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ボコイを飼う今日このごろ。〜Writer at Work 07/29

「マチウ」揺籃篇の中断と同時にとどこおってしまっていたノートですが、今回「地球獣ボコイ」を開始するにあたり、タイトルを一新して再開することにしました。

 もちろん、「マチウ」を投げ出したわけではなく、ツイッターでも告知したように、執筆にかかるための状況がととのえば、できるだけ早期に取り掛かりたいと熱望しております。「マチウ」に比べればずっとコンパクトな形でまとめられるはずの「ボコイ」をまず仕上げて評価を確立したいということです。

 さて、「ボコイ」のことですが。

〝歴史モノ〟、そして今や明治時代も〝時代モノ〟の範疇に入りそうですが、そういう確立されたジャンルとしての歴史小説や時代小説を書きたいという動機は、たぶん私にはほとんどないと思います(読者としてなら十分興味はありますが)。時代考証的なリアリティや歴史的な定説、常識にもとづいて、そこに新たな観点や人物的魅力を見出していく、というほどの素養もないし、興味もそれほどありません。

 ではなぜ坂本龍馬や明治維新なのかといえば、スチームパンクの発想の根源的な動機である「あの時代にこういうテクノロジーや考え方、そして存在があったら」という〝イフ〟の興味ですね。龍馬や土方歳三が生きていて維新後の勝海舟や西郷隆盛と関わっていったら、というのは歴史的な〝イフ〟だし、蒸気機関や電信が最新のテクノロジーだった当時に常識はずれな威力と火力を有する存在を自由に操れたら、というのはSF的な〝イフ〟だと思うのですが、そういうものを全部ひとつの鍋にぶち込んでごった煮にしてしまったら、いったいどんなものができあがるのだろうか、と。

 まあ、平たくいえばそういう発想です。発想の仕方自体は「ああ、なるほど」と今ならごく自然に受け入れられるものだし、だからこそどうとでも書ける、悪くすればあれやこれやの二番煎じ、三番煎じになってしまう恐れもあります。しかし、ある形式や世界像、雰囲気までを踏襲しないとそれらしく認知されにくくなっているファンタジーなどと比べたら、かえって自由度は高いとも言えそうです。

 歴史的な事柄をあつかうという点では、「歴史苦手だから」と最初から敬遠される向きもあろうかと思いますが、現代的な知識や感性をそのままに別世界へ飛び込んでしまうという異世界転生モノなる形式とはまたちょっとちがって、もっと普遍的で素直な感性が見て、感じていくセンス・オブ・ワンダーの歴史的世界を描きたいと思っています。

 そのために、語り手である「おいら」は、物心ついたときにはすでにリョウマと二人きりで世界じゅうを放浪していた、無垢の感性を持った子どもという設定にしました。数奇な運命を背負って成長した〝異端的存在〟ともいえるでしょうが、だからこそ時代にも文化にも地域性にもとらわれない、公平で自然な眼差しであらゆることを見聞し、経験していくことが可能になるはずです。「おいら」が出会う歴史的人物も、その評価や事績はリョウマが「ああ、あいつはのう……」と乱暴で勝手に決めつける言葉を「おいら」がどう受け取るかで判断すればいいし、出来事は「おいら」が〝リアルに〟感じ、「おいら」なりにとらえることとして認識してもらえばいいのです。

 物語を楽しむうえでさほどの知識を必要としない、ということとは別のことですが、この小説には、私の読書体験から引っぱり出された記憶や作品へのオマージュがさまざまに散りばめられています。捕鯨船に乗ってみたいという衝動は、もちろんメルヴィルの「白鯨」を読んだ記憶によるものですし、孤島でリョウマと「おいら」がする生活は、何回読んだかわからないヴェルヌの「十五少年漂流記」の雰囲気を再現しようとやってみたものです(あ、そうか、その場面はまだ未公開でした!)。

 まあ、歴史的人物や事件といっても、その知識がなければ楽しめなかったり、楽しむうえで邪魔になったりはしないはずだということを承知していただければ結構です。物語にからむ主要な人物については、歴史的な権威や常識を借りたりおもねることなく、ちゃんとキャラらしくエンターテイメントに描写していくつもりです。(歴史をコケにするな、という声は当然あるでしょうが……リンカーンがゾンビと戦ったりする映画もある昨今ですからね)

 歴史モノを書いているというわずらわしさから自分を解放したいという意図もあって、固有名詞は少しずつ改変してあります。「ああ、あの国のことか……」と気がつくのにタイムラグが生じるかもしれませんが、笑って許していただけたら幸いです。もちろん、このまま憶えるとテストで痛い目にあいます。受験生はご注意を。

 ということで、始まった「地球獣ボコイ」ですが、しばらくはストックがあるので順調に発表していけるだろうと思います。例によって、いきなり最後のエピソードに飛んでいく人がいるようですが、そんなにあせる必要はないと思いますよ。それと、「マチウ」の序章でこりたのか、序章を読んでいない人もいますが、そんなに長くも難しくもないはずです。作家はたいがい必要なことを順番に語っていくものですから、物語の大きな前提を知っておくうえでも、ぜひお読みになることをおすすめします。それに、第一章のある場面にそのまま直結する記述もありますから。

 では、また次回の更新まで。

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