小説じゃないんですけど、久々に夢中になって読んだので、この面白さを誰かに伝えたい!
ということで、お勧め本をご紹介します。
『バンヴァードの阿房宮-世界を変えなかった十三人-』
著:ポール・コリンズ
訳:山田和子
出版年月日:2014/08/01
出版社:白水社
帯に「その時、歴史は動かなかった!」とあります。
まさにまさに。
これは、一世を風靡しながら凋落し、後世には跡形も残らなかった希代の天才たちの伝記集。
十三人も紹介しているので、一人一人のエピソードは薄いんじゃないかと思うでしょう?
侮るなかれ。
一人一人が「これでもか!」ってくらい濃密に深掘りされていて、眩暈がするほど面白いです。
たとえば表題作で紹介されているジョン・バンヴァード。
絵画史上初の億万長者になった画家なんですって。ご存知ですか?
彼の少年期、まず画家としての仕事を始めるまでの紆余曲折が、波乱万丈過ぎて、これだけで本一冊読んだ満足度。
やることなすこと、とんでもなく天才的で、息を吞むようなアイデアを次から次へと繰り出し、しかも絵の腕は超一流なんです。
なのに跡形も残らなかった!
人生の悲哀を思い知らされます。
でもそれ以上に血沸き肉躍らせてくれるのが、「何も持たずに出発した一人の人間に、これだけのことができるんだ……!」という、人間の可能性への飽くなき希望を感じさせてくれるところ。
もう、凄まじいです。今のように便利な道具なんて何もなかった時代、彼らは信じられない情熱で、想像を絶する量の仕事をこなしていました。しかも誹謗中傷を浴びたり、食うや食わずの生活に陥ったりしながら。
一体私は安楽な生活を送りながら何をしているのかと、思わず我が身を振り返ってしまいます。
こんな密度の人物紹介が13人分。
それがたったの3960円。
超☆お得です。まあ別に図書館でもいいです。ご興味ある方はぜひ読んでみてください。手元に置きたくなること間違いなし!
(白水社および著者の回し者ではございません。)
著者の情熱と博識さ、そして文章構成の上手さに拍手を送りたいのはもちろん、この本は訳の上手さにもすごく助けられていると感じます。
一昔前によくあった、日本語としてはちょっと奇妙な言い回しなんかが全くなくて、スッと入ってくるんです。
専門用語や脱線、前置き的な本編に関係ない話、ちょっと情緒的に人物を語るところなど、結構あらゆる表現が詰め込まれていると思うのですが、全てがわかりやすく、かつ、どこか品格のある日本語の文章で過不足なく語られます。
翻訳者さんのあとがきを読むと、私が思った感想とまったく同じことを述べられていたりして、ちょっと嬉しくなったり。
それは、原文から受けた印象をまんま日本の読者に伝えることができるという、翻訳者さんの素晴らしい技量のお陰なのだと、改めて感じ入りました。
とはいえ余談ですが、私は一昔前の、現代人から見るとちょっと奇妙な響きに感じられる翻訳文も、すごく好きなんです。
わざとそういう文体で書くことも結構あります。
例↓
<ただあるものといえば、たまねぎひと束だけ、それだってちゃんと鍵をかけた屋根裏部屋に置いてあるのでございます。このたまねぎの束から、わたくしは食糧として、四日ごとに一個ずつあてがわれておりましたが、そのくせ、わたくしがそれを取りに行こうと、彼に鍵を貸してもらう時、誰かそこに人がいたりすると、彼は内かくしに手をつっこんで、おそろしくもったいぶって鍵をはずして、それをわたくしに渡しながら、こう申したものでございます。
「さあお取り、しかしすぐ返すんだよ。何はともあれ、うまいものだけは、たらふく食うんだね」
これではまるでこの鍵のもとにバレンシアの珍味佳肴でも保管してあるようでございますが、その実(後略)>
(『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』会田由訳、岩波文庫、P43より抜粋)
いやあ、これはこれで、古めかしくってすっごく良くないですか?
話が逸れましたが、『バンヴァードの阿房宮-世界を変えなかった十三人-』、創作者にとってネタの宝庫でもありました。
こういう本がバンバン売れてくれると同類の本が出版されて私が喜ぶので、ネタ的には隠しておきたいところですが、ご紹介しちゃいますよ~。
集え同好の士!(´∀`*)ウフフ