「地球獣ボコイ」の第三章を発表しました。孤島を命からがら脱出したリョウマ、おいら、ボコイの三人組(?)ですが、すぐにさらなる冒険が待ちかまえています。あのヘソ曲がりのリョウマが他人の好意に素直に甘えているわけがなく、とんでもないことをたくらみ、おいらとボコイはいやおうなく巻き込まれていくことに……。
今回からいわば「北海堂編」。日ノ本の新しい希望の地である北海堂に上陸した彼らは、開拓の拠点として急速に発展する札保呂で思いがけない人物に出会い、それをきっかけに〝ありえないことだが、ひょっとしたらありえたかもしれない〟出来事や人物と遭遇していきます。大まかにでも歴史の知識があれば、ニヤニヤしながらよりいっそう楽しんでいただけると思いますよ。
さて、夏休みに入って、別の方面でも思わぬ展開になってきています。ツイッターに昔からのファンである五十鈴小鈴さんという方が寄せてくださった一通のツイートがきっかけでした。オリジナル小説のデビュー作「聖エルザクルセイダーズ」について、その方がつぎつぎと送ってくれる雑誌掲載時のトビラ絵やレアなイラストに、私が一つ一つコメントをつけていくことになったのです。
連載を始めた当初は、「聖エルザ」が〝小説〟として後に出版されることになるなどということは予想もつかないことでした。同じ『コンプティーク』誌ではすでに水野良氏の「ロードス島戦記」のRPGリプレイという超人気企画がスタートしていて、それと並ぶ形で掲載されていたのです。巻末には前にこのノートでも触れた麻宮騎亜氏によるコミック『神星紀ヴァグランツ』もドンと構えており、同誌のオリジナル創作モノの三番手として両強力企画に対抗していくべく、毎号さまざまに工夫をこらして盛り上げていったものです。(この間の事情やいきさつについては以前の近況ノートもご覧ください)
このところその懐かしいページを一枚一枚くるようにして画像を見て、あれはたしかに雑誌のためにすべてを創り上げ、構築していったものだったのだな、という印象を新たにしています。トビラ絵からイラストの一点一点にいたるまで、私がイメージや意図を語り、細かな指示を出してBP氏に描いてもらっていました。連載が進むにつれ、私の構想を完全に表現するために、トビラに入れる謳い文句や、最終ページの次号予告に当たるハシラのアオリ文句とかも自分で書き、ついにはページの構成まで私が最初に考え、どのような絵柄のイラストをどれだけの大きさと形で入れるかを想定してスペースを確保し、それに合わせて最後に文章を書く、というようなウルトラなことまでやっていました。
今回見直してみると、すでに連載第一回のトビラに「Concept & Script(構想と文): KUROHDO MATSUGAE」と入っているように、そもそもの最初からすべてを私一人の手で構築するという意気込みでいたことがわかります。つまり、作品のアイディアから、脚本、キャスティング、編集まで全部こなす映画監督のようなものを目指していたということでしょう。ですから、文庫本というサイズや定型には収まりきれていない、再現不可能だった部分というのがまだまだ大量に残されているのですね。
文庫版は幸いなことにベストセラーとなり、雑誌掲載時には「ホントに受けているのか?」(なにしろゲーム中心の雑誌だったのでアンケートではいつもさみしい順位だったのです)といつも疑問で不安だったのが解消され、文章が主体の文庫版でしか知らない読者にも大いに受けたことから、逆に自分が小説家としてちゃんと認知されていることもわかりました。しかし、文庫版で「聖エルザ」の魅力がすべて伝えきれているわけではないことを、今回見直してみてあらためて感じています。
偶然のように始まったツイッターの企画は、現在も進行中です。途中から、私を「ラノベの元祖」と評価してくださっている文学研究者の山中智省さんが参加され、五十鈴さんがお持ちの資料では欠けている号などの情報を提供していただけることになり、さらに盛り上がっているところです。
山中さんが第1巻が終わったところまでをツイッターのまとめサイト Togetter にアップしてくださったことから、この企画が大きな注目を浴びていることがわかりました。文庫版に入れられなかった貴重なイラストの数々を見られるのはもちろんのこと、おなじみのものもどのようなシーンでどのように配置され、効果を上げていたかを当時の雰囲気そのままに味わうことができます。どうぞ、そちらのサイトもご覧ください。
追伸: そういえば、Togetter では画像を巨大に拡大して見ることができるのを初めて知りました。BP氏のイラストの細部、ペンタッチまで見てとることができますよ。これはすごい!
Togetter「松枝蔵人『聖エルザクルセイダーズ』回想録①」
検索タグ「コンプティーク」「松枝蔵人」「ライトノベル」「聖エルザクルセイダーズ」
では、つぎの更新まで。