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第十章「偽りのmademoiselle」について

約2年ぶりの更新となりました。

夏休みとは偉大ですね。人間性を取り戻させてくれます。
改めて、お仕事しながら継続して執筆していらっしゃる方々、本当に尊敬の念でいっぱいです。

早く書き上げないと、私の精神が大人になって、思春期のキリキリした自己否定と自己中心性を忘れてしまう。主人公をやたらと分別ある人間に書いてしまう。



さて、今章のポイントは、千歳と五郎のアイデンティティ・クライシスです。

千歳は、この春から秋にかけての半年間、敬介の切腹や歳三との関係、さらには肺病など、大きなクライシスを経験しています。
ですので、今はアイデンティティの修復中。
自我を押し込めて、歳三にとって良い娘であろうとして、なんとか新しい自分(アイデンティティ)を作っていこうとするのですが、まぁ上手くはいかず 笑。お木綿を引き入れて中和を図るものの、そのお木綿に対してはモラハラDV気質を見せる。未完成な人格に権力を与えたら、こうなりますよ。

それでも、歳三と向き合い、自分の過去と向き合ううちに、少しだけ新しいアイデンティティへの足掛かりを手に入れます。


一方で五郎です。どうも遅めの思春期に入ったらしく、アイデンティティの揺らぎに悩まされています。

今まで優秀な少年として描いてきた五郎ですが、設定としては、際立ってIQが高い方でもありません。110〜115くらいで、国語力特化型。
地道な努力を重ねて、自身の上限ぎりぎりまで能力値を伸ばしてきたタイプですね。
儒学中心の藩校では学年一、二を争う才子でいられたものが、伊東門下となり、学問のステップが政論に進んでからは、学を競う相手のタイプが多様化してきます。

 オールマイティー型:伊東、斯波
 一点特化型:啓之助
 応用力(知識ネットワーク)型:千歳

各タイプ、こんな感じですかね。知識はあって当たり前、さらに何を得意とするかです。
五郎の武器であったはずの国語力(知識獲得能力)だけでは太刀打ちできなくなってきます。

加えて、こだわりなく飄々としている啓之助の方が経験に恵まれ、千歳との親密な様子を感じさせ……ジェラシーなわけです。
千歳に対しては、恋心を抑えつつ学友として扱うのですが、こちらの気も知らない無邪気な態度に苛立ちを覚えたり、二つも歳下の少年に学でも抜かれそうと焦ったり、感情の上下が止まりません。

頑張れ、少年。
人生はアイデンティティ・クライシスとの戦いだと、西洋近代哲学の教授も言ってたよ。



久しぶりにこの時代を書いてみて、やはりおもしろいなと感じています。
2年を隔てて気付いたのですが、私はこれまで、明治維新を「Meiji restoration」の文脈、すなわち王政復古、王朝時代への回帰であったと強く意識して書いていたと思いました。

大化の改新における功績は、蘇我氏を廃して天皇(皇族)親政を確立したこと、行政面では、班田と戸籍の作成による公地公民の試みでしょうか。
明治維新においても、徳川を廃して名目上は天皇に主権のある国家となり、版籍奉還を経て公地公民が復活します。

この回帰を精神的に支えたのが、日本とは何かを明かす国学、それから、天皇こそが日本の中心であると考える尊王論でした。
国学と尊王攘夷論を具体的なエピソードを交えて描きながら、わりと丁寧に扱ってきたのは、人々が精神的に「restoration」を望んでいた結果としての明治維新を描きたかったからだと思います。

幕末って、保守の徳川vs改革の薩長で描かれるけど、薩長を始めとした尊攘派って実際には世紀をまたいだ超保守派だったんだよ、って構図ですね。古事記原理主義というような。

一方で今回からは、もう少し進んで、徳川家を頂点に残したまま近代化を進めていくには、という、徳川視点での改革案を積極的に描いてみました。
読み返してみると、第9章までは、行政改革を口にするキャラクターがほとんどいないんですよ。公武合体頑張っていこう、くらいです。

そこで、いままでは政治哲学とか世界地理とか教養科目に留めていた斯波の知見を、政治面においても解放してみました。
この人、普段は他の隊士の手前、学問第一のノンポリ寄り攘夷論者を装っているんですけど、じつは武家制度を解体した上での徳川による立憲君主制を支持してる設定です。意外と共和制派ではない。
教皇を抱えたまま国土統一を果たしたイタリアが参考国になってきますが、それはまた次章以降、描いていく予定です。
良いですよね、世界史の中の日本史。

さて、今章でプロットは折り返し地点に到達しました。

慶応元年の春〜秋は、怒涛のイベント尽くしでしたが、これからはもう少し、ハイペースに時が進んでいく……予定、なんですけど……まだわかりません。

頑張ります。



お木綿と千歳

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