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【短編】『母に』

 母の手はいつも荒れていた
 特に中指の先が割れたまま治らなかった
 食器洗いのときには、辛いからと、半透明のベージュ色をした指サックを着けていた

 たまに、食卓の上に母の指サックが置かれていた
 切断された指が落ちているようで、私は気味悪がり、
 見るたびに、母へと文句を言った

「気持ち悪いから、嫌だったら!」

 母は、ごめんねと笑いながら、それをエプロンのポケットに仕舞った

 長じて、大学生になった
 レストランのアルバイトで、皿洗いを行う私の手も荒れるようになった

 お母さん、あのときはごめんなさい
 お皿洗ってくれて、ありがとう

 そう送りたいのだけれど、
 いつもどおり、

「お米届いた 元気にしてるよ」

 としか書けないのだ

1件のコメント

  • これを母に送ったところ、
    薬箱の奥から当時の指サックを掘り出して、

    どうだ、気味悪いだろう!

    と写真付きで送ってきたのだ……

    感慨とかなしかいなぁ!
    直接伝えられない愚かな娘が、ポエティックに愛を伝えてんだぞーー!!!

    と思いきや、
    母も触発されて、短編を書いてみたらしい

    要約すると、
    母も同じく、自身が幼いころに母──私にとっては祖母の足の裏がカサカサだったことを指して、

    お母さんの足の裏は美人じゃないねぇ〜

    とつぶやき、その言葉に祖母は弾けるように大笑いしたという
    祖母はこのエピソードを何度も話し、そのたびに笑った
    私からのLINEによって、今は亡き祖母との話が思い出された、と書かれていた

    短編はこう結ばれる


    娘の可愛い「暴言」も、母親は笑って受け入れる。その昔、私の母がそうしてくれたように、私もまた難なく受け入れることができた。もしかしたら、それが愛というものなのだろうか?その愛がわかるようになるほどに、私も少しは成長できたということだろうか?世代を超えて受け継がれる形にならない心のバトン。

    さて、娘がいつか母親になったとき、同じようなことを幼い子どもに言われて、アハハと笑って受け入れる日が来るのだろうか?それとも……?
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