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【短編】『カルーゼル』

 ブルゴーニュの町外れ、野原にはサーカスが来ていた。パレード、高い八角屋根のテント。夜には花火も上がった。
 カルーゼルもあった。木彫りの白馬、十三騎が上に下にと動きながら、右回りに進む。天井の天使たちはラッパを吹き、玉を連ねた電球は赤々と照る。軋む木の音と、か細いオルゴール。

 朝刊の一面には、オーストリア=ハンガリーがセルビアに宣戦布告したとあった。今に戦争が始まる。
 夏の盛り。次を約さぬランデ・ヴー。彼は私を白馬に乗せて、自身は握り棒に手を添えながら、私を見上げる。徴兵されゆく彼。

 カルーゼルは戦火を免れなかった。彼もまた。
 今でも思い出す。夏の夜、浮かんでは沈み、巡る景色。軋む木とオルゴール。揺れる焦茶の瞳。

2件のコメント

  • 詩的な一篇ですね。
    カルーゼルの名を冠した凱旋門があることを考えると、皮肉と捉えられるかもしれませんし。

    面白かったです。

  • あ、カルーゼルってあのカルーゼル凱旋門の!
    深夜に書き上げた一篇だったので、全く頭が回っていませんでした
    お恥ずかしい……

    ありがとうございました
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