不思議とそう思っていた。
誰かの手によって、ましてや人間ですらない影によって『結末を決められるのは嫌だ』と。

必死に迫りくる黒い影を避けて、逃げて、走り続けた世界は唐突に終わりを迎える。


目覚め。
それは6度目だったか7度目だったか分からない。
夢の世界からの目覚めだ。

今度目覚めた先は夢の中ではなくきちんとした現実だった。
寝起きだというのに息が乱れている。背筋も寒い。

夢の中での死は転生を意味する吉兆だというが、本当のところはどうなのだろう。
何も無い部屋の天井を見つめて私は思った。
『私は、あの黒い影に殺されるべきだったのだろうか』と。

変わらない毎日が嫌だと心のどこかで思っていたのだろうか。
心当たりなど無い。

次に夢の世界であの影たちに出会うことがあれば尋ねてみたい。
『君達は私に何を伝えようとしたんだい?』

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